SOURCE: Anokye-Bempah et al., Scientific Reports(2025)
2025年7月にScientific Reports誌に発表された、UC Davis Coffee Centerの研究チームによる論文「A universal color curve for roasted arabica coffee」は、焙煎の進行度合いを色(CIELAB表色系のL*値=明度、0が黒・100が白)で定量的に追跡している。焙煎中に豆が通過する3つの目安(色づき/1ハゼ/2ハゼ)について、7種類の異なる焙煎プロファイル・3つの異なる産地の生豆(ウガンダ・シピ滝のウォッシュド、インドネシア・スマトラのウォッシュド、エルサルバドルのハニープロセス)を使った実験でも、驚くほど近い数値に収束することを示した。
01章で紹介したUC Davis Coffee Centerの研究は、Coffee Science Foundation(SCAの研究助成組織)の支援を受けたもので、その狙いは論文自身が明記している——「Agtronの商業スケールで40と評価されたコーヒーが、他の測定機器では同じ数値にならないことがある」という、測定機器間の不整合の解消にある。この研究成果を踏まえ、SCAは2025年10月30日付で白書「Developing Roast Color Standards for the Specialty Coffee Industry」を発表し、可視光測定に基づく新しいロースト・カラー標準の策定を進めていると、複数の業界メディア(Daily Coffee News等)が報じている。2025年末に専門家によるレビュー、2026年にStandard Development Panelでのレビューを予定しているという。
A slow roast has the effect of baking and does not give full development. (ゆっくりした焙煎は「ベイクする」効果をもたらし、十分な発達を与えない)
SCAのコラムが挙げる最古の用例。1916年の Coffee and Tea Trade Journal に R.C. Wilhelm が書いたもので、短時間の焙煎ほど香気成分が保たれるという見方を述べたうえで、遅い焙煎は色の基準に達していてもコーヒーを脆くではなく硬くしてしまう、とも記している。110年前から同じ意味で使われている言葉だということになる。
SCAによれば、ベイクドには2つの意味がある。もともとの、そして最も一般的な意味は「長く遅く焙煎しすぎた」こと。近年これに加えて、豆の温度上昇率(rate of rise)に着目した使い方が現れている——焙煎中に豆の温度が下がったり、上昇率が大きく落ち込んだりした場合をベイクドと呼ぶ焙煎者がいる。どちらの意味でも、できあがったコーヒーは甘さが乏しく、風味が平板だと言われる。
Roasting causes on average a 16% loss in weight and an increase in bean volume of 50-80%.
FAO「Post Harvest Handling and Processing of Coffee in African Countries」1.10.2 Weight yields より。「焙煎により平均16%の重量が失われ、豆の体積は50〜80%増加する」。同資料の1.10.3は生豆の水分が8〜13%、焙煎コーヒーの水分が7%未満であることも示している。
CQI(Coffee Quality Institute)による焙煎関連の教育カリキュラムの詳細 — Q Program Guidebook等の公開資料を確認したが、Qグレーダー試験における「ロースト・サンプル識別」がスキル項目として挙がる程度で、独立した技術資料としては見当たらなかった。
CVAでの焙煎度の扱い。 SCAの現行評価体系CVAの記述的評価(SCA-103-2024)では、テイスティングを始める前に該当する場合は焙煎度を目視で推定して記録することが定められている。また同標準は基本味の参照物質として、苦味に「深煎りのコーヒー(Agtron #35 程度)」を挙げており、5つの基本味のうち苦味だけがコーヒー自体を基準にしている。なおSCA-131「Coffee Roast Level: Test Method」(焙煎度の試験方法)は2026年8月時点でも「策定中」であり、焙煎度そのものの測定法は番号付き標準になっていない。
Anokye-Bempah, L., Styczynski, T., Ristenpart, W.D., Donis-González, I.R.「A universal color curve for roasted arabica coffee」Scientific Reports 15, 24192(2025年7月7日、DOI: 10.1038/s41598-025-06601-w)——PMC(PubMed Central)オープンアクセス版で本文確認
Specialty Coffee Association(SCA)公式サイト「Coffee Decoded: Why is Roast Level so Important to Consumers?」(Peter Giuliano、2026年7月2日、sca.coffee/sca-news/coffee-decoded-3-roast-level-consumers)
SCA Store「SCA Agtron Roast Color Kit」商品ページ(store.sca.coffee/products/scaa-agtron-roast-color-kit)——本文は業界メディア経由での間接確認、直接アクセスは未実施(04章参照)
SCA Standard 310-2021「Home Coffee Brewers: Specifications and Test Methods」(当サイト抽出ページで全文確認済み)
SCA「Coffee Decoded: Flavor from the Fires–Why Roast Color Matters」(Peter Giuliano、sca.coffee/sca-news/coffee-decoded-4-roast-color)— メイラード反応とメラノイジン、炙煎温度、色と風味の関係、引用されている3研究(Yeretzian 2017/Münchow ほか 2020/Frost ほか 2020)
SCA「Coffee Decoded: What is "baked" coffee?」(同、sca.coffee/sca-news/coffee-decoded-8-baked-coffee)— ベイクドの語史(1916年 Coffee and Tea Trade Journal)、2つの定義、引用されている3研究(Giacalone ほか 2019/Yang ほか 2016/Anastácio ほか 2023)
FAO「Post Harvest Handling and Processing of Coffee in African Countries」(Joackim Mutua, FAO, 2000年12月)1.10 Physical Properties of Coffee (1.10.1 かさ密度/1.10.2 重量歩留まりと焙煎による16%の減量・50〜80%の体積増/1.10.3 水分含有率)。fao.org/4/x6939e/x6939e01.htm、2026年8月16日取得
Daily Coffee News「What is a 'Light Roast?' Researchers Outline Vision for a Universal Standard」(2025年7月29日)/「Weekly Coffee News: Towards a Roast Color Standard + East Africa Investment」(2025年12月19日)——SCA白書の存在・時系列の確認に使用