HACHIMARU COFFEE ROASTERY
種まき / Sowing & Germination

種まき

苗床(発芽床)に種を蒔き、発芽させる工程。コーヒーの木を育てる最初の一歩であり、苗床の作り方・浸水(imbibition)・覆土の厚さといった細かい管理の積み重ねが、その後の発芽率と苗の健全さを左右する。「コーヒーができるまで」の全体像では、栽培フェーズの最初のステップにあたる。

01

そもそも「まく種」はどこから来るのか

SOURCE: World Coffee Research「Good Practice Guide: Coffee Seed Production」

種まきの話に入る前に、その種自体がどう作られるかに触れておく。コーヒーの種は、選抜された「母樹」(種を採るためだけに植えられた木)から採取される。WCRの資料は、この母樹の遺伝的純度を「均一(バラつきが最小限)で、かつ安定(世代を超えて特性が受け継がれる)な、同一品種の集団」と定義している。

なぜ純度が問題になるのか。 多くの生産国では、種や苗が「トレーサビリティなし」で流通しているのが実情だとWCRは指摘する。他品種との交雑を防ぐため、同資料では母樹を植える区画を他品種から最低500m(ゴールドレベル)〜200m(シルバーレベル)離すことを推奨。純度が保たれない場合、病気への弱さ・収量低下・木の寿命短縮につながるとされる。
02

苗床(発芽床)を作る

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 2

種を蒔く前に、苗床そのものを正しく作ることが前提になる。WCRの資料は、苗床の寸法・構造・土壌(培地)の3点について具体的な基準を示している。

Bed size
苗床の寸法
幅は125cm以内。作業者が苗床の隅々まで手を届かせるための上限とされる。深さは最低20cm。地面に直接置く場合は、下に穴あきビニールシートを敷いて土壌からの汚染・病害を遮断する。
Substrate layers
培地の層構造
底に厚さ5cmの火山砂(粒径1mm、消毒済み)を敷き、1日置いてから、その上に「ピートモス50%+砂50%」の混合培地(または砂のみ)を厚さ10cmで重ねる。砂は粗すぎても細かすぎてもいけず、根の発育と水分保持のバランスが必要とされる。
培地の衛生管理。 培地の消毒不足は、コーヒーの苗床における主要な病害(後述するRhizoctonia solani・Fusarium spp・Pythium spp)の主な発生源だとWCRは指摘する。培地は病害や有機物の混入がないよう、篩い分け・洗浄した上で使用することが推奨されている。
03

種まきの手順

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 2, Section D

WCRの資料は、種まき前日の準備から、種まき当日の作業までを具体的な手順として示している。

STEP 1 — 前日の浸水(imbibition)
種の水分値を確認し、必要なら水に浸す
種まきの前日に種の水分値をチェックする。水分値が20%以下なら、少なくとも12時間水に浸して吸水させる(この吸水処理を「imbibition」と呼ぶ)。20%を超える場合は4時間の浸水で足りる。水にはアミノ酸を加えると発芽を促進する効果があるとされる。浸水後、水面に浮いた種は発芽率が低いため取り除く。
STEP 2 — 種まき当日
培地に均一に種を置き、覆土する
湿らせた培地の上に、種をランダムかつ均一に配置する。その後、培地と砂を50%ずつ混ぜたもので覆土する。覆土の厚さは5〜7mmが推奨値。厚すぎると発芽が遅れ・不揃いになり、薄すぎると種が乾燥して発芽しなくなる。病気の伝播を防ぐため、種は連続した帯状ではなく、5cm程度の間隔を空けた不連続な列に蒔くことも有効とされる。
STEP 3 — 灌水とマイクロトンネル
水を与え、白いビニールで覆う
覆土後、苗床全体に水を与える。仕上げに白いビニールシートを「マイクロトンネル」状に被せる。このシートは保温と発芽促進、培地の乾燥防止の役割を持つ。設置は最初の3週間ほどで、発芽した苗が見え始めた時点で取り外す。最適な採光レベルは20〜40%とされる。
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発芽までの日数と密度

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 2, Section E
Primary source figures
約20日で発根、約30日で「発芽が確定」
WCRの資料によれば、種まきから約20日で最初の幼根(radicle)が現れ始める(培地を数か所めくって確認する)。約30日後には、胚軸(hypocotyl)の伸長によって種が培地から持ち上がった状態になり、この時点で「発芽が確定した」とみなされる。発芽が遅れる・起きない場合の主な原因として、種の水分値が低すぎること、培地の水分管理不足、病原菌による腐敗、気候条件の不適合、種自体の古さが挙げられている。

播種密度は1平方メートルあたり種1〜1.5kgが目安とされ、これによりおおよそ3,500本の生育可能な苗が得られるという。種まき後の灌水はミスト状の散水が理想(ゴールドレベル)、なければ弱めのスプリンクラーやホースでの散水(シルバーレベル)で代替する。培地の水分値はおよそ18%を保つことが推奨されている。

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病害虫リスクと消毒

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 2, Section E

苗床における主な病害はRhizoctonia solani・Fusarium spp・Pythium sppの3種で、いずれも「damping off(苗の立ち枯れ)」の原因になるとされる。WCRは、発芽段階から苗の収穫までの間、7日おきに接触性殺菌剤(ストロビルリン系・カーバメート系・銅系)を予防的に散布することを推奨する一方、トリアゾール系は苗に薬害を起こしやすいため避けるべきとしている。生物的防除としてTrichoderma sppの週次散布も併用可能。人の手・靴・道具が主な感染経路になるため、苗床に入る際の手洗い・靴の消毒も欠かせない管理項目として挙げられている。

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今後追加すべき項目

  1. World Coffee Research「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」(2022年6月15日更新)Module 2 - Sexual Reproduction, Section B「Characteristics of Propagation by Seed」(苗床の構造・寸法)
  2. 同上 Section D「Planting Seeds」(種まきの手順・浸水・覆土・密度)
  3. 同上 Section E「Handling Germinators」(発芽日数・灌水・病害虫対策)
  4. World Coffee Research「Good Practice Guide: Coffee Seed Production」(2019年11月11日発行)Module 1, Section A「Purchase and Genetic Conformity」(遺伝的純度・母樹の隔離基準)