HACHIMARU COFFEE ROASTERY
苗木の生育 / Seedling & Nursery Growth

苗木の生育

発芽した苗を苗床からポットやチューブに移植し、苗木として育てる工程。種まきで発芽させた苗はここでナーサリー(苗木育成場)に移され、出荷できる大きさに育つまで、根・栄養・病害虫の管理を受ける。「コーヒーができるまで」の全体像では、種まきに続く栽培フェーズの2番目のステップにあたる。

01

苗床から容器への移植

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 2, Section F

苗床(発芽床)で発芽が確認された苗は、平らな刃物で培地をほぐしながら、主根を傷つけないよう首の部分を持って丁寧に取り出される。取り出した苗はポットやチューブ(tubette)に移植され、ここから本格的な生育が始まる。WCRの資料は、移植に適した苗の条件と、除外すべき不良な苗の特徴を具体的に挙げている。

移植に適した苗の条件
  • 健全で、病気の兆候がない
  • まっすぐな胚軸(茎)
  • 側根を伴う、大きくまっすぐな主根
  • サイズごとに選別されている
除外すべき不良な根の特徴
  • 二重根(Double root)
  • 細く毛のない根(Small, hairless root)
  • 二股に分かれた根(Forked root)
移植までの保管。 取り出した苗の保管期間は最長2日、保管温度は18〜20℃が目安。乾燥を防ぐため、密閉容器に入れ直射日光を避け、濡らした紙タオルで根を保湿したり、苗の脱水を抑えるためケイ酸カリウムを散布することもあるとWCRの資料は記している。
02

容器の中で育てる:pHと電気伝導度(EC)の管理

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 4, Section A

ポット・チューブに移された苗は、出荷できるサイズになるまで栄養管理を受ける。WCRの資料は、栄養吸収を左右する2つの指標としてpH(酸性・アルカリ性)と電気伝導度EC(塩類濃度)を挙げている。

pH
推奨範囲:5.4〜6.8
pHが適正範囲を外れると、必要な栄養素を与えていても根が吸収できなくなる。強酸性では窒素・カリウム・カルシウム・マグネシウムの欠乏が、高アルカリ性では鉄・リン・マンガン・亜鉛・銅の吸収低下が起きるとされる。
EC(電気伝導度)
コーヒーでは0.5〜3.0mS/cmが正常範囲
ECは培地中の塩類濃度の指標。理想的にはより低い値(0.5mS/cm未満)が望ましいとされつつ、コーヒーの場合は0.5〜3.0mS/cmが正常範囲とWCRは記している。ECが高すぎると根に薬害(フィトトキシシティ)が出やすくなる。

主要栄養素(マクロ)は窒素(N)・リン(P)・カリウム(K)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)・硫黄(S)の6つで、微量栄養素(ミクロ)は鉄(Fe)・マンガン(Mn)・銅(Cu)・亜鉛(Zn)・ホウ素(B)・塩素(Cl)・モリブデン(Mo)。特に窒素は新芽の伸長・緑色の維持など栄養成長に、リンは根の発達に、カリウムは組織の硬化に、それぞれ重要な役割を持つとされる。具体的な施肥スケジュールは、育苗方式(基質+チューブ/基質+土壌バッグ/土壌バッグのみ)ごとに異なる配合・頻度がWCRの資料内に一覧表として示されている。

03

病害虫管理:IPM(総合的病害虫管理)

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 4, Section B

WCRの資料は、単一の対策に頼らず複数の管理手法を組み合わせる「IPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫管理)」の考え方を紹介している。害虫・病気の発生が「経済的被害許容水準(economic threshold)」——対策コストより被害額の方が大きくなる水準——を超えたときに防除を行うのが基本的な判断軸とされる。

Cultural
文化的防除
病害虫の蔓延を防ぐ栽培管理。例:コーヒーベリーボーラー対策として、地面に落ちた豆も含め全て収穫する。
Physical
物理的防除
トラップや防虫ネットなど、直接的な物理的除去・遮断による対策。
Biological
生物的防除
害虫の天敵(捕食者・病原体・寄生者)を利用する。例:コーヒーベリーボーラーに対する昆虫病原性真菌の利用。
Phytogenetic
植物遺伝的防除
特定の病害虫に耐性・抵抗性を持つ品種を利用する。例:さび病や線虫に耐性を持つ品種の植栽。
Chemical
化学的防除
農薬による防除。単独での使用は推奨されず、同じ薬剤の継続使用は耐性発現のリスクがあるとされる。
道具の消毒。 剪定・除草に使う道具(シャベル・ノコギリ・鉈など)を定期的に消毒しないと、Fusarium spp・Rhizoctonia solaniなどの病害を広げる感染経路になるとWCRは注意を促している。新しく持ち込む苗・余剰木も、線虫やMyrothecium等がないか必ず検査すべきとされる。
04

出荷前のチェック項目

SOURCE: WCR「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」Module 4
Primary source checklist
出荷前に確認すべき5項目
(1) 遺伝的純度が保たれている、(2) 病気・害虫がない、(3) 地上部・根とも良好な発育、(4) 栄養欠乏症状がない、(5) 根・茎・葉のバランスが適正——の5点をWCRは出荷前チェックの基準として挙げている。さらに、苗は畑までの輸送に耐えられるよう「100%の水分保持状態」で出荷することが望ましいとされる。
05

今後追加すべき項目

  1. World Coffee Research「Good Practice Guide: Coffee Nursery Management」(2022年6月15日更新)Module 2 - Sexual Reproduction, Section F「Preparing Seedlings/Germinated Seeds」(苗の選別・保管)
  2. 同上 Module 4 - Nursery Management, Section A「Fertilization」(pH・EC・マクロ/ミクロ栄養素)
  3. 同上 Section B「Disease and Pest Management in Nurseries」(IPMの5分類・経済的被害許容水準)
  4. 同上「What to Check Before Selling Plants」(出荷前チェック項目)