接ぎ木 / Grafting (Asexual Reproduction)
接ぎ木(クローン苗生産)
種まきで増やすのが基本のコーヒーだが、F1ハイブリッド品種だけは種から育てると形質が安定しない。そこで使われるのが「接ぎ木」——親株の枝(穂木)を、線虫や乾燥に強いロブスタの根(台木)に接合し、クローンとして増やす無性繁殖の手法。苗木の生育で扱った種子由来の苗とは別の生産ルートにあたる。
01
なぜ接ぎ木が必要なのか
SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 3, Section A
アラビカ種は本来、自家受粉する自殖性植物で、種から増やすのが基本。しかしF1ハイブリッド品種はヘテロ接合(両親由来の遺伝子が均一でない)な遺伝構造を持つため、種を蒔いて育てても親と同じ形質にならない。WCRの資料は、F1ハイブリッドを遺伝的に均一なまま増やす無性繁殖の方法として次の4つを挙げ、このうち「接ぎ木」が投資コストが最も低く、最も一般的な手法だとしている。
In vitro
組織培養(in vitro)
母樹の分裂組織(メリステム)を無菌環境下で導入し、試験管内で増殖させて新芽を作る手法。
Somatic embryogenesis
体細胞胚発生
母樹のわずかな葉片から数百万個のクローン苗を得られる先端技術。大規模な複製が可能だが、高度な設備を持つナーサリーが必要。
Mini-cutting
挿し木(ミニカッティング)
母樹から採った挿し穂を園芸トレーや発芽器で発根させる手法。低コスト・低技術で行えるが、母樹1本あたりの年間増殖数には限りがある。
Grafting(本ページで解説)
接ぎ木
母樹から採った穂木を、ロブスタの台木に接合する手法。投資額が少なく最も一般的。標高1,000m未満などアラビカが適応しにくい低地や、線虫の被害地域向けに、ロブスタ台木の乾燥耐性・線虫耐性を接ぎ穂に付与できる。
02
台木(ロブスタ)の準備
SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 3, Section B
台木にはネマトーダ(線虫)耐性と強い根系を持つCoffea canephora(ロブスタ種)が使われる。種由来の台木の場合、ロブスタの茎は穂木品種より生育が遅いため、接ぎ木の時点で両者の茎の直径を揃えるために、穂木品種より2週間早く植える。台木は収穫時と定植前の2回、二股根・短根・病原体による損傷根などの不良個体を選別・除外する。
03
穂木(バド)の採取と衛生管理
SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 3, Section C
穂木は温室で育てる母樹から採取する。作業者にはシャワー・清潔な衣服・使い捨て手袋・作業着の着用など、厳格な衛生プロトコルが定められている。穂木は最低3cmの組織を残して切り取り、そこから2〜2.5cmの接ぎ穂を作る(接触面が長いほど活着率が高い)。刃物は一回切るごとに消毒(例:ヨウ素4cc/L溶液)する。
保管条件。 切り取った穂木は最長1日のみ保管可能。保管温度18〜20℃、湿度90%以上を保ち、乾燥を防ぐため水を吹きかけて布や遮光材で直射日光を避ける。
04
接ぎ木の工程
SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 3, Section D
STEP 1
台木を切る
消毒した刃物で台木上部(葉と芽)を切り落とし、少なくとも2.5cmの縦の切り込みを入れる。
STEP 2
穂木を切る
状態の良い穂木(または発芽苗)を選び、刃物を消毒した上で、台木と同じ長さの縦の切り込みを入れる。
STEP 3
接合し、パラフィルムで固定する
むき出しの組織に触れないよう素早く台木と穂木を接合し、下から上へパラフィルムを巻いて固定する。テープの幅は13mmを超えないようにし、締めすぎて接合部を絞扼しないよう注意する。
STEP 4
記録・定植
完成した接ぎ木苗は水を吹きかけてから、基質ブロックや苗床に定植する。トレーには品種・接ぎ木日・ロット・作業者名などトレーサビリティ情報を記録する。
作業者の習熟度。 WCRの資料によれば、初心者は1日50〜100本のペースから始まり、2〜4週間の経験を積むと1日250〜400本、熟練者では1日800本まで作業できるようになるとされる。
05
順化(アクリマタイゼーション)
SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 3, Section F
Primary source figures
湿度90%以上・温度26〜30℃で2〜6週間
接ぎ木が終わった苗は「順化トンネル」と呼ばれる密閉された環境に移される。トンネル内は薄い白色ビニールで覆われ、光を拡散させつつ湿度90%以上・温度26〜30℃を保つよう、内部にネブライザー式の灌水システムが設置される。2〜6週間の順化期間を経て、活着率(生存している接ぎ木の割合)を数えて最終的な在庫確認を行う。
06
接ぎ木苗の定植方法(3段階)
SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 3, Section E
接合が終わった苗をどこに定植するかは、ナーサリー経営者の資金力に応じて3段階に分かれる。いずれの方式でも共通する手順として、作業者はまず第四級アンモニウム塩で手指を消毒し、苗の根を発根促進剤(IBA溶液)に10秒間浸してから、深さ5.5〜6cmの穴に植え付ける。根がまっすぐ伸びるよう穴の側面から基質を寄せ、上から押し固めて根を曲げないよう注意する。
Gold level
基質ブロック定植
不活性基質(インナート)で作られたブロックに直接定植する方式。順化エリアへ移した後、2〜6週間で活着数を最終確認する。
長所:個体の取り扱いが容易・移動時の根の損傷が少ない・在庫管理がしやすい・市場にサイズ違いの製品がある・ブロックサイズに応じて機械充填が可能で労働力を抑えられる・生分解性ブロックならプラスチック回収が不要。
短所:機械導入コストが高い・中南米では入手性が低く輸入が必要。
Silver level
トレー定植(消毒済み基質)
事前に消毒した基質をトレーに詰める方式。詰めすぎて基質を圧縮しないよう注意する。手順(消毒・IBA処理・穴あけ・定植・順化)はゴールドレベルと同じ。
Bronze level
苗床(ベッド)定植
消毒済み基質を用いた苗床に、株間5cm×5cmの間隔で穴をあけて定植する。順化トンネル内でビニールシートをかけ、2〜6週間後に活着を確認したうえで、苗床からバッグ/チューベットへ移植する。コストは最も低いが、ゴールド・シルバーレベルより死苗率が明確に高いとされる。
定植時の重要管理点(資料の「Critical Points」表より)。 消毒済みの不活性基質を使うこと/衛生プロトコルを守ること/根がまっすぐ保てる深さの穴をあけること/根元の空気を抜くため基質は側面から寄せる(上から押し込むと主根が曲がるため厳禁)/定植後は速やかに順化トンネルへ移すこと。
07
今後追加すべき項目
- 体細胞胚発生・組織培養(in vitro)の詳細手順 — 本ガイド自体が「投資コストが高いため、本ガイドでは接ぎ木のみを扱う」と明記しており、この2手法の作業手順は同ガイドにも記載がない(資料そのものに存在しない情報と確認済み)。手順を書くにはWCR以外の一次資料を新たに探す必要がある。
- World Coffee Research「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」(2022年6月15日更新)Module 3 - Asexual Reproduction, Section A「Asexual Reproduction (Vegetative Propagation)」(無性繁殖4手法の比較)
- 同上 Section B「Preparing Rootstocks」(台木の準備・選別基準)
- 同上 Section C「Handling Mother Plants to Obtain Buds, Guides, Scions」(穂木の採取・衛生プロトコル・保管条件)
- 同上 Section D「Grafting」(接ぎ木の工程・作業者の習熟度)
- 同上 Section F「Acclimatization」(順化トンネルの温湿度管理)
- 同上 Section E「Planting Grafts」(基質ブロック/トレー/苗床の3方式の手順・長所短所)