HACHIMARU COFFEE ROASTERY
焙煎 / Roaster Types

焙煎機の方式Machine Types

「焙煎機」とひとくくりに言っても、豆をどう温めるかは機種によってまったく違う。この違いを整理する軸は1つではない——熱の伝わり方(伝導・対流・放射)という軸と、攪拌のしくみ(ドラム式・フルイドベッド式など)という軸は、別々に存在する。カナダ・グエルフ大学の博士論文(2014年)が整理した分類表と、業界で実際に使われている加熱源の呼び分け(直火式・半直火式・熱風式)を、一次資料から確認する。

現在主流の伝熱
対流
最も普及した構造
ドラム式
エア・トゥ・ビーン比
1〜150
共通する3要素
容器・攪拌・熱制御
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どんな焙煎機にも共通する3つの要素

SOURCE: Wang(2014)University of Guelph 博士論文

焙煎機は、豆と熱い気体を接触させて焙煎を進める装置である。方式は多様だが、現在成功しているすべての工程技術は3つの基本要素を必要とする——カナダ・グエルフ大学の博士論文(食品科学、指導教員 Loong-Tak Lim)はそう整理している。

要素役割
①容器(containment chamber)豆と熱源を閉じ込める空間
②攪拌装置(mixing device)豆全体が均一に熱を受けるようにする
③熱制御(control of heat transfer)温度・時間をコントロールする
攪拌の目的は「均一さ」と「焦げ防止」。 論文は機械的な攪拌の主な役割を「均一な焙煎の達成」と「豆の焦げ付き防止」の2つとしている。豆の動かし方は、ドラムなどの機械的な回転によるものと、焙煎用気体の流れによるものの、大きく2通りがある。
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軸①:熱の伝わり方——伝導・対流・放射

SOURCE: 同博士論文 Table 1.4/Fadai et al. 2016

熱の伝わり方には、物理学の教科書どおり伝導(conduction)・対流(convection)・放射(radiation)の3種類がある。論文はこう述べている。

Primary source quote
焙煎機は一般に3種類の熱伝達すべてを含んでいるが、全体の熱伝達に占める相対的な寄与は焙煎機によって大きく異なる。対流は、現在の業界の焙煎技術において支配的である。
Wang(2014)University of Guelph 博士論文 Table 1.4より(当サイトによる訳)。

この軸を、実際の焙煎機の比較で確かめた研究もある。英オックスフォード大学の数理研究所と、大手コーヒー企業(Jacobs Douwe Egberts)の共同研究チームによる伝熱モデルの論文は、ドラム式とフルイドベッド式を、この軸の両端として明確に位置づけている

方式主な伝熱原典の表現
ドラム式伝導が中心「豆どうしの接触、あるいは投入口と豆の接触による伝導で熱が伝わる」
フルイドベッド式対流のみ「豆はチャンバー内で浮遊し、この焙煎機での主な伝熱機構は対流である」
⚠️ 「主に」であって「純粋に」ではない。 Wangの博士論文も「多くの焙煎機はすべての伝熱様式を含む」と述べており、実際のドラム式焙煎機には熱風の吹き込みによる対流も併存する(→ドラム式のページ)。2つの軸(伝熱方式と機械構造)は重なりつつも別物——ここが分類を分かりにくくしている点である。
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軸②:機械の仕組み——ドラム式からパックドベッド式まで

SOURCE: Wang(2014)博士論文 Table 1.4・1.5

同論文は、製品の流れ方(バッチ式/連続式)機械的な原理という2つの分類軸も示している。機械的な原理では、少なくとも6種類が業界で使われてきたという。

構造攪拌の方式備考
水平ドラム式回転する水平ドラム。無孔/有孔の2種業界で群を抜いて最も普及。有孔ドラムは対流が増える。バッチ式・連続式の両方がある
垂直固定ドラム式静止したチャンバー内で羽根・パドルが攪拌主な伝熱は熱風の対流。常にバッチ式
回転ボウル式遠心力でボウル周縁に豆を運び、螺旋状に中心へ戻す非常に効率のよい攪拌とされる
フルイドベッド式熱風が豆を直接浮遊させる高い熱伝達で焙煎が速い。バッチ式
スパウテッドベッド式熱風が豆を一定の流動パターンで動かすフルイドベッド式と違い全ての豆を均等に浮遊させないため、必要な熱風量が少ない
パックドベッド式円錐チャンバーに接線方向から熱風を入れ、豆の渦を作る厚さ30〜50mmの「詰まった床」を高速で加熱。ロースト・サイクルの短縮を狙う
⭐ 「大規模・連続式」から「小規模・バッチ式」への流れ。 論文は「大規模な水平ドラム式は連続運転が可能だが、コーヒー製品の多様化への需要増加を受けて、バッチ焙煎向けの小型ドラム焙煎機の使用が増える傾向にある」と述べ、その要因として時間・温度制御の高度化を挙げている。→焙煎機の規模のページ
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軸③:加熱源——直火式・半直火式・熱風式

SOURCE: 米国特許 US10,172,382 B2(背景技術)

日本の焙煎業界でよく使われる「直火式」「半熱風式」「熱風式」という呼び分けにもっとも近い分類は、米国特許商標庁(USPTO)に登録された特許の背景技術セクションに見つかる。焙煎機を発明した個人発明家が、自らの発明の前提として、既存の焙煎機を3種類に整理したものである。

方式原典の説明(当サイト訳)
直火式
(direct-flame)
ドラム内の豆が炎で直接加熱されるため、焙煎された豆は部分的に焦げるか、完全に燃えてしまう傾向がある
半直火式
(half direct-flame)
ドラム表面に炎と接する穴はなく、側面の小さな穴から熱風を導入して金属ドラムを介した伝導を補い、豆をより均一に焙煎する
熱風式
(hot-air)
高温の空気を豆に吹きつける。対流による非常に効果的な熱伝達が特徴だが、大量の空気を加熱する必要があるため消費電力が大きい
⚠️ 出典の性格について、正直に書いておく。 この分類は査読付き学術論文ではなく、米国特許(US10,172,382 B2、発明者 Ching-Cheng Cheng、2015年出願・2019年登録)の背景技術セクションからの引用である。特許の背景技術は、出願人が自分の発明の新規性を説明するために業界の既存技術を要約した文章であり、学術的な査読を経たものではない。それでも、日本の焙煎業界で使われる「直火・半熱風・熱風」という呼び分けと対応する具体的な技術文書として、当サイトが確認できた最も近いものである。
02・03章の軸との関係。 この「加熱源」の軸は、02章の「伝熱方式」(伝導・対流・放射)と重なる部分が大きい——直火式は放射+伝導、熱風式は対流に近い。03章の「機械構造」(ドラム式かフルイドベッド式か)とも独立した軸である点に注意したい。ドラム式の中に直火式・半直火式・熱風式のバリエーションが存在しうる、という整理になる。
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「エア・トゥ・ビーン比」という指標

SOURCE: Wang(2014)博士論文 Table 1.4

Wangの博士論文は、焙煎機を特徴づけるもう1つの数値指標として「エア・トゥ・ビーン比(air to bean ratio)」を挙げている。生豆1kgあたり、何kgの熱風を使うかという比率である。

Primary source quote
この比率は、典型的な従来型工程での1から、完全なフルイドベッド式システムでの150まで幅がある。
Wang(2014)博士論文 Table 1.4より(当サイトによる訳)。「この比率は焙煎工程を特徴づけるパラメーターであり、焙煎度に依存する」と付記されている。
⭐ 「熱風式ほど、大量の空気を使う」ことの裏づけ。 04章で熱風式が「消費電力が大きい」とされていたのは、この比率の高さで説明がつく。従来型の1に対しフルイドベッド式は最大150倍——同じ量の豆を焙煎するのに動かす空気の量がまったく違う、という定量的な裏づけになっている。
⭐ エア・トゥ・ビーン比が低いほど、カップ品質は良くなる——Schenker(2000, ETHチューリッヒ博士論文)の知見。 2026年8月27日、当サイトが長年アクセスできなかったSchenkerの2000年博士論文(Diss. ETH No. 13620「Investigations on the hot air roasting of coffee beans」)の本文(Summary章)を、ETH Zurich Research Collectionの新しい恒久リンクで確認できた。論文は「エア・トゥ・ビーン比が低いほどカップ品質は優れ、過剰な風量は淡く・くすんだ・平坦な官能特性の製品につながった」と報告している。理由として、風量が少ないほど香気成分の物理的な飛散(アロマストリッピング)と酸素との過剰接触を防ぎ、豆を包む「微気候」を作れるためではないかと論文は推測している。
同じ焙煎度でも、高温で焙煎した豆のほうが多孔質になる。 同論文はさらに、「同じ焙煎度であっても、高温で焙煎した豆は低温で焙煎した豆より、豆の体積・累積細孔容積・細胞壁のミクロ孔が大きい」と報告している。この多孔質さは物質移動(酸素や水分の出入り)を早め、劣化(staling)を早めると考えられるとしている。中程度の焙煎時間(中煎りで6分以上が目安)・低いエア・トゥ・ビーン比・伝導伝熱の比率を高めることが、香味の強さと保存性を両立させる方向として推奨されている。
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今後追加すべき項目

  1. Wang, X.「Understanding the Formation of CO2 and Its Degassing Behaviours in Coffee」University of Guelph 博士論文(Food Science, 指導教員 Loong-Tak Lim, 2014年5月)Section 1.2.3「Roasters」(Table 1.4・1.5) — 焙煎機に共通する3要素、伝熱方式の分類、機械構造6種、エア・トゥ・ビーン比。University of Guelph Atrium(機関リポジトリ)でオープンアクセス版の本文を確認(2026年8月25日取得)
  2. Fadai, N.T., Melrose, J., Please, C.P., Schulman, A., Van Gorder, R.A.「A heat and mass transfer study of coffee bean roasting」International Journal of Heat and Mass Transfer(Preprint, 2016年7月30日提出)— ドラム式(伝導中心)とフルイドベッド式(対流のみ)の対比。著者所属:オックスフォード大学数理研究所、Jacobs Douwe Egberts R&D UK。Oxford University Research Archive(ORA)でオープンアクセス版の本文を確認(2026年8月25日取得)
  3. 米国特許 US10,172,382 B2「Bean roasting device」(発明者:Ching-Cheng Cheng、出願日2015年8月11日、登録日2019年1月8日)背景技術セクション — 直火式・半直火式・熱風式の分類。Google Patentsで本文確認(2026年8月25日取得)。学術的な査読を経た資料ではない点は04章に開示。
  4. Schenker, S.「Investigations on the hot air roasting of coffee beans」ETHチューリッヒ博士論文(Diss. ETH No. 13620、2000年、DOI: 10.3929/ethz-a-003889071)— エア・トゥ・ビーン比とカップ品質の関係、焙煎温度と豆の多孔質構造の関係。ETH Zurich Research Collectionでオープンアクセス版のSummary章を確認(2026年8月27日取得、本編は未確認)