HACHIMARU COFFEE ROASTERY
焙煎 / Degassing

焙煎後のCO2放出と
デガッシングDegassing

焙煎したての豆をすぐ密閉袋に入れると、袋がぱんぱんに膨らむ——これは豆の中に閉じ込められたCO2が、焙煎後もゆっくり抜け続けているからである。この現象は「デガッシング」と呼ばれ、鮮度・保存・抽出のすべてに関わる。カナダ・グエルフ大学の博士論文(2014年)は、焙煎条件・挽き方・環境がCO2放出速度をどう変えるかを実測している。

残留CO2量
約11〜15 mg/g
放出が速い条件
高温短時間・深煎り・細挽き
放出のピーク
2ハゼ付近
放出量に占めるCO2
気体成分の約87%
01

残留CO2は「焙煎度」で決まり、「焙煎温度」では決まらない

SOURCE: Wang(2014)University of Guelph 博士論文

グエルフ大学の博士論文は、220〜250℃の異なる焙煎温度で焙煎したコーヒー豆の残留CO2量を実測し、次のように結論づけている。

Primary source quote
焙煎後の豆に残留するCO2量は、焙煎の程度のみに依存し、適用された焙煎温度には依存しなかった。
Wang(2014)博士論文 要旨より(当サイトによる訳)。
焙煎度残留CO2量(目安)
中煎り(medium)11 mg/g
深煎り(dark)15 mg/g
⭐ 「焙煎温度が違っても、色(L*値)が同じなら、CO2量も同じ」。 同論文は「与えられたL*値において、焙煎温度による残留CO2量への影響は見られず、L*値は焙煎条件によらず残留CO2量の指標として使いうることを示している」と述べている。色を見れば、CO2量もおおよそ分かる、という実務的に便利な関係である。ただし深煎りを超えて焙煎を続けると、この相関は逆転する(→03章)。
02

放出速度は「焙煎条件」で変わる——高温短時間ほど速い

SOURCE: Wang(2014)博士論文

01章の「残留量」に対して、「放出される速さ」は焙煎条件によって明確に変わる。同論文は、高温短時間(HTST)と低温長時間(LTLT)という2つの焙煎方式を比較した。

Primary source quote
CO2の脱ガス(デガッシング)は、低温長時間(LTLT)で処理されたものと比べ、高温短時間(HTST)で処理された焙煎コーヒーにおいて有意に速いことが示された(p<0.05)。さらに、CO2の脱ガス速度は焙煎の程度が進むほど増加した。
Wang(2014)博士論文 要旨より(当サイトによる訳)。
⭐ 「深煎りほど、早く鮮度が落ちる」ことの裏づけの1つ。 深煎りほどCO2放出が速いという結果は、深煎り豆は早めに使い切ったほうがよいという実務上の経験則に、数値的な裏づけを与えている。→保存のページ
03

2ハゼがCO2量のピーク——そのあとは減っていく

SOURCE: Wang(2014)博士論文

焙煎時間を横軸にとって残留CO2量を追うと、ある時点で最大値を迎え、その後は減少に転じるという山型のグラフになる。同論文はこのピークを2ハゼと結びつけて説明している(詳細は1ハゼ・2ハゼのページ03章で扱った)。

焙煎温度焙煎終了時点の残留CO2
220℃11.2 mg/g
250℃13.5 mg/g

同論文は、CO2生成速度がアレニウスの式によく従い、活性化エネルギーは96.6 kJ/molだったと報告している(初期段階のみで解析。2ハゼ以降は微細構造の変化が大きいため対象外とした)。

低温で焙煎したほうが、最終的な残留CO2は少ない。 同論文は「低い温度で焙煎した豆の残留CO2が少ないのは、より長い焙煎時間の間に、より多くのCO2が放出されたためと考えられる」と説明している。速く強い加熱ほど、豆の中に多くのCO2が閉じ込められたまま残る、ということになる。
04

挽くと、放出は一気に速くなる

SOURCE: Wang(2014)博士論文

豆を挽くと、表面積が一気に増える。これがCO2放出にどう影響するかも同論文は測定している。

Primary source quote
ホールビーンと比較して、挽いたコーヒーではCO2の脱ガスが有意に速く、その速度は粒度と焙煎温度に強く依存する一方、焙煎の程度への依存は小さかった。
Wang(2014)博士論文 要旨より(当サイトによる訳)。
⭐ 「粉にした瞬間から、鮮度の時計が進み始める」。 ホールビーンでの保存が推奨される理由が、ここに数値的な裏づけとして加わる。細挽きほど・焙煎温度が高いほど放出が速い一方、焙煎度(浅煎り・深煎りの違い)の影響は、粉にしたあとでは小さくなるという、01〜02章とはやや異なる関係が見えている。→挽き方のページ
環境(温度・湿度)も放出速度を左右する。 同論文は「CO2の脱ガス速度は、環境温度と相対湿度の上昇とともに増加した」とも報告している。保管場所の温湿度も、鮮度に無関係ではないことになる。
05

CO2はどこから来るのか——クロロゲン酸だけでは説明できない

SOURCE: Wang(2014)博士論文

同論文はさらに一歩踏み込み、「CO2の主な前駆物質はクロロゲン酸(CGA)だ」という仮説を検証している。

Primary source quote
総クロロゲン酸量と残留CO2量のあいだに強い負の相関(R2>0.9)が検出されたものの、純粋なCGAの加熱によるCO2生成の定量分析では、230℃でわずか約8%の収率しか示さず、CGAはCO2前駆物質の1つではあるが、主たるものではないと結論づけた。
Wang(2014)博士論文 要旨より(当サイトによる訳)。
⭐ 「相関があっても、原因ではないことがある」。 クロロゲン酸の減少とCO2の増加は統計的には強く相関するが、実際にクロロゲン酸を熱してもCO2は8%しか出てこない——この不一致から、同論文はメイラード反応こそがCO2の主な生成源という代替仮説に進み、グリシンとショ糖のモデル実験で大量のCO2がメイラード反応から生成されることを確認したとしている。相関を原因と決めつけず、実験で確かめ直すという研究の進め方そのものが、このページで紹介する価値のある内容だと判断した。
06

今後追加すべき項目

  1. Wang, X.「Understanding the Formation of CO2 and Its Degassing Behaviours in Coffee」University of Guelph 博士論文(Food Science、指導教員 Loong-Tak Lim、2014年5月)Chapter 3〜5 — 残留CO2量と焙煎温度・焙煎度の関係、HTST/LTLTでの脱ガス速度差、活性化エネルギー96.6 kJ/mol、挽き方・環境条件の影響、クロロゲン酸仮説の検証。University of Guelph Atrium(機関リポジトリ)でオープンアクセス版の本文を確認(2026年8月25日取得)