HACHIMARU COFFEE ROASTERY
焙煎 / First & Second Crack

1ハゼ・2ハゼの
物理的メカニズムFirst & Second Crack

焙煎中、豆がポップコーンのような音を立てる瞬間——1ハゼ。しばらくして、より鋭く乾いた音が続く——2ハゼ。この2つの音の正体を、学術論文はどこまで説明できているのか。答えは「途中まで」である。水蒸気とCO2の圧力が豆を内側から壊すという大枠は複数の資料が一致するが、2016年のオックスフォード大学の論文は「詳細な物理的説明はまだ見つかっていない」と明記している。分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて整理する。

1ハゼの主因
水蒸気の圧力
2ハゼの主因
CO2ガスの圧力
1ハゼでの体積増
最大80%
詳細機構
未解明(原典の言葉)
01

1ハゼ:水分が水蒸気に変わり、圧力が細胞壁を破る

SOURCE: Fadai et al. 2016(Int J Heat Mass Transfer)

オックスフォード大学数理研究所と大手コーヒー企業(Jacobs Douwe Egberts)の共同研究チームによる伝熱モデルの論文は、焙煎の進行を「乾燥」「風味・色の発達」「冷却」の3段階に分け、1ハゼを2段階目の出来事として説明している。

Primary source quote
豆の温度が摂氏約200度に達すると、メイラード反応のような発熱反応が始まりうる。これらの反応は、風味・色・香りを生み出すと同時に、豆の内部で二酸化炭素を発生させ、豆をさらに膨張させる。この段階のある臨界点で、「1ハゼ」が観察される。
Fadai ほか(2016)より(当サイトによる訳)。ポップコーンが弾ける音に似た、はっきりした破裂音が聞こえるとされる。

同論文は、豆の構造そのものについても説明している。緑色(生豆)の状態では、細胞内の水分を含む微小な孔(ポア)が多数存在する。焙煎が進むと、この孔の中の水分が水蒸気に変わり、豆の細胞壁(ナノ多孔質のセルロース構造)が変形して気体が通りやすくなる。同時に、メイラード反応などの発熱反応が生むCO2が細胞構造を分解し、豆の多孔性を増す——2つの圧力源が同時に働いている、という説明である。

⭐ 生豆の水分は10〜12%が目安。 同論文は生豆の残留水分を典型的に10〜12%としており、この水分が蒸発することで焙煎前後の水分量(生豆8〜13%→焙煎後7%未満、FAO資料)とも整合する範囲にある。乾燥フェーズでは水分が約12%からおよそ2%まで急速に下がるとされる。
02

⚠️ 「詳細な物理的説明は、まだ見つかっていない」

SOURCE: Fadai et al. 2016

ここが、このページでもっとも正直に書きたい点である。01章で紹介した論文自身が、1ハゼの詳しい物理的な発生機構は未解明だと明言している。

Primary source quote
1ハゼについての詳細な物理的説明はまだ見つかっていないが、はっきりとした破裂音——ポップコーンが弾ける音によく似ている——が聞こえる。
Fadai ほか(2016)より(当サイトによる訳)。この論文は2016年時点の、焙煎の伝熱・水分移動モデルに関する国際的な工学論文である。
⭐ 「音は聞こえるが、なぜその音が鳴るかの厳密な理論はない」。 水蒸気とCO2の圧力上昇という大枠のメカニズムは複数の資料が一致して説明している(→01・03章)。しかし、細胞壁がどのように、どの程度の圧力で破断するのか、破断の力学(弾性限界・破壊靭性など)を定量的に示した研究を、当サイトは今回確認できなかった。同じ未解明の指摘は、当サイト焙煎の化学ページの宿題としても以前から記載していたもので、2016年のこの論文によって「業界の俗説ではなく、学術的にも未解明」であることが裏づけられた形になる。
03

2ハゼ:CO2の圧力と、脆くなったセルロース構造

SOURCE: Wang(2014)University of Guelph 博士論文

2ハゼについては、より具体的な仕組みの説明がある。グエルフ大学の博士論文(CO2の生成とデガッシングに関する研究)は、焙煎中に測定した豆の残留CO2量が、ある時点でピークを迎えたあと減少に転じる現象を、2ハゼと結びつけて説明している。

Primary source quote
残留CO2量に観察されたピークは、豆内部での圧力上昇と、セルロースの熱分解によるセルロース構造の弱体化の結果として起こる、コーヒー豆の亀裂——業界で「2ハゼ」として知られる現象——によって引き起こされたとみられる。2ハゼ後に膨張した豆の微細構造が、CO2の急速な放出を可能にし、残留CO2量の低下につながった可能性がある。
Wang(2014)博士論文より(当サイトによる訳)。Clarke and Vitztbum 2001、Redgwell et al. 2002、Illy and Viani 2005 を引用しての記述。
⭐ 1ハゼと2ハゼは「同じ現象の繰り返し」ではない。 01章の1ハゼが主に水蒸気の圧力で説明されるのに対し、2ハゼはCO2の圧力+セルロースそのものの熱分解による脆化という、異なる材料的背景を持つ現象として語られている。水が主役の破裂から、豆の骨格そのものが壊れる破裂へ——という移行と読める。ただしこの対比は当サイトが複数資料を突き合わせた整理であり、いずれの原典も両者を正面から比較してはいない。
2ハゼ以降は「焼けた」豆。 Fadai ほか(2016)は「業界向けの焙煎は一般に1ハゼと2ハゼの間で終える。1ハゼ前は豆の香り・風味が十分に発達しておらず、2ハゼ後は望ましい香り・風味がすべて失われ、望ましくない香りが生成されているとみなされる」と述べている。→焙煎度合いの8段階のページ
04

L*値で見る、1ハゼ・2ハゼの実測タイミング

SOURCE: Anokye-Bempah et al. 2025(Scientific Reports)

当サイト焙煎とはのページで紹介したUC Davisの研究は、7種類の焙煎プロファイル・39回・663サンプルという規模の実験で、1ハゼ・2ハゼが色(CIELAB表色系のL*値)としてどこで起きるかを実測している。

目安L*値(平均)
色づきL*62.38±2.6
1ハゼL*29.74±1.9
2ハゼL*19.96±1
産地・プロファイルが違っても、この数値に収束する。 ウガンダ・インドネシア・エルサルバドルという異なる産地の生豆、7種類の異なる焙煎プロファイルを使っても、1ハゼ・2ハゼのL*値は近い範囲に収束したと報告されている(→焙煎プロファイルのページ)。色という「結果」の再現性は高いが、01・02章で見た「なぜ壊れるのか」という機構の解明とは、別の話である点に注意したい。
05

今後追加すべき項目

  1. Fadai, N.T., Melrose, J., Please, C.P., Schulman, A., Van Gorder, R.A.「A heat and mass transfer study of coffee bean roasting」International Journal of Heat and Mass Transfer 掲載用プレプリント(2016年7月30日提出)— 3段階の焙煎モデル、1ハゼの説明と「詳細な物理的説明は未解明」という明言、2ハゼ後は業界的に「焼けた」とみなされる旨。Oxford University Research Archive(ORA)でオープンアクセス版の本文を確認(2026年8月25日取得)
  2. Wang, X.「Understanding the Formation of CO2 and Its Degassing Behaviours in Coffee」University of Guelph 博士論文(2014年)— 残留CO2のピークと2ハゼの関係、セルロースの熱分解による脆化。University of Guelph Atrium でオープンアクセス版の本文を確認(2026年8月25日取得)
  3. Anokye-Bempah, L. ほか「A universal color curve for roasted arabica coffee」Scientific Reports 15, 24192(2025年)— 色づき・1ハゼ・2ハゼのL*値実測(当サイト焙煎とはのページで既出)