HACHIMARU COFFEE ROASTERY
成分 / Coffee Composition

コーヒーの成分:
生豆から一杯まで

生豆に何がどれだけ入っていて、焙煎で何がどれだけ減り、抽出で何が液に出て、かすに何が残るのか。当サイトには成分ごとの個別ページがあるが、それらを1枚で見比べる場所がなかったので、ここに置く。数値のある一次資料が存在するものだけを載せ、無いものは「無い」と書く。

焙煎でクロロゲン酸は
54% 減った
焙煎でカフェインは
有意に変わらず
総ポリフェノールは
あまり変わらない
抽出液の糖は
検出されず
01

生豆には何が入っているか

SOURCE: Münchow ほか 2020[1]の序論(Belitz ほか/Clarke & Vitzthum を典拠とする)

アラビカ種の生豆に含まれる、主な非揮発性成分の概数である。焙煎の化学のページで扱っているとおり、この段階ではコーヒーらしい香りの分子はほとんど存在しない——ここにあるのは、焙煎で反応させるための材料である。

セルロース 50% 脂質 15% 水 12% 糖 10% タンパク質 10% CGA 7%
セルロース ≈50% 脂質 ≈15% 水 ≈12% 単糖・オリゴ糖 ≈10% タンパク質 ≈10% クロロゲン酸 ≈7% 脂肪族酸 ≈2%/遊離アミノ酸 ≈1%
⚠️ この数字は足すと100%を超える。 合計は約107%になる。原典はこれらをそれぞれ独立した概数として列挙しており、合計が100になるようには示していない——水分を含む基準と乾物基準が混在しているためと考えられる。当サイトは原典の数値をそのまま載せ、辻褄を合わせるための調整はしていない。上の帯は比率の目安であって、合計100%の内訳ではない。
脂質は焙煎中ほとんど反応しない。 原典は、脂質(主にトリグリセリド)は焙煎中に反応せず、深煎りや速い焙煎のときに豆の表面へ押し出されるだけだと述べている。深煎りの豆が油でテカるのはこのためである。
種による違い。 全日本コーヒー協会は、ブラジル産のカネフォラ種ロブスタ(コニロン)とアラビカ種を比べ、ロブスタのほうがクロロゲン酸類・ポリフェノールとも高い傾向にあったと報告している(→コーヒーの「種」とは)。
なお当サイトは「ロブスタ」を種の名前としては使わない。種はカネフォラ種で、ロブスタはその中の栽培グループの名前である。
02

焙煎で、何がどれだけ減るのか

SOURCE: Sualeh ほか 2020(Heliyon、オープンアクセス)[2]

エチオピア南西部の9地区から集めたコーヒーについて、同じ豆を生のまま測った値と、焙煎してから測った値を並べた研究がある。乾物基準(dwb)である。

成分生豆焙煎豆減少率P値
トリゴネリン0.91 g/100g0.84 g/100g−7.69%<0.0001
クロロゲン酸類4.22 g/100g1.94 g/100g−54.00%<0.0001
カフェイン1.19 g/100g1.16 g/100g−2.52%0.1084
抗酸化活性70.32%59.54%−15.33%<0.0001

9地区・複数集落の平均。生豆の地区別の幅は、トリゴネリン 0.80〜1.08、クロロゲン酸類 2.80〜5.42、カフェイン 0.85〜1.73 g/100g。

⭐ カフェインだけ、P値が 0.1084 で有意ではない。 減少率2.52%という数字は出ているが、統計的には「焙煎で変わったとは言えない」という結果である。論文も「焙煎によるカフェイン含量の変化は統計的に有意ではなく、変化率も低かった」と明記している。
これはカフェイン分子が熱に安定であるためで、別の論文も「生豆のカフェイン含量は、カフェイン分子が熱に安定な性質を持つため、焙煎工程によってほとんど影響を受けない」と述べている。「深煎りはカフェインが少ない」という話は、この測定では支持されない(→カフェインのページで詳しく扱っている)。
減り方の順番。 この実験では クロロゲン酸類(−54%)≫ 抗酸化活性(−15%)> トリゴネリン(−7.7%)> カフェイン(有意差なし) の順だった。論文は「損失が最大だったのはクロロゲン酸類である」としている。

豆そのものの変化

項目焙煎による変化
重量15 〜 22% 減る
水分生豆 ≈12% → 焙煎後 1 〜 2.5%
体積約50% 〜 ほぼ100% 増える
温度室温から 200℃前後、しばしばそれ以上まで

Münchow ほか(2020)の序論より。減る重量の大部分は水である。

03

クロロゲン酸は減るのに、総ポリフェノールは減らない

SOURCE: 全日本コーヒー協会「コーヒー中のクロロゲン酸類とポリフェノールについて」(2016年7月7日)[3]

全日本コーヒー協会が、焙煎度と品種を変えてクロロゲン酸類と総ポリフェノールを測った結果を公表している。この2つは、同じようには動かなかった。

「焙煎度が深くなるにつれて、いずれの品種もクロロゲン酸類の含有量は低くなる傾向がみられましたが、ポリフェノールの総量はあまり変化がみられませんでした。このことから、クロロゲン酸類は、焙煎によりポリフェノールとしての性質を持つ別の物質に変化したのではないかと推測されました。」

つまり「深煎りにするとポリフェノールが減る」とは、この測定からは言えない。クロロゲン酸という特定の物質は減るが、ポリフェノールという性質を持つ物質の総量は保たれている、ということになる。協会はこれを「推測されました」という言い方で書いており、変化後の物質を同定したとまでは述べていない。

項目協会が報告している内容
生豆に多いクロロゲン酸類カフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(di-CQA)
品種間カネフォラ種ロブスタ(コニロン)のほうが、アラビカ種よりクロロゲン酸類・ポリフェノールとも高い傾向
焙煎度との関係深いほどクロロゲン酸類は低くなる傾向。総ポリフェノールはあまり変化なし
測定法クロロゲン酸類=高速液体クロマトグラフ法/ポリフェノール=フォーリン・チオカルト法/焙煎度=測色計によるL値(0=黒〜100=白、深いほど小さい)
今回測っていないもの協会は「クロロゲン酸ラクトン類」と呼ばれる物質群が別に報告されていると付記している
⚠️ クロロゲン酸ラクトン類は、味の話にも出てくる。 当サイトの苦味のページで扱っているとおり、この物質群はコーヒーの苦味の主要因として研究されている。協会が「今回は測っていない」と断っているのはこの物質群である。
数値そのものは公表されていない。 このお知らせは傾向を文章で述べたもので、含有量の実数値やグラフは示されていない。当サイトは数値を持っていない。02節のエチオピアの実測値(クロロゲン酸類 −54%)は別の研究による別の豆の測定であり、この協会の報告と直接つなぐことはできない。
04

抽出したあと、液に何が出て、かすに何が残るのか

SOURCE: Alstrup ほか 2020[4]/Cruz ほか 2012[5]

焙煎豆に入っている成分が、そのまま一杯に出てくるわけではない。ここは当サイトが最も数値を持っていない領域である。確認できた範囲だけを書く。

⭐⭐ 抽出液から、単糖は1つも検出されなかった。
デンマークの研究がコーヒー抽出液をNMRで分析したところ、グルコースやフルクトースといった単糖が検出されなかった。検出限界は1 mmol/Lで、糖の味覚認知閾値は一般に20 mmol/L超である。焙煎ではスクロースが最大99%分解されることも先行研究で知られている。
それでも官能評価では甘さに有意差が出ていた。論文の解釈は、コーヒーの「甘さ」は糖の甘味ではなく、甘い食べ物を思わせる香り(ジアセチルなど)によるものではないかというものである。詳しくはデベロップメントタイムのページで扱っている。

ではかすには何が残るのか。抽出後の粉を分析した数値は、当サイトが確認できた範囲では次の1件しかない。

成分焙煎豆(エチオピア・02節)抽出後のかす(ポルトガル・別研究)
カフェイン1.16 g/100g0.18 g/100g
窒素有機態窒素 1.2%
⚠️ この2列を引き算してはいけない。 左右は産地も品種も焙煎条件も分析法も抽出法も違う、別々の研究である。「1.16 − 0.18 だから約85%が抽出された」という計算は当サイトはしない同じ豆で焙煎豆とかすを両方測った資料を、当サイトはまだ見つけていない。
分かるのは「抽出したあとのかすにもカフェインは残っている」という定性的な事実までである。かすの利用についてはコーヒーかすの再利用のページで扱っている。
05

成分別のページ一覧

当サイト内のリンク集

成分ごとの詳しい話は、それぞれのページにある。点線の枠は、まだ当サイトにページが無いものである。

06

健康への影響について、当サイトの立場

SOURCE: 全日本コーヒー協会[3]

当サイトは、コーヒーの健康効果を評価しない。成分がどれだけ含まれ、工程でどう変化するかという測定できる事実だけを扱う。理由は、健康影響の評価には疫学・臨床研究の読み方が必要で、それは当サイトが担える範囲を超えるからである。

協会が書いていることは、そのまま紹介する。 全日本コーヒー協会は、クロロゲン酸類について「脂肪の吸収抑制、発がん予防、糖尿病予防などの機能性について報告されています」と記している。
これは協会自身が「報告されています」という伝聞の形で書いている記述であり、個別の研究を当サイトが確認したものではない。効果の大きさ、対象、条件については何も述べられていない。
測れる事実として書けるのは、抗酸化「活性」までである。 02節の抗酸化活性(生豆70.32% → 焙煎豆59.54%)は、DPPHなどの試験管内での測定値であって、体の中で何が起きるかを示すものではない。当サイトはこの数値を、成分の変化を追うための指標として載せている。

健康について調べたい場合は、全日本コーヒー協会の「サイエンスと健康」coffee.ajca.or.jp/health/)が、業界団体としてまとまった情報を出している。

07

今後追加すべき項目

  • 同じ豆で「生豆・焙煎豆・抽出液・かす」を通しで測った資料 — これが見つかれば、このページの数値はすべて1本につながる。現状はすべて別々の研究の数値であり、当サイトは引き算をしていない。最優先の空白。
  • 脂質・糖・タンパク質の個別ページ — 生豆の重量の大半を占めるのに、当サイトに独立ページが無い(05節の点線枠)。
  • アラビカ種とカネフォラ種の成分の数値比較 — 協会は「ロブスタのほうが高い傾向」と傾向だけを述べており、数値を公表していない。数値のある一次資料を探す。
  • クロロゲン酸ラクトン類 — 協会が「別にある」と付記した物質群。苦味のページとつなぐべき項目。
  • 抽出方法による成分の差 — エスプレッソ・ペーパードリップ・水出しで液に出る成分の量。抽出のページとつなぐ。
  • 日本国内で測られた成分値 — 02節はエチオピア産、04節はコロンビア産とポルトガルの研究。日本の団体が公表している実測値を確認できていない。
  • 生豆組成の合計が100%にならない件 — 原典が水分基準と乾物基準を混在させている可能性が高いが、当サイトは原典にあたって確認できていない(01節)。
  1. Münchow M, Alstrup J, Steen I, Giacalone D「Roasting Conditions and Coffee Flavor: A Multi-Study Empirical Investigation」Beverages 6(2):29(2020年、オープンアクセス CC BY、DOI 10.3390/beverages6020029、2026年9月3日に全文取得)— 01節の生豆組成と、焙煎による重量・水分・体積の変化は、同論文の序論の記述である。同論文はこれを Belitz ほか『Food Chemistry』(2009)、Clarke & Vitzthum『Coffee: Recent Developments』(2008)、Schenker ほか(2000)に帰しており、当サイトはそれらの原典を確認していない
  2. Sualeh A, Tolessa K, Mohammed A「Biochemical composition of green and roasted coffee beans and their association with coffee quality from different districts of southwest Ethiopia」Heliyon 6(12):e05812(2020年12月、オープンアクセス、DOI 10.1016/j.heliyon.2020.e05812、2026年9月3日に全文取得)— エチオピア南西部BenchMaji・Sheka両ゾーンの9地区。焙煎前後の実測値(Table 1)
  3. 全日本コーヒー協会「コーヒー中のクロロゲン酸類とポリフェノールについて」(2016年7月7日、coffee.ajca.or.jp/news/1416/、2026年9月3日に取得)— 焙煎度・品種とクロロゲン酸類/総ポリフェノールの関係。数値は公表されておらず、傾向の記述のみ
  4. Alstrup J, Petersen MA, Larsen FH, Münchow M「The Effect of Roast Development Time Modulations on the Sensory Profile and Chemical Composition of the Coffee Brew as Measured by NMR and DHS-GC–MS」Beverages 6(4):70(2020年、オープンアクセス CC BY、DOI 10.3390/beverages6040070)— 抽出液のNMR分析。単糖が検出されなかった件
  5. Cruz R, Baptista P, Cunha S, Pereira JA, Casal S「Carotenoids of Lettuce (Lactuca sativa L.) Grown on Soil Enriched with Spent Coffee Grounds」Molecules 17(2):1535–1547(2012年、オープンアクセス、DOI 10.3390/molecules17021535)— 本来は土壌施用の研究であり、抽出後の粉の組成は材料の記述として報告されているものである