コーヒーかすの再利用
コーヒーを淹れたあとに残る粉は、世界で年に1,000万トン単位で出ている。「畑に撒けばいい」とよく言われるが、そのまま撒くと作物は育たなくなる——これは複数の査読研究が一致して報告している。一方で、撒き方と前処理を変えれば使えることも、同じ研究群が数値で示している。よく語られる「原因は窒素飢餓」という説明が実験で否定されている点も含めて、一次資料から整理する。
- 世界の発生量
- 湿重量で約1,800万t/年
- そのまま撒くと
- レタスで−77%(20%施用)
- 主な原因
- 植物毒性(窒素飢餓では説明できず)
- 協会の指示
- 発酵させてから使う
「コーヒーかす」は、何でできているのか
SOURCE: 全日本コーヒー協会[1]/Hardgrove & Livesley 2016[3]/Cruz ほか 2012[5]日本では長く「コーヒーかす」と呼ばれてきたが、全日本コーヒー協会(AJCA)は呼称を「抽出後のコーヒー粉(コーヒーグラウンズ)」と改めている。廃棄物ではなく有効活用できる資源として扱う、という趣旨である。英語圏の研究では spent coffee grounds(SCG) と表記される。当ページでは、探しやすさを優先して見出しに「コーヒーかす」を残しつつ、本文では協会の呼称も併用する。
組成の実測値がある。オーストラリア・メルボルンの6店舗のカフェから集めたかすを測ったところ、店による差はほとんどなかった。
| 項目 | 実測値(6店舗) | 備考 |
|---|---|---|
| pH | 4.76 〜 5.52 | 酸性側 |
| 全炭素 | 47.85 〜 49.10 % | ほぼ半分が炭素 |
| 全窒素 | 2.03 〜 2.19 % | 文献値は 1.0〜2.5% |
| C/N比 | 22.15 〜 24.06 | 文献値は 20〜25 |
Hardgrove & Livesley(2016)より。実験に使ったかすは C/N 23.1・pH 5.5 のもの。文献値は同論文が引く Mussatto ほか(2011)・Pujol ほか(2013)。
別の研究(ポルトガル、Cruz ほか 2012)では、使ったかすの有機態窒素 1.2%、カフェイン 0.18%(100gあたり約180mg)と報告されている。抽出したあとでも、カフェインは残っている。
世界でどれだけ出ているのか
SOURCE: Hu ほか 2025(総説)[4]/Hardgrove & Livesley 2016[3]発生量については、基準の違う数字が複数流通している。当サイトは片方を選ばず、両方を基準とともに並べる。
| 出典 | 発生量 | その数字の基準 |
|---|---|---|
| Hu ほか 2025 | 約 1,800万 t/年 | 湿重量。ICOによる2022年の世界コーヒー消費量約1,000万トンから導かれた推計 |
| Hardgrove & Livesley 2016 | 約 600万 t/年 | 同論文が引く Mussatto ほか(2011)の推計。重量の基準(湿/乾)は同論文に明記がない |
なお総説は、処分方法を比較したライフサイクルアセスメント(LCA)では、土壌への直接施用が、バイオ燃料化・堆肥化・嫌気性消化・焼却・埋立よりも環境負荷が小さいという結果が出ていることに触れている。ただし——これが次節の主題だが——環境負荷が小さいことと、作物が育つことは別の話である。
そのまま畑に撒くと、農作物はどうなるか
SOURCE: Cruz ほか 2012[5]/Hardgrove & Livesley 2016[3]/Hu ほか 2025[4]施用率を段階的に変えてレタスを育てた実験がある。土に対する体積比(v/v)で 0・2.5・5・10・15・20% のかすを混ぜ、収穫時の生葉重を測ったものである。
| 施用率(v/v) | 生葉重 | 対照区との比 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 0%(対照区) | 22.13 ± 7.11 g | — | |
| 2.5% | 21.71 ± 4.06 g | −2% | |
| 5% | 27.56 ± 6.40 g | +25% | |
| 10% | 17.28 ± 6.36 g | −22% | |
| 15% | 9.65 ± 4.64 g | −56% | |
| 20% | 5.16 ± 2.91 g | −77% |
Cruz ほか(2012)レタス。±の値は標準偏差で、区間の重なりは小さくない——2.5%と対照区の差は誤差の範囲とみるべきである。横棒は中央の線を対照区とした増減の目安。
同じ実験で、葉に含まれる有機態窒素も測られている。
| 施用率 | 0% | 10% | 15% | 20% |
|---|---|---|---|---|
| 葉の有機態窒素 (g/乾物100g) | 3.84 ± 0.25 | 3.67 ± 0.21 | 2.87 ± 0.08 | 2.87 ± 0.29 |
著者は「窒素量は対照区が最も高く、かすの量に比例して減少する」ことから、植物が栄養ストレス下にあった可能性が高いと述べている。
総説も同じ形の関係を報告している——ポット試験で重量比5%未満、圃場で10 kg/m²未満なら生育が改善し、それ以上では阻害される。
ただし、これと食い違う結果がある
オーストラリアの研究は、もっと厳しい結果を報告している。ブロッコリー・リーキ・ラディッシュ・ビオラ・ヒマワリの5種類を、砂土・砂質埴壌土・壌土の3種類の土壌で、温室と圃場の両方で育てたものである。
窒素肥料を足しても回復しなかった。土壌pHへの好みも窒素要求量も違う5種が、そろって同じ反応を示した。最も低い 2.5% の施用でも阻害が起きている。
著者の結論は「生のかすは、成長抑制の可能性を考えずに『クローズドループ』型の都市食料生産の土壌改良材として使うべきではない」である。
当サイトはどちらか一方を採らない。違いを生んだ候補としては、作物の種類(レタス1種か、5種か)、土壌、施用量の測り方が挙げられるが、両論文を突き合わせて理由を確定した資料は見つかっていない。
実際、作物によって反応が正反対になることは総説も整理している。
| 条件 | 生育が増えた | 変わらなかった | 減った |
|---|---|---|---|
| 1% 混和(ポット) | アズキ・ダイズ・レタス | トマト・ソラマメ | イタリアンライグラス(激減) |
| 1 kg/m²(圃場) | — | エンバク・ライムギ | ヒマワリ |
Hu ほか(2025)が引く各研究より。イネ科(Gramineae)は、キク科・アカバナ科より強く抑制されたという報告もある。
「原因は窒素飢餓」という説明は、実験で否定されている
SOURCE: Hardgrove & Livesley 2016[3]/Hu ほか 2025[4]コーヒーかすで作物が育たない理由として、「炭素が多いので、土の微生物が窒素を奪い合い、作物が窒素不足になる(窒素飢餓)」という説明が広く流通している。実験結果はこれを部分的にしか支持していない。
コーヒーかすは炭素が多い(C/N比が高い)ので、分解する微生物が土の中の窒素を先に取り込んでしまう。だから作物に回る窒素がなくなり、育たない。
——なお「多孔質だから窒素飢餓が起きる」という言い方も見かけるが、窒素の奪い合いを決めるのは多孔質かどうかではなくC/N比である。
硝酸態窒素の固定化は、確かに起きていた。総説も、かすを入れると土の全窒素は増える一方で無機態窒素(硝酸イオン・アンモニウムイオン)は有意に減りうると整理している。
しかし、それでは生育低下を説明できなかった。Hardgrove & Livesley は無機態窒素の量も窒素無機化速度も測ったうえで、「この生育阻害は、他の研究が結論づけてきたような窒素固定化の結果ではない」と明記している。土壌pHの変化でも説明がつかなかった。
総説はやや違う書き方をしていて、高施用率での生育阻害は「植物毒性物質(カフェイン、ポリフェノールなど)とかすが誘発する窒素固定化」の両方に帰せられてきたとしている。つまり「窒素飢餓も起きてはいる」が、「窒素飢餓だけでは説明できない」。
次節のとおり、効くのは肥料の追加ではなく、原因物質そのものを減らす前処理(発酵・堆肥化)である。
どうすれば使えるようになるか
SOURCE: 全日本コーヒー協会[1]/Hu ほか 2025(総説)[4]全日本コーヒー協会は、肥料・堆肥としての使い方をこう書いている。
この「発酵させてから」という指示には、査読研究の裏づけがある。堆肥化すると、生育を阻害していた物質そのものが消える。
| 成分 | 堆肥化前 | 堆肥化後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 総フェノール類 | 32.57 mg/g | 0.89 mg/g | −97% |
| 総タンニン | 32.54 mg/g | 0.89 mg/g | −97% |
| 没食子酸 | 23.99 mg/g | 28.02 mg/g | やや増加 |
Santos ほか(2017)が麦わらと共堆肥化した場合。総説[4]経由で確認。単純フェノール類・フェノール酸(クロロゲン酸やプロトカテク酸)・フラボノイドは堆肥化後に完全に消失した。カフェインも堆肥化で除去される(Cruz ほか 2015)。
結果として、使える量の桁が変わる。
| 状態 | 安全に使える施用率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 生のかす | 10% 以上で減収 | 複数研究で一致。2.5%でも阻害という報告もある |
| 堆肥にしたもの | 40% まで可 | 発芽指数(GI)が90%超になり、植物毒性がほぼ消える |
| ミミズ堆肥 | — | カフェインが 1,851 → 48 ng/g に。GIは100%超。窒素固定化を起こさない |
Hu ほか(2025)より。GI(発芽指数)は種子の発芽率と根の伸長から植物毒性を測る指標で、90%超はほぼ無毒とみなされる。
堆肥にしないやり方も、研究されている
・7か月以下のものを土に混和すると、生育は阻害されるがナメクジの食害は減った
・14か月のものを混和すると、生育は促進されるがナメクジには効かなくなった
・7か月のものを表面に撒くと、生育促進とナメクジ食害の減少が両立した
著者は8〜14か月熟成させたものを表面散布する使い方を提案している。
言えること:コーヒーかすを発酵させてから使うという方向は、協会の指示とも査読研究とも一致している。腐葉土と混ぜるという具体的なやり方も協会が明記している。堆肥化で植物毒性物質が消えることは上表のとおり数値で確認されている。
言えないこと:特定の微生物資材(EM菌など)を加えることの効果を裏づける一次資料は、当サイトの調査範囲では見つかっていない。また米ぬかを併用した場合のデータも見つかっていない。上の研究が使ったのは麦わら・オリーブ搾油廃水汚泥・猫糞・庭ごみなどとの共堆肥化であり、日本のぼかし肥料の配合そのものを検証したものではない。「発酵させる」ことの裏づけと、「その資材が効く」ことの裏づけは別である。
雑草抑制として使う
作物を抑えてしまう性質は、裏返せば雑草も抑える。総説はこれを「生物的防除」の項目として扱っている。
| 条件 | 結果 |
|---|---|
| 5%(v/v)ポット | 雑草の生育が 50% 減 |
| 10 kg/m² 圃場 | 同等の効果 |
| 撒き方 | 表面散布より土への混和のほうが効果的 |
| 持続期間 | 圃場で最長6か月。4か月ごとの施用が推奨されている |
| 効きにくい相手 | 水で抽出した液では雑草を抑えられなかった(固形で撒く必要がある) |
消臭ほかの用途は、どこまで裏づけがあるか
SOURCE: 全日本コーヒー協会[1]/Kawasaki ほか 2006[6]/Hsieh & Wen 2020[7]全日本コーヒー協会は、家庭でできる活用法として5つを挙げている。当サイトはそれぞれについて、独立した測定があるかどうかを確認した。
| 協会が挙げる用途 | 協会の説明 | 測定した査読研究の有無 |
|---|---|---|
| ① 肥料・堆肥 | そのまま撒かず発酵させる。腐葉土と混ぜる | あり(05節) |
| ② 消臭剤・脱臭剤 | 「活性炭よりも優れたアンモニア脱臭効果を持つといわれている」。カビ防止のため完全に乾燥させて使う | 条件付きであり(下記) |
| ③ 靴磨き・金属磨き | コーヒーに含まれる油分がつやを出す。乾燥させて布に包んで磨く | 当サイト未確認 |
| ④ 洗剤代わり | ガラス食器の振り洗い、油汚れのフライパンをこする | 当サイト未確認 |
| ⑤ 入浴剤 | 袋に入れて湯に浸す。香りによるリラックス効果 | 当サイト未確認 |
協会自身が「といわれている」という伝聞の形で書いている。当サイトが確認できた測定研究(Kawasaki ほか 2006、日本油化学会誌)は、コーヒーかすを電子レンジ処理で炭化させた炭素材を対象としたものである。乾かしただけのかすは試験されていない。
さらにその結果も一面的ではない——飽和吸着量は活性炭を上回るものがあったが、吸着の速さは活性炭のほうが上だった。同論文の結論は「気相中のアンモニア除去に利用できる可能性がある」である。
注目すべきはその仕組みの説明である。著者らは多孔性ではなく、かすに含まれる各種の有機化合物がオゾンと反応して消費していると結論している。「多孔質だから吸着する」という説明は、少なくともこの気体については採られていない。水分も効いていた(オゾンは水に溶けるため)。
ただし同教授は「実際には処理のコストが見合わず、企業などに導入するにはまだまだ課題がある」とも述べている。実用化された技術ではない。
今後追加すべき項目
- 抽出後に、成分がどれだけ残るのか — 生豆・焙煎豆・抽出液・抽出後の粉で、カフェイン・クロロゲン酸・ポリフェノールがどう分配されるのか。当サイトは Cruz ほか(2012)のかす1点(カフェイン0.18%)しか数値を持っていない。焙煎の化学とつなぐべき項目。
- 抽出方法による、かすの差 — エスプレッソ・ペーパードリップ・水出しで、残る成分と水分量は変わるはずだが、比較した資料を確認できていない。
- 日本の気候での再現データ — 施用率と生育の関係を測った研究は、地中海性気候・オーストラリア・ポルトガル・台湾のものである。日本の土壌・気候での試験は未確認。
- ぼかし肥料の配合そのものの検証 — 米ぬか・腐葉土・微生物資材とコーヒーかすを組み合わせた場合の、植物毒性物質の減り方と施用試験。05節のとおり、現時点で一次資料が見つかっていない。
- 日本での廃棄物区分と法的な扱い — 飲食店から出るコーヒーかすが事業系一般廃棄物と産業廃棄物のどちらにあたるか、食品リサイクル法上どう位置づけられるか。環境省・農林水産省の原典で未確認のため、当ページでは扱っていない。
- ③〜⑤の用途(靴磨き・洗剤・入浴剤)の測定 — 協会が挙げているが、効果を測った研究を当サイトは確認できていない。
- 猫よけ・虫よけ — 広く言われているが、当サイトが確認できた研究はナメクジの食害(Horgan ほか 2023)のみ。
- 全日本コーヒー協会「抽出後のコーヒー粉(コーヒーグラウンズ)の有効活用」(coffee.ajca.or.jp/sdgs/coffeegrounds/、2026年9月3日に当サイトが取得)— 5用途と、肥料利用時の「発酵させてから」という指示
- 全日本コーヒー協会「捨てるのはもったいない! 資源になる抽出後のコーヒー粉(コーヒーグラウンズ)」(2026年2月16日、coffee.ajca.or.jp/column/8291/)— 東北大学大学院工学研究科・祖山均教授へのインタビュー。水分・カビの問題、焼却時の温室効果ガス、キャビテーションによる資源化
- Hardgrove SJ, Livesley SJ「Applying spent coffee grounds directly to urban agriculture soils greatly reduces plant growth」Urban Forestry & Urban Greening 18:1–8(2016年8月、DOI 10.1016/j.ufug.2016.02.015)— 5作物×3土壌×施用率0〜25%。本文は有料であり、当サイトは要旨・序論・結果および結論の公開部分を2026年9月3日に確認した。作物ごとの低下率の数値は取得できていない。
- Hu Y, Li J, Wu Y, Zhang D, Qi Z, Yang R「Spent Coffee Ground and Its Derivatives as Soil Amendments—Impact on Soil Health and Plant Production」Agronomy 15(1):26(2024年12月26日公開、オープンアクセス、DOI 10.3390/agronomy15010026、2026年9月3日に全文取得)— 総説。本ページで「総説によれば」としている記述は、この論文が引用した各研究の要約であり、当サイトは個々の原典まで遡っていない
- Cruz R, Baptista P, Cunha S, Pereira JA, Casal S「Carotenoids of Lettuce (Lactuca sativa L.) Grown on Soil Enriched with Spent Coffee Grounds」Molecules 17(2):1535–1547(2012年、オープンアクセス、DOI 10.3390/molecules17021535、2026年9月3日に確認)— 施用率別の生葉重・葉の窒素量・かすの組成
- Kawasaki N, Kinoshita H, Oue T, Nakamura T, Tanada S「Deodorization of Ammonia by Coffee Grounds」Journal of Oleo Science 55(1):31–35(2006年、DOI 10.5650/jos.55.31、J-STAGE、2026年9月3日に要旨を確認)— 電子レンジ処理で炭化させた炭素材が対象
- Hsieh P-F, Wen T-Y「Evaluation of Ozone Removal by Spent Coffee Grounds」Scientific Reports 10:124(2020年、オープンアクセス、DOI 10.1038/s41598-019-56668-5、PMC6954194、2026年9月3日に確認)— 100℃・6時間乾燥のかす。活性炭との比較