エスプレッソEspresso
小さなカップに、ほんの少しだけ入っている濃いコーヒー——それがエスプレッソである。世界大会の公式規則は「約30ml(1オンス)」「1回の連続抽出」と定義している。ふつうのドリップが1杯150mlほどを3分近くかけて落とすのに対し、エスプレッソはその5分の1の量を、機械で強い圧力をかけて短時間で出す。ただし「粉を何グラム使うか」「何秒で出すか」を、競技規則は決めていない——その部分は、日本のAJCAが6〜9g・20〜30秒という目安を示している。
- 1杯の量
- 約30ml(1オンス)
- 抽出圧
- 8.5〜9.5bar
- 湯温
- 90.5〜96.0℃
- 粉の量・時間
- 規則は定めず/AJCAは6〜9g・20〜30秒
エスプレッソとは何か
SOURCE: WBC/JBC 2026 公式規則 3.1「エスプレッソ」という言葉に、国が定めた定義や、国際的な食品規格はない(→07)。当サイトが一次資料として確認できたのは、バリスタの世界大会(World Barista Championship=WBC)の公式規則にある定義である。これは「競技で提供される一杯」を判定するための定義であって、お店のメニューや商品の表示を縛るものではない——その前提で読んでいただきたい。
ドリップと、どこが違うのか
SOURCE: WBC/JBC 3.1 F・G / SCAA プアオーバー指針いちばんの違いは「圧力をかけるかどうか」である。ドリップは湯の重さだけで粉の層を通り抜けるのに対し、エスプレッソは機械が湯を押し込む。下の表の右側は、当サイトの抽出のページで扱っているハンドドリップの公式指針の数値である。
エスプレッソ
湯を8.5〜9.5barで押し込む。約30mlを一気に出す。粉はぎゅっと押し固める。カップは小さい。
ハンドドリップ
圧力はかけない(湯の重さだけ)。粉22g・湯400gを2分30秒〜3分かけて落とす。粉は押し固めない。
| 項目 | エスプレッソ(WBC規則) | ハンドドリップ(SCAA指針) |
|---|---|---|
| 圧力 | 8.5〜9.5bar(規則3.1 G) | かけない |
| 湯温 | 90.5〜96.0℃(規則3.1 F) | 93.5℃ |
| できあがり量 | 約30ml | 約400ml(湯量) |
| 粉の量 | 規則は定めていない(AJCAは6〜9g→05) | 22g |
| 時間 | 規則は定めていない(AJCAは20〜30秒→05) | 2分30秒〜3分 |
| 泡(クレマ) | 全面を覆うこと(規則3.1 I) | できない |
クレマ——表面の茶色い泡
SOURCE: WBC/JBC 3.1 I / 15.1.1エスプレッソのカップの表面には、きめ細かい茶色の泡の層ができる。これをクレマ(crema)と呼ぶ。ドリップでは基本的にできないもので、圧力をかけて抽出したときに現れる。
| 規則の条文 | 内容 |
|---|---|
| 3.1 I | エスプレッソ提供時には、クレマが全面を覆い、ブレイクがあってはいけません。 |
| 15.1.1 | ジャッジはクレマの見た目を評価する。「yes」とするには、クレマがエスプレッソの表面全体に広がり、穴や切れた場所がないこと。 |
粉の量も、抽出時間も、規則は決めていない
SOURCE: WBC/JBC 3.1 E・H「エスプレッソは粉◯g、◯秒で抽出するもの」という説明を見かけることがある。しかし2026年のWBC規則は、そのどちらも定めていない。
日本のAJCAは、粉の量も時間も示している
SOURCE: 全日本コーヒー協会「エスプレッソ式」競技規則が決めていない部分について、全日本コーヒー協会(AJCA)は数値を挙げている。こちらは競技の判定基準ではなく、一般向けの淹れ方の解説である。
| 項目 | WBC/JBC 2026規則 | AJCA「エスプレッソ式」 |
|---|---|---|
| 1杯の量 | 約30ml | 25〜35mL(材料欄は25〜30mL) |
| 粉の量 | 定めていない | 6〜9g(極細挽き) |
| 抽出時間 | 定めていない(差が3秒以内) | 20〜30秒 |
| 圧力 | 8.5〜9.5bar | 約9気圧 |
| 湯温 | 90.5〜96.0℃ | 記載なし |
カフェラテ・カプチーノの「もと」になる
SOURCE: WBC/JBC 3.2エスプレッソそのものを飲む機会は多くなくても、カフェラテやカプチーノを飲んだことがある方は多いと思う。あれらは、エスプレッソにミルクを合わせた飲みものである。規則は、これを「ミルクビバレッジ」という一つのカテゴリーとして定義している。
エスプレッソマシンには、SCAの規格がある
SOURCE: SCA「Standards」ページ(2026年8月20日確認)飲みものとしての「エスプレッソ」に公的な定義はない一方で、それを作る機械のほうには、SCA(スペシャルティコーヒー協会)が定めた規格がある。当サイトの抽出のページで扱っているSCA-310(家庭用ブリューワー)と同じシリーズである。
| 規格番号 | 名称 | 状態 |
|---|---|---|
| SCA-350 | セミオート/オートのエスプレッソマシン:仕様と試験方法 | 公表済み(会員限定・要ログイン) |
| SCA-352 | 全自動エスプレッソマシン:仕様と試験方法 | 開発中(策定作業中) |
| SCA-310 | 家庭用コーヒーブリューワー:仕様と試験方法 | 公表済み(→抽出) |
| SCA-320 | 家庭用コーヒーグラインダー:仕様と試験方法 | 公表済み(会員限定) |
日本の表示ルールに「エスプレッソ」は出てこない
SOURCE: 公正競争規約 全文(別表1を含む)日本には、コーヒーのパッケージ表示を定めた公正競争規約がある。消費者庁と公正取引委員会が認定した公的なルールである。その全文(規約・施行規則・別表1〜3)を検索したが、「エスプレッソ」という言葉は一度も出てこない。
| 別表1が定める挽き方(5段階) | 粗さの基準 |
|---|---|
| 1 粗(荒)挽き | ザラメ状又はそれ以上の粗さ(ドリップグラインド/コースグラインド) |
| 2 中挽き | グラニュー糖程度の粗さ(ミディアムグラインド/レギュラーファイングラインド) |
| 3 中細挽き | 中挽き、細挽きの中間の粗さ(ミディアムファイングラインド) |
| 4 細挽き | グラニュー糖と白砂糖の中間の粗さ(ファイングラインド) |
| 5 極細挽き | 細挽き以下の粗さ(エキストラファイングラインド) |
「エスプレッソはカフェインが強い」のか
SOURCE: 農林水産省/日本食品標準成分表2020年版(八訂)よくいただく質問である。結論から言うと、当サイトはこれに数値で答えられない。 日本の公的な成分表に「エスプレッソ」という項目がないからである。
| 食品名 | カフェイン | 浸出方法 |
|---|---|---|
| コーヒー(浸出液) | 0.06 g/100 mL(=60 mg/100 mL) | コーヒー粉末10g、熱湯150mL |
| インスタントコーヒー(粉末) | 4.0 g/100 g(2g使用で1杯当たり80 mg) | — |
| エスプレッソ | 項目なし | — |
今後追加すべき項目
- クレマの成分 — 03節で、ガスの放出が関係していることまではSCAの記事で確認できた。泡の膜そのものが何でできているのか(油分・たんぱく質など)を説明した一次資料は未確認。
- エスプレッソのTDS・抽出率 — 抽出のページはドリップのTDS(1.15〜1.35%)を扱っているが、エスプレッソ側の対応する数値は未確認。査読論文か、SCA-350の本文が要る。
- SCA-350の本文 — 06節のとおり会員限定で未読。抽出条件が規格に入っているかどうかを確認したい(→出典としている団体)。
- 「7g・25秒」という具体的な数値の出所 — 04・05節。AJCAの6〜9g・20〜30秒という範囲は確認できたが、「7g・25秒」と書いた一次資料そのもの(過去のWBC規則、イタリアの業界団体の認証基準など)は未確認。
- カフェラテとカプチーノの区別 — 05節。一次資料で線を引いている団体があるか。
- エスプレッソ1杯のカフェイン量 — 08節。日本食品標準成分表に項目がないため、他国の公的成分データベース(USDA FoodData Central等)に該当項目があるかを確認する。
- 器具ごとのページ — 当サイトの「抽出」カテゴリはまだ3ページである。アイスコーヒー・水出し、フレンチプレス(浸漬式)、ペーパードリップの手順など、器具・淹れ方の軸のページを増やす。
- SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)「JAPAN BARISTA CHAMPIONSHIP 2026 OFFICIAL RULES & REGULATIONS」(2026年5月12日版、WBC2026規則にもとづく日本語版)— 3. ドリンクの定義 3.1 エスプレッソ A〜K、3.2 ミルクビバレッジ A〜C。原文PDF(scaj.org)を2026年8月20日に取得して確認
- World Coffee Championships「2026 World Barista Championship Official Rules and Regulations」(WCC Rules and Regulations Committee)— 3.1 Espresso(英語原文)、15.1.1 Crema、2.1 B(提供する12杯の構成)。原文PDFを2026年8月20日に取得して確認
- 全日本コーヒー協会(AJCA)「エスプレッソ式」(coffee.ajca.or.jp/知る・楽しむ、2026年8月20日取得)— 極細挽き6〜9g、約9気圧、25〜35mL、20〜30秒、ドーシング/レベリング/タンピング(15〜20kg)
- SCA(Specialty Coffee Association)「Standards」(sca.coffee/research/coffee-standards、2026年8月20日確認)— SCA-350/SCA-352/SCA-310/SCA-320の番号・名称・公表状態。認証規格は会員限定で本文は未確認
- 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定)— 別表1(挽き方の5区分)。全文を検索し「エスプレッソ」の語が存在しないことを確認(原文PDF、2026年8月20日再取得)
- 農林水産省「カフェインの過剰摂取について」— コーヒー(浸出液)0.06g/100mL、インスタントコーヒー(粉末)4.0g/100g。数値の出典は文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」。2026年8月20日確認
- SCA「Coffee Decoded: What is "freshly roasted" coffee?」(Peter Giuliano, SCA Senior Advisor for Scientific Communication)— 焙煎豆に閉じ込められた炭酸ガスと、クレマ・ブルームの関係。当サイトの保存のページで確認したもの
- SCAA(Specialty Coffee Association of America)「Guidelines for Brewing with a Two Cup Pour-Over Brewer」— 02節の比較表の右列(粉22g/湯400g/93.5℃/2分30秒〜3分)。当サイトの抽出ページで確認したもの