HACHIMARU COFFEE ROASTERY
成分 / Carbohydrates

コーヒーの糖と多糖

生豆でいちばん多い成分は炭水化物である。乾燥させた生豆の重さの約半分は多糖で、豆の細胞の壁をつくっている。甘みのもとになる小さな糖は、熟した豆ではほぼショ糖だけになる。焙煎すると、小さな糖はほとんど残らないほど分解される一方、細胞の壁の多糖は長く焙煎しても6割以上が残る。多糖がどれだけ湯に溶け出すかは、インスタントコーヒーの製造で重要な点になっている。

多糖(生豆の乾物)
約50%
ショ糖(熟した豆の乾物)
5〜12%
焙煎後の小さな糖
ほとんど残らない
長い焙煎で分解される多糖
最大40%
01

生豆の半分は、細胞の壁の多糖

SOURCE: Redgwell & Fischer 2006[1]

ネスレ研究所の研究者による総説[1]は、多糖が生豆の乾物重量の約50%を占め、主に次の3種類でできていると書いている。

ガラクトマンナン(マンナン)
いちばん多い多糖。多糖全体の約50%。マンノースが長くつながった鎖に、ところどころガラクトースが付いた形
アラビノガラクタン
熟した豆で多糖全体の約34%。たんぱく質と結びついた「アラビノガラクタン-プロテイン」の形で存在する
セルロース
植物の細胞の壁に共通する多糖
その他
少量のペクチン質、キシログルカン

豆が育つ途中で、この組み立ては変わっていく。育ち始めはセルロースとアラビノガラクタンが先につくられ、成熟に近づくにつれてマンナンが増えていく。ペクチン質は、若い豆の胚乳では重さの約20%あったのが、熟した豆では約4%まで下がる[1]。

02

熟した豆の小さな糖は、ほぼショ糖

SOURCE: Redgwell & Fischer 2006[1](Rogers ほか 1999 の研究の紹介)

総説は、アラビカとロブスタの豆を、開花から12〜40週にわたって調べた研究を紹介している[1]。

育ち始め〜中ごろ
主な糖はブドウ糖と果糖。ブドウ糖は果糖のおよそ2倍。ブドウ糖はアラビカで乾物の8〜12%、ロブスタで2〜4%
熟した豆
ブドウ糖は乾物の0.03%、果糖は0.04%まで減る。ショ糖が乾物の5〜12%で、小さな糖のほぼ100%を占める
アラビカとロブスタのショ糖の差について。 この総説は、熟した豆の糖を品種ごとに詳しく並べた資料(Bradbury 2001)があるとして、その数値を繰り返していない。2つの種のショ糖の量を数値で比べた資料は、当サイトはまだ読んでいないトリゴネリンのページで引いた博士論文は、アラビカのほうがショ糖が多いと書いている。
03

焙煎で、糖はどうなるのか

SOURCE: Redgwell & Fischer 2006[1]
小さな糖(ショ糖など)
焙煎でほとんどすべて分解され、焙煎後の豆にはわずかしか残らない
多糖全体
長い焙煎の後で、最大40%が分解された
アラビノガラクタン
いちばん熱に弱い。浅い焙煎だけで、分子の大きさが10分の1以下になった。その後の焙煎での変化は、最初ほど大きくない
ガラクトマンナン
焙煎が深いほど、鎖が短くなり、枝分かれも減る

分解された糖は、焙煎の中でほかの成分に変わっていく。糖がアミノ酸と反応して色と香りをつくる流れ(メイラード反応)や、糖が壊れて酸が生まれる流れは、焙煎の化学酸味のページで扱っている。

焙煎で豆がふくらむと、多糖が溶け出しやすくなる。 総説は、焙煎で多糖の鎖が切れて枝が取れることに加え、焙煎後の豆は体積が大きくなり、細胞の壁の小さな穴も大きくなるという研究(Schenker ほか 2000)を引いている。そのため、湯が壁の多糖に届きやすくなり、溶け出す量が増える[1]。
04

インスタントコーヒーとの関係

SOURCE: Redgwell & Fischer 2006[1]

総説は、ガラクトマンナンがどれだけ溶け出すかが、インスタントコーヒーの粉の収量を決める大きな要因だとしている。セルロースを除けば、いちばん溶けにくい多糖がガラクトマンナンだからである[1]。

ガラクトマンナンの溶けやすさは、マンノースの鎖にどれだけガラクトースが付いているかで変わる。ガラクトースが付くと、鎖どうしがくっつき合うのをじゃまして、溶けやすくなる。熟した豆のガラクトマンナンは、若い豆のものよりガラクトースが少なくなっている(マンノース7〜40個にガラクトース1個)[1]。

インスタントコーヒーのつくり方インスタントコーヒーのページにまとめている。
05

まだ分かっていないこと

SOURCE: Redgwell & Fischer 2006[1]

総説は結論で、収穫の直前と収穫後の段階で、豆の中の糖がどう代謝されているかについての知識が「劇的に不足している」と書いている。焙煎の前の豆は生きている組織であり、その時点の糖の状態が最終的なカップの品質に関わる可能性がある。そうであれば、収穫後の処理(精製)がその状態をどう変えるかが重要な研究課題になる、としている[1]。

精製方法のページとのつながり。 精製方法によって味が変わる理由は、精製方法の各ページで扱っているが、生豆の糖の代謝を直接測って比べた研究は、当サイトはまだ確認していない
06

今後追加すべき項目

  • アラビカとロブスタのショ糖の数値比較 — 02節のとおり、数値を並べた原典(Bradbury 2001 など)は未読。
  • 焙煎度ごとのショ糖の残り方 — 「ほとんど分解される」という記述はあるが、浅煎り・深煎りでの残存量の数値は未確認。
  • 一杯に溶け出す多糖の量 — 抽出液の多糖が口当たり(マウスフィール)とどう関わるかも含めて未確認。
  • 2006年以降の研究 — このページは2006年の総説による。それ以降の研究は未確認。
  1. Redgwell R, Fischer M「Coffee carbohydratesBrazilian Journal of Plant Physiology 18(1):165-174(2006年、オープンアクセス CC BY-NC、ネスレ研究所〈ローザンヌ〉)— 本ページの全節。出版元の SciELO は2026年9月23日の時点でサーバーエラーが続いていたため、Internet Archive に保存された同じ論文のPDF(2022年6月18日保存、全10ページ)を読んだ。著者はネスレ研究所の所属であり、インスタントコーヒーの製造に関わる企業の研究者である