HACHIMARU COFFEE ROASTERY
栽培 / Shade Cultivation

シェード栽培Shading Protection

コーヒーノキを、背の高い別の木(日陰樹=シェードツリー)の下で育てる方式。「畑」というより「林」に近い風景になる。インドのように生産のほぼ全量がこの方式という国もある一方、世界的には日陰を減らして日射を直接当てる方向へ動いてきた。この対立の出発点は、コーヒーノキがそもそも森の下で育つ植物だった、という事実にある。「コーヒーができるまで」の全体像の中では、苗木の生育から開花・結実にかけて、畑の作り方そのものに関わる話にあたる。

01

出発点:森の下層の植物だった

SOURCE: FAO 1.5 SHADING PROTECTION

なぜわざわざ日陰を作るのか。FAOの資料は、その理由を歴史的な認識としてこう説明している。

Primary source quote
"It was long thought that the coffee tree could not stand full sunlight exposure without damage, that is why early cultivation provided shade to the coffee tree resembling its natural habitat, forest."
FAO「Post Harvest Handling and Processing of Coffee in African Countries」1.5 Shading Protection より。「コーヒーノキは直射日光にさらされると傷んでしまう、と長らく考えられてきた。初期の栽培が、コーヒーノキ本来の生息地である森に似せて日陰を与えていたのはそのためである。」
「長らく考えられてきた」という書き方に注意。 原文は It was long thought(=長らくそう考えられてきた)という過去の認識として書いており、「直射日光では育たない」と断定していない。実際この節の最後では、後述するように日陰を減らす方向の傾向が紹介される。当サイトはこの温度差を残したまま訳している。
アラビカ種の原産地との関係。 アラビカ種(Coffea arabica)の原産地はエチオピアである。ただし「エチオピアの森でどのような日陰の下に自生していたのか」という具体的な植生条件について、当サイトはまだ一次資料を確認していない。上記のFAOの記述は「本来の生息地は森である」という一般的な言及にとどまる。
02

シェードが果たす4つの働き

SOURCE: FAO 1.5 SHADING PROTECTION

同資料が挙げる日陰樹の効果は、単に「涼しくする」だけではない。

Wind & dryness
風と乾燥からの保護
FAOは「Shade helps to protect the coffee trees from extreme winds and dryness(日陰は、極端な風と乾燥からコーヒーノキを守るのに役立つ)」と記す。日陰樹は光を遮る前に、まず防風林として働く
出典:FAO 1.5
Temperature
気温の均一化
「The ambient air temperature is uniform within the coffee trees making it cooler in the early parts of the day and warmer in the evening(コーヒーノキの内側の外気温が均一になり、日中の早い時間帯はより涼しく、夕方はより暖かくなる)」。下げるのではなく、一日の振れ幅を小さくする働きである点が重要。
出典:FAO 1.5
Transpiration
蒸散の抑制
「The coolness, due to shading in the day reduces transpiration both from the leaves and the roots(日中の日陰による涼しさが、葉と根の両方からの蒸散を減らす)」。水分を失いにくくなるということであり、灌水の必要量に直結する。この点は後述の「日陰を減らす代わりに水を与える」という傾向と表裏になっている。
出典:FAO 1.5
Erosion control
斜面の土壌流出防止
「Shade trees may also be used for erosion control on steep slopes(日陰樹は、急斜面での土壌侵食の抑制にも使われうる)」。コーヒーは丘陵地・高地で栽培されることが多く(栽培条件参照)、斜面の土が流れないようにすることは栽培そのものの前提になる。
出典:FAO 1.5
03

株元の直射日光と根の関係

SOURCE: FAO 1.5 SHADING PROTECTION

日陰の話は、上から光を遮るという話だけで終わらない。FAOは株元(plant の base)に日が当たることを独立した問題として挙げている。

一次資料からの引用。 「Direct sunlight on the base of the plant can dry out and inhibit root growth, hence mulching and elimination of weeds is important(株元への直射日光は、乾燥を招いて根の成長を阻害しうる。したがってマルチング〔敷き草・敷き藁などで地表を覆うこと〕と除草が重要である)」。

つまり日陰樹とマルチングは、同じ「株元を乾かさない」という目的に対する別々の手段として並んでいる。日陰樹を減らす場合でも、地表を覆う手当ては別途必要になるという読み方ができる。

除草がここに出てくる理由は、当サイトの推測を含む。 原文は「マルチングと除草が重要」と並記するだけで、除草がなぜ必要なのかを説明していない。雑草がコーヒーノキと水分を奪い合うためと解釈するのが自然だが、この理由づけはこの資料に書かれていないため、断定はしない。なお苗床の段階での雑草・病害の管理については苗木の生育で扱っている。
04

現在の傾向:日陰を減らし、施肥と灌水を増やす

SOURCE: FAO 1.5 SHADING PROTECTION
Primary source quote
"The trend today is to use less and less shade but to supply the tree with increased amounts of both fertiliser and water. Under these conditions, they bear more heavily and still keep healthy."
FAO 1.5 Shading Protection より。「今日の傾向は、日陰をますます減らし、その代わりに肥料と水の両方を増やして木に与えることである。この条件下では、木はより多くの実をつけ、しかも健康を保つ。」

01で見た「直射日光では育たないと長らく考えられてきた」という書き出しは、この結びにつながっている。日陰樹が担っていた役割(乾燥を防ぎ、蒸散を抑える)を、灌水と施肥で置き換えるという構図である。収量は増える、と同資料は明記している。

この記述の限界を開示する。 引用文は収量(bear more heavily)と樹の健康(keep healthy)にしか触れておらず、カップの品質への影響には言及していない。「シェード栽培のコーヒーは味が良い」という説明は業界で広く見られるが、当サイトが軸とする7団体(WCR・SCA・CQI・ACE/COE・ICO・AJCA・SCAJ)およびFAOの資料の中で、その裏付けはまだ確認できていない。同様に、日陰を減らすことの環境面での影響(生物多様性・炭素固定など)についてもこの資料は触れていない。また、この資料は2000年発行であり「今日の傾向」が指す時点は2000年前後である点にも注意が必要。
05

実例:インド

SOURCE: WORLD COFFEE RESEARCH

世界的には日陰を減らす方向に動いてきた一方で、シェード栽培が主流であり続けている産地もある。当サイトが掲載している21か国のうち、栽培方式としてシェードが明示されているのはインドである。

実例
インド:ほぼ全量がシェード栽培アラビカ・ロブスタ両方
World Coffee Researchはインドの栽培方式について、ほぼ全量が日陰樹の下でのシェード栽培であると記している。インドは南部カルナータカ州を中心にアラビカ種・ロブスタ種の両方を生産する国で、2026/27年度の生産見込みはアラビカ12.0万トン・ロブスタ28.4万トン。詳細はインド産地ページを参照。
他産地の状況は未確認であることを明記する。 「インドがシェード栽培」という記述はWCRのインド国別ページで確認できたが、他の20か国について同種の記載を確認できたわけではない。記載がないことは「シェード栽培をしていない」という意味ではなく、当サイトが確認していないという意味である。 エチオピアの森林コーヒー(forest coffee)や、中米のアグロフォレストリーとの関係も、それぞれ一次資料を確認してから追記する。
06

今後追加すべき項目

  1. FAO「Post Harvest Handling and Processing of Coffee in African Countries」(Joackim Mutua, FAO, 2000年12月)1.5 Shading Protection
  2. 同上 1.4 Ecology(栽培に必要な気温・降水量・標高。産地一覧に掲載)
  3. World Coffee Research 国別ページ「India」(栽培方式・生産量。インド産地ページに掲載)