コーヒーの成分:
生豆から一杯まで
生豆に何がどれだけ入っていて、焙煎で何がどれだけ減り、抽出で何が液に出て、かすに何が残るのか。当サイトには成分ごとの個別ページがあるが、それらを1枚で見比べる場所がなかったので、ここに置く。数値のある一次資料が存在するものだけを載せ、無いものは「無い」と書く。
- 焙煎でクロロゲン酸は
- 54% 減った
- 焙煎でカフェインは
- 有意に変わらず
- 総ポリフェノールは
- あまり変わらない
- 抽出液の糖は
- 検出されず
生豆には何が入っているか
SOURCE: Münchow ほか 2020[1]の序論(Belitz ほか/Clarke & Vitzthum を典拠とする)アラビカ種の生豆に含まれる、主な非揮発性成分の概数である。焙煎の化学のページで扱っているとおり、この段階ではコーヒーらしい香りの分子はほとんど存在しない——ここにあるのは、焙煎で反応させるための材料である。
なお当サイトは「ロブスタ」を種の名前としては使わない。種はカネフォラ種で、ロブスタはその中の栽培グループの名前である。
焙煎で、何がどれだけ減るのか
SOURCE: Sualeh ほか 2020(Heliyon、オープンアクセス)[2]エチオピア南西部の9地区から集めたコーヒーについて、同じ豆を生のまま測った値と、焙煎してから測った値を並べた研究がある。乾物基準(dwb)である。
| 成分 | 生豆 | 焙煎豆 | 減少率 | P値 |
|---|---|---|---|---|
| トリゴネリン | 0.91 g/100g | 0.84 g/100g | −7.69% | <0.0001 |
| クロロゲン酸類 | 4.22 g/100g | 1.94 g/100g | −54.00% | <0.0001 |
| カフェイン | 1.19 g/100g | 1.16 g/100g | −2.52% | 0.1084 |
| 抗酸化活性 | 70.32% | 59.54% | −15.33% | <0.0001 |
9地区・複数集落の平均。生豆の地区別の幅は、トリゴネリン 0.80〜1.08、クロロゲン酸類 2.80〜5.42、カフェイン 0.85〜1.73 g/100g。
これはカフェイン分子が熱に安定であるためで、別の論文も「生豆のカフェイン含量は、カフェイン分子が熱に安定な性質を持つため、焙煎工程によってほとんど影響を受けない」と述べている。「深煎りはカフェインが少ない」という話は、この測定では支持されない(→カフェインのページで詳しく扱っている)。
豆そのものの変化
| 項目 | 焙煎による変化 |
|---|---|
| 重量 | 15 〜 22% 減る |
| 水分 | 生豆 ≈12% → 焙煎後 1 〜 2.5% |
| 体積 | 約50% 〜 ほぼ100% 増える |
| 温度 | 室温から 200℃前後、しばしばそれ以上まで |
Münchow ほか(2020)の序論より。減る重量の大部分は水である。
クロロゲン酸は減るのに、総ポリフェノールは減らない
SOURCE: 全日本コーヒー協会「コーヒー中のクロロゲン酸類とポリフェノールについて」(2016年7月7日)[3]全日本コーヒー協会が、焙煎度と品種を変えてクロロゲン酸類と総ポリフェノールを測った結果を公表している。この2つは、同じようには動かなかった。
つまり「深煎りにするとポリフェノールが減る」とは、この測定からは言えない。クロロゲン酸という特定の物質は減るが、ポリフェノールという性質を持つ物質の総量は保たれている、ということになる。協会はこれを「推測されました」という言い方で書いており、変化後の物質を同定したとまでは述べていない。
| 項目 | 協会が報告している内容 |
|---|---|
| 生豆に多いクロロゲン酸類 | カフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(di-CQA) |
| 品種間 | カネフォラ種ロブスタ(コニロン)のほうが、アラビカ種よりクロロゲン酸類・ポリフェノールとも高い傾向 |
| 焙煎度との関係 | 深いほどクロロゲン酸類は低くなる傾向。総ポリフェノールはあまり変化なし |
| 測定法 | クロロゲン酸類=高速液体クロマトグラフ法/ポリフェノール=フォーリン・チオカルト法/焙煎度=測色計によるL値(0=黒〜100=白、深いほど小さい) |
| 今回測っていないもの | 協会は「クロロゲン酸ラクトン類」と呼ばれる物質群が別に報告されていると付記している |
抽出したあと、液に何が出て、かすに何が残るのか
SOURCE: Alstrup ほか 2020[4]/Cruz ほか 2012[5]焙煎豆に入っている成分が、そのまま一杯に出てくるわけではない。ここは当サイトが最も数値を持っていない領域である。確認できた範囲だけを書く。
デンマークの研究がコーヒー抽出液をNMRで分析したところ、グルコースやフルクトースといった単糖が検出されなかった。検出限界は1 mmol/Lで、糖の味覚認知閾値は一般に20 mmol/L超である。焙煎ではスクロースが最大99%分解されることも先行研究で知られている。
それでも官能評価では甘さに有意差が出ていた。論文の解釈は、コーヒーの「甘さ」は糖の甘味ではなく、甘い食べ物を思わせる香り(ジアセチルなど)によるものではないかというものである。詳しくはデベロップメントタイムのページで扱っている。
ではかすには何が残るのか。抽出後の粉を分析した数値は、当サイトが確認できた範囲では次の1件しかない。
| 成分 | 焙煎豆(エチオピア・02節) | 抽出後のかす(ポルトガル・別研究) |
|---|---|---|
| カフェイン | 1.16 g/100g | 0.18 g/100g |
| 窒素 | — | 有機態窒素 1.2% |
分かるのは「抽出したあとのかすにもカフェインは残っている」という定性的な事実までである。かすの利用についてはコーヒーかすの再利用のページで扱っている。
成分別のページ一覧
当サイト内のリンク集成分ごとの詳しい話は、それぞれのページにある。点線の枠は、まだ当サイトにページが無いものである。
健康への影響について、当サイトの立場
SOURCE: 全日本コーヒー協会[3]当サイトは、コーヒーの健康効果を評価しない。成分がどれだけ含まれ、工程でどう変化するかという測定できる事実だけを扱う。理由は、健康影響の評価には疫学・臨床研究の読み方が必要で、それは当サイトが担える範囲を超えるからである。
これは協会自身が「報告されています」という伝聞の形で書いている記述であり、個別の研究を当サイトが確認したものではない。効果の大きさ、対象、条件については何も述べられていない。
健康について調べたい場合は、全日本コーヒー協会の「サイエンスと健康」(coffee.ajca.or.jp/health/)が、業界団体としてまとまった情報を出している。
今後追加すべき項目
- 同じ豆で「生豆・焙煎豆・抽出液・かす」を通しで測った資料 — これが見つかれば、このページの数値はすべて1本につながる。現状はすべて別々の研究の数値であり、当サイトは引き算をしていない。最優先の空白。
- 脂質・糖・タンパク質の個別ページ — 生豆の重量の大半を占めるのに、当サイトに独立ページが無い(05節の点線枠)。
- アラビカ種とカネフォラ種の成分の数値比較 — 協会は「ロブスタのほうが高い傾向」と傾向だけを述べており、数値を公表していない。数値のある一次資料を探す。
- クロロゲン酸ラクトン類 — 協会が「別にある」と付記した物質群。苦味のページとつなぐべき項目。
- 抽出方法による成分の差 — エスプレッソ・ペーパードリップ・水出しで液に出る成分の量。抽出のページとつなぐ。
- 日本国内で測られた成分値 — 02節はエチオピア産、04節はコロンビア産とポルトガルの研究。日本の団体が公表している実測値を確認できていない。
- 生豆組成の合計が100%にならない件 — 原典が水分基準と乾物基準を混在させている可能性が高いが、当サイトは原典にあたって確認できていない(01節)。
- Münchow M, Alstrup J, Steen I, Giacalone D「Roasting Conditions and Coffee Flavor: A Multi-Study Empirical Investigation」Beverages 6(2):29(2020年、オープンアクセス CC BY、DOI 10.3390/beverages6020029、2026年9月3日に全文取得)— 01節の生豆組成と、焙煎による重量・水分・体積の変化は、同論文の序論の記述である。同論文はこれを Belitz ほか『Food Chemistry』(2009)、Clarke & Vitzthum『Coffee: Recent Developments』(2008)、Schenker ほか(2000)に帰しており、当サイトはそれらの原典を確認していない
- Sualeh A, Tolessa K, Mohammed A「Biochemical composition of green and roasted coffee beans and their association with coffee quality from different districts of southwest Ethiopia」Heliyon 6(12):e05812(2020年12月、オープンアクセス、DOI 10.1016/j.heliyon.2020.e05812、2026年9月3日に全文取得)— エチオピア南西部BenchMaji・Sheka両ゾーンの9地区。焙煎前後の実測値(Table 1)
- 全日本コーヒー協会「コーヒー中のクロロゲン酸類とポリフェノールについて」(2016年7月7日、coffee.ajca.or.jp/news/1416/、2026年9月3日に取得)— 焙煎度・品種とクロロゲン酸類/総ポリフェノールの関係。数値は公表されておらず、傾向の記述のみ
- Alstrup J, Petersen MA, Larsen FH, Münchow M「The Effect of Roast Development Time Modulations on the Sensory Profile and Chemical Composition of the Coffee Brew as Measured by NMR and DHS-GC–MS」Beverages 6(4):70(2020年、オープンアクセス CC BY、DOI 10.3390/beverages6040070)— 抽出液のNMR分析。単糖が検出されなかった件
- Cruz R, Baptista P, Cunha S, Pereira JA, Casal S「Carotenoids of Lettuce (Lactuca sativa L.) Grown on Soil Enriched with Spent Coffee Grounds」Molecules 17(2):1535–1547(2012年、オープンアクセス、DOI 10.3390/molecules17021535)— 本来は土壌施用の研究であり、抽出後の粉の組成は材料の記述として報告されているものである