HACHIMARU COFFEE ROASTERY
保存 / Storage

コーヒー豆の保存方法

買ったコーヒーを、飲みきるまでどう置いておくか。日本には、コーヒーの袋に「保存方法」をどう書くかを定めた公的に認定された表示ルールがあり、全日本コーヒー協会(AJCA)も劣化の理由を公開している。さらにSCA(スペシャルティコーヒー協会)は、焙煎後にコーヒーから何が失われていくのかを測定した研究を公開している。このページはその3つの資料に書かれていることだけを整理したもので、書かれていないこと(家庭の冷蔵庫・冷凍庫の可否など)は、書かれていないと明記する。

01

結論:袋に書いてある一文が答えになっている

SOURCE: 公正競争規約施行規則 第2条(5) / AJCA

市販のコーヒーの袋の裏には、必ず「保存方法」という欄がある。これは各社が思い思いに書いているのではなく、「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」の施行規則が、書き方の例そのものを定めている

一次資料からの引用。 施行規則 第2条(5)「保存方法」——「『保存方法』の文字の後に、次の例に準じ、具体的に表示する。 ア 直射日光を避ける。 イ 高温多湿を避ける。」 つまり、日本のコーヒーの袋に書かれている「直射日光、高温多湿をさけてください」という一文は、業界共通のルールとして定められた文言である。

全日本コーヒー協会(AJCA)は、この欄の意味をさらに噛みくだいて説明している。「品質や香りを保つため、直射日光を避け冷暗所での保存が基本です」。ここでいう「冷暗所」は、暗くて温度が上がりにくい場所という意味であり、冷蔵庫を指す言葉ではない(→06)。

避けるもの 1
直射日光
避けるもの 2
高温多湿
避けるもの 3
空気(酸化)
避けるもの 4
湿気(吸湿)

1・2は規約が定める表示例、3・4はAJCAが開封後の劣化として挙げているもの(→02)。

02

開封したあとに何が起きるのか

SOURCE: AJCA「情報ラベル(一括表示)の見方」

袋を開けた瞬間から、コーヒーには3つのことが同時に起きる。AJCAはそれを一文にまとめている。

一次資料からの引用。 「レギュラーコーヒーは開封すると香りの成分が散逸しやすく、吸湿、酸化が進むので、きっちり閉めて冷暗所での保存が基本です」(AJCA「情報ラベル(一括表示)の見方」より)。同じ資料は、袋の「使用上の注意」欄に書かれる文言の例として「開封後は密封保存し、できるだけ早めにお召し上がりください」を挙げている。
Aroma loss
香りが逃げる
AJCAの表現は「香りの成分が散逸しやすく」。コーヒーの香りは豆の中に閉じ込められた成分で、袋を開ければ空気中へ出ていく。減った香りは戻らないので、対策は「早めに飲みきる」「開けている時間を短くする」に尽きる。SCAはこの現象を、炭酸ガスの放出という形で測定している(→04)。
出典:AJCA
Moisture uptake
湿気を吸う(吸湿)
焙煎したコーヒーは乾いているため、周囲の湿気を吸う。規約が「高温多湿を避ける」を表示例に挙げているのも、湿気が劣化要因だからである。AJCAはインスタントコーヒーについても「特に乾燥度が高いので、吸湿しやすく、固まることがある」と別途注意している。
出典:AJCA / 施行規則 第2条(5)
Oxidation
酸化する
空気(酸素)に触れることで進む劣化。AJCAは開封後の劣化としてこれを名指ししており、袋を「きっちり閉める」ことを基本としている。密閉は「香りを逃がさない」ためだけでなく「空気を入れない」ためでもある——SCAはこの2つが同じ現象の裏表であることを説明している(→04)。
出典:AJCA / SCA
Light & heat
日光と高温
規約が定める2つの表示例がそのまま該当する。台所の窓辺やコンロの近く、直射日光の当たる棚は、この2つを同時に踏むことになる。AJCAの言う「冷暗所」は、この裏返しである。
出典:施行規則 第2条(5) / AJCA
03

豆のまま置くか、挽いた粉で置くか

SOURCE: AJCA「コーヒーができるまで④ 焙煎・配合・粉砕」

「豆のまま買ったほうがいい」とよく言われるが、その理由をAJCAは表面積という一語で説明している。

一次資料からの引用。 「豆は粉状になると表面積が増えるため、湿気を吸いやすく酸化が進んで劣化します」。同資料は挽き方のポイントの筆頭に「コーヒーを淹れる直前に必要な分量だけを挽く」を挙げている(AJCA「コーヒーができるまで④ 焙煎・配合・粉砕」より)。

同じ資料は焙煎についても「焙煎されたてのコーヒーが香気成分が最も多く、次第に劣化していきます」と記している。焙煎した時点が香りの最大値で、そこから減っていく——という前提に立つと、保存の話は「増やす方法」ではなく「減り方をどれだけ緩やかにするか」の話だと分かる。その「減り方」を実際に測ったのがSCAの資料である(→04)。

粉で買った場合に不利になるわけではない。 AJCAは粉が劣化しやすい理由を述べているだけで、「粉で買ってはいけない」とは書いていない。ミルを持っていない場合、粉で買って早めに飲みきるほうが、豆のまま長く置くより結果が良いこともある——ただしこの比較そのものは一次資料にある記述ではなく、当サイトによる整理である。
04

焙煎からの3週間に何が起きているか

SOURCE: SCA「Coffee Decoded」/SCA Coffee Freshness Handbook

SCA(スペシャルティコーヒー協会)が公開している解説コラム「Coffee Decoded」は、「フレッシュなコーヒーとは何か」を炭酸ガス(CO₂)の量で説明している。ここまで日本側の資料が「香りが逃げる」「酸化する」と別々に書いていた2つが、同じひとつの現象の表と裏であることが分かる。

仕組みはこうである。焙煎では、褐色の香りをつくるメイラード反応と同時に、ストレッカー分解によって炭酸ガスが発生する。このガスは豆の細胞の構造の中に閉じ込められ、香りの成分を運ぶ「乗り物」として働く。ところが焙煎後、ガスは細胞壁を通って少しずつ抜けていく——これがデガッシング(脱ガス)と呼ばれる現象で、コーヒーはその分だけ香りを失っていく。

Primary source quote
CO₂ degassing occurs rapidly for the first 20 days after roasting, slowing dramatically afterwards.
(炭酸ガスの放出は焙煎後20日ほどのあいだ急速に進み、その後は劇的に緩やかになる)
SCA「Coffee Decoded: What is "freshly roasted" coffee?」(Peter Giuliano, SCA Senior Advisor for Scientific Communication)より。この曲線は SCA Coffee Freshness Handbook の Figure 14 に基づくもので、元データはチューリッヒ応用科学大学(ZHAW)が精密天秤で重量減を測定した研究(Smrke ほか, J. Agric. Food Chem., 2018)。
⭐ 炭酸ガスは「酸素の侵入を防ぐ蓋」でもある。 SCAの説明では、二酸化炭素は炭素に酸素が結びついた状態なので、それ以上ほかのものを酸化させることができない。そのためガスが豆を取り巻き満たしているあいだは、酸素が入り込めない。ところがガスが抜けると、その場所に酸素を含んだ空気が流れ込み、そこから酸化が始まる。02節でAJCAが「香りの散逸」と「酸化」を並べて挙げていたのは、先に香り(ガス)が抜け、そのあとに酸化が始まるという順番でつながっているということである。
⭐ 挽くと、数週間分の変化が数分で起きる。 SCAは「Grind the coffee and all this happens in fast motion: the CO₂ that is lost over weeks in whole bean coffee is lost in minutes after coffee is ground.(挽けばこれらすべてが早送りで起きる。豆のままなら数週間かけて失われる炭酸ガスが、挽いたあとは数分で失われる)」と述べている。03節でAJCAが「表面積が増えるため」と説明した現象に、具体的な時間の尺度がついた形になる。
豆のまま
焙煎から約3週間
挽いた粉
粉砕から約1時間
ガス放出が速い期間
焙煎後およそ20日
根拠
CO₂放出量の測定

SCAの原文は「if you use CO₂ degassing as a guide(炭酸ガスの放出を目安にするなら)」という条件つきの表現で、豆のままなら焙煎から約3週間、挽いた粉なら粉砕から約1時間が「フレッシュ」と考えられる、としている。味の好みや期限を定めた基準ではなく、あくまでガス量を目安にした場合の数字である点に注意。

ドリップのふくらみ(ブルーム)は、このガスである。 SCAは同じ記事で、新しいコーヒーがエスプレッソで多くのクレマを生み、ペーパードリップで強くふくらむのは、豆の多孔質な構造に閉じ込められていた炭酸ガスが抽出時に放出されるためだと説明している。お湯を注いだときにふくらむかどうかは、鮮度がそのまま目に見えているということになる。→抽出ページ
05

賞味期限は「開封前」の話である

SOURCE: 公正競争規約施行規則 第2条(4)

袋に書かれた賞味期限を「この日まで大丈夫」と読む人は多いが、規約の定義文を読むと前提条件が2つ付いていることが分かる。

Primary source quote
「賞味期限」は、開封前の状態で定められた方法により保存した場合において、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると事業者が認める期限を示す年月日をいう。
レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 施行規則 第2条(4)より。同項は続けて「ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする」とも定めている。

読み取れることは3つある。

期限を過ぎたら捨てるべき、とは書かれていない。 規約自身が「当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがある」と明記している。賞味期限は安全の期限(消費期限)ではなく、おいしさの目安として定められている。なお、袋の裏の一括表示欄に何を書くかは規約が10項目を定めている(→パッケージの表示ルール)。
賞味期限とSCAの「約3週間」は、別のことを言っている。 賞味期限は未開封で品質が保たれる期限、SCAの3週間は炭酸ガスを目安にしたときの「フレッシュ」の範囲。前者はもっと長く設定されるのが普通で、どちらかが間違っているわけではない——測っている対象が違う。
06

冷蔵庫・冷凍庫はどうなのか

確認できた範囲と、確認できていない範囲

実際に最も多く聞かれる質問である。ここは言えることと言えないことをはっきり分けて書く。

対象一次資料に書かれていること
生豆(焙煎前)SCAは冷凍について明確に述べている。「Cool, dry environments help preserve a green coffee's freshness, to the point where deep-freezing very nearly suspends its aging(涼しく乾いた環境は生豆の鮮度を保つのに役立ち、深冷凍はその老化をほぼ停止させるほどである)」。ただしこれは産地・輸入業者・焙煎業者が扱う生豆の話である。
焙煎豆(家庭)確認できていない。 公正競争規約にもAJCAの公開ページにも、家庭で焙煎豆を冷蔵庫・冷凍庫に入れてよいかを定めた記述はない。規約とAJCAが使う「冷暗所」は、暗くて温度が上がりにくい場所という意味で、冷蔵庫を指す語としては書かれていない。
生豆の話を焙煎豆にそのまま当てはめないこと。 生豆と焙煎豆は状態がまったく違う——焙煎豆は多孔質で炭酸ガスを放出し続けており(→04)、生豆にはその過程がない。「SCAが冷凍を勧めている」と要約してしまうと、書かれていないことを言ったことになる。当サイトはここを慎重に分けて扱う。
「冷蔵庫は結露するからダメ」についても、まだ裏づけがない。 一次資料から確実に言えるのは、コーヒーは吸湿で劣化する(AJCA)ということまでで、冷えた豆を室温に出したときの結露が実際にどの程度の劣化につながるかを示した数値や判断は、今回参照した資料には出てこない。世間でよく見かける説明だが、推測で埋めずに未確認のままにしておく。
調査中の資料。 SCAは The Coffee Freshness Handbook(Smrke, Sage, Wellinger, Yeretzian 著、2018年)という専門書を出しており、04節の図もそこからの引用である。本体は有料頒布のため当サイトはまだ本文を入手できていない。焙煎豆の冷凍保存についてこの本に記述があるかどうかは未確認。→7団体について
07

産地での「生豆の保管」は別の話

SOURCE: SCA「Coffee Decoded」/ITC・CQI教材

当サイトの乾燥ページには、産地で乾燥を終えた生豆をどう保管するかという記述がある(倉庫の相対湿度50〜70%、高品質ロットにはGrainPro等のバリア包装、といった水準)。これは焙煎前の生豆を、産地の倉庫で、数か月から年単位で保つための話であり、家庭で焙煎豆を数週間保つ話とは目的も規模も違う。

SCAはこの「生豆が古びていく」現象にも名前をつけている。収穫・精製を終えて輸出できる状態になったばかりの豆を「フレッシュクロップ(新豆)」と呼び、次の収穫期を迎えた前年の豆を「パストクロップ(古豆)」と呼ぶ。SCAによれば、ウォッシュド精製の生豆の色は鮮やかな灰緑色から淡いベージュへ移り、風味はくすみ、香りは生気を失う数か月で持ち味を失う豆もあれば、14〜16か月ものあいだ性格を保つ豆もあるという。

色が変わる理由には、酵素の名前まで判明している。 SCAは生豆の老化の主因として酸化を挙げ、生豆の重量の約15%を占める脂質が酸素で劣化すること、そしてポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素が酸素とポリフェノールに作用して褐色の色素をつくることを挙げている。生豆がベージュに変わっていくのは、抗酸化物質を失っている姿であるという説明である。生豆が「生きた種子」でわずかに代謝を続けている点も要因として挙げられているが、SCA自身が「影響はおそらくごく小さい」としている。
08

今後追加すべき項目

  1. 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定、告示第6号)— 施行規則 第2条(4) 賞味期限、同(5) 保存方法、同(6) 使用上の注意
  2. 全日本コーヒー協会(AJCA)「情報ラベル(一括表示)の見方」— 保存方法・使用上の注意の解説
  3. 全日本コーヒー協会(AJCA)「コーヒーができるまで④ 焙煎・配合・粉砕」— 粉砕後の劣化、焙煎直後の香気成分
  4. SCA「Coffee Decoded: What is "freshly roasted" coffee?」(Peter Giuliano, SCA Senior Advisor for Scientific Communication)— デガッシング、CO₂と酸化の関係、豆約3週間/粉約1時間の目安、クレマとブルーム
  5. SCA「Coffee Decoded: What is "fresh crop" coffee?」(同)— フレッシュクロップとパストクロップ、生豆の老化、PPOによる褐変、深冷凍による老化の停止
  6. 上記[4]が図の出典として挙げる SCA Coffee Freshness Handbook(Smrke, Sage, Wellinger, Yeretzian、2018年、SCA刊)Figure 14。同図の元データは Smrke ほか「Time-Resolved Gravimetric Method To Assess Degassing of Roasted Coffee」J. Agric. Food Chem. 66(21), 2018。いずれも当サイトは本文を未入手で、SCAのコラム経由での引用である。
  7. 出典の位置づけについて:公正競争規約は景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)第31条第1項に基づく業界の自主ルールで、公正取引委員会・消費者庁の認定を受けたもの。当サイトが基準とする7団体そのものではないが、日本国内の表示について公的に認定されたルールであるため一次資料として扱った。全日本コーヒー協会(AJCA)とSCAは7団体のうちの2つ。