コーヒーの脂質
生豆の重さの1割から1割半は脂質である。ほとんどは豆の内部にある「コーヒーオイル」で、ふつうの食用植物油に近い成分でできている。ただしコーヒーには、ほかの植物油にはあまりないジテルペンという成分が多く、脂質全体の最大2割を占める。このジテルペンは、焙煎の深さの目安や、ブレンドにロブスタが混ざっているかを見分ける目印として使われている。脂質は水に溶けにくいので、どれだけ一杯に移るかは淹れ方で大きく変わる。
- 生豆の脂質(アラビカ)
- 平均約15%
- 生豆の脂質(ロブスタ)
- 約10%
- ジテルペン
- 脂質の最大20%
- ペーパーフィルターで一杯に移る脂質
- 0.2%未満
どれくらい入っていて、どこにあるのか
SOURCE: Speer & Kölling-Speer 2006[1]ドイツ・ドレスデン工科大学の食品化学研究所による総説[1]は、アラビカ種とカネフォラ種(いわゆるロブスタ)の生豆の脂質を次のようにまとめている。
- 含有量の幅
- 2つの種で7〜17%
- アラビカ
- 平均約15%
- ロブスタ
- 約10%。アラビカよりかなり少ない
- コーヒーオイル
- 脂質の大部分。生豆の胚乳(豆の本体)の中にある
- コーヒーワックス
- 豆の表面をおおう薄いろうの層。豆の重さの0.2〜0.3%
何でできているのか
SOURCE: Speer & Kölling-Speer 2006[1]コーヒーオイルの中身は、大きく次のように分かれる[1]。
- トリアシルグリセロール
- いちばん多い成分。含まれる脂肪酸の割合は、ふつうの食用植物油と似ている
- ジテルペン
- カフェストール、カーウェオール、16-O-メチルカフェストールなど。脂質全体の最大20%を占める。脂肪酸の約20%は、このジテルペンと結びついた形で存在する
- ステロール
- 脂質の1.5〜2.4%。いちばん多いのはβ-シトステロール(約50%)で、スチグマステロール、カンペステロールが続く
- トコフェロール
- いわゆるビタミンEの仲間。14種類の生豆を調べた研究では、合計が平均100gあたり11.9mg(最大15.7mg)
脂肪酸は、ほとんどがほかの成分と結びついた形で入っていて、単独の「遊離脂肪酸」はとても少ない。遊離脂肪酸で多いのは、2つの種ともリノール酸とパルミチン酸である[1]。
ロブスタの混入を見分ける目印になる
SOURCE: Speer & Kölling-Speer 2006[1]ジテルペンの顔ぶれは、2つの種ではっきり違う[1]。
- アラビカ
- カフェストールとカーウェオール
- ロブスタ
- カフェストール、少量のカーウェオール、そして16-O-メチルカフェストール
16-O-メチルカフェストールはアラビカの豆からは見つかっておらず、しかも焙煎しても壊れにくい。そのためブレンドにロブスタが入っているかを調べる目印として使われ、ドイツ規格(DIN 10779、1999年)の方法では、アラビカに2%未満しか混ざっていないロブスタも検出できると総説は書いている。ステロールの一部(24-メチレンコレステロールなど)もロブスタに多いが、こちらは量のばらつきが大きく、混入が20%以上あるときにしか使えないという。
量にも差がある。脂肪酸と結びついたカフェストールは、アラビカで乾物1kgあたり5.2〜11.8g、ロブスタで1.2〜4.2gだった[1]。
焙煎で、何が変わって何が変わらないか
SOURCE: Speer & Kölling-Speer 2006[1]- 脂肪酸の割合
- 焙煎しても小さな変化しかない
- ステロール
- 焙煎でほとんど変わらない
- トコフェロール
- 焙煎後も83〜99%が残る
- カフェストール・カーウェオール
- 焙煎の温度が高いほど分解が進み、デヒドロカフェストールなどに変わる
この最後の変化は、焙煎の深さを客観的に測る目安として提案されている。総説によれば、カフェストールとデヒドロカフェストールの比が25〜40ならふつうに焙煎されたコーヒー、15以下なら深く焙煎されたコーヒーで、より深いエスプレッソ用のコーヒーは10〜15だった[1]。
生豆の保存で、脂質は傷む
SOURCE: Speer & Kölling-Speer 2006[1]脂肪を分解する酵素(リパーゼ)は、10年たったブラジルの生豆でも働いていた。この酵素が脂肪を分解すると、遊離脂肪酸が増える。研究グループはコロンビアの生豆1,000kgを2kgずつ袋に分け、温度・水分・酸素の条件を変えて18か月保存した[1]。
| 保存の条件 | 遊離脂肪酸(生豆1kgあたり) |
|---|---|
| 25℃・もとの水分(11.8%) | 18か月で 1.8g → 約3.8g |
| 25℃・乾燥(水分6.2%) | 18か月後も 1.9〜2.3g にとどまった |
| 25℃・湿った状態(水分13.5%) | 18か月で 約4.8g まで増えた |
| 12℃ | 湿った状態でも最大 2.7g |
| 40℃・湿った状態 | 3か月でもう大きく変わり、1年で 最大約7g |
酸素の濃さ(2%・5%)を変えても遊離脂肪酸の量は変わらなかった一方で、水分と温度は強く影響した。40℃の試験は1年で打ち切られ、その理由は「焙煎して淹れたコーヒーが、もはや論じるに値しなかった」ためだと書かれている[1]。脂肪と結びついていたカフェストールも、湿った豆を25℃や40℃に置くと、全体の最大16%が単独の形にほどけた。
一杯に移る脂質は、淹れ方で大きく違う
SOURCE: Speer & Kölling-Speer 2006[1]脂質は水に溶けにくい。どれだけ飲み物に入るかは、淹れ方で桁が変わる。総説がまとめている値は、挽いたコーヒーに含まれる脂質のうち何%が一杯に移ったかである[1]。
| 淹れ方 | 一杯に移った脂質の割合 |
|---|---|
| 家庭用コーヒーメーカー(フィルター) | 0.2%未満 |
| エスプレッソ | 1〜2% |
| スカンジナビア式(煮出し) | 最大22% |
アラビカのエスプレッソでは、50mLの一杯に、脂肪酸と結びついたカフェストールが1.3mg、カーウェオールが0.5mg含まれていたという測定も紹介されている[1]。飲み物の中のジテルペンの割合は、挽いた粉の中の割合とほとんど同じだった。
豆の表面の「ワックス」
SOURCE: Speer & Kölling-Speer 2006[1]生豆の表面には薄いろうの層があり、豆の重さの0.2〜0.3%を占める。その主な成分は、セロトニンと脂肪酸が結びついたカルボン酸-5-ヒドロキシトリプタミド(C-5HT)という物質群である[1]。
- ロブスタ
- C-5HTの合計が生豆1kgあたり 565〜1,120mg
- アラビカ
- 500〜2,370mg。ロブスタより明らかに多い
- 30年保存した豆
- 160〜950mgに減っていた
- 焙煎
- 一部が分解される
今後追加すべき項目
- Speer K, Kölling-Speer I「The lipid fraction of the coffee bean」Brazilian Journal of Plant Physiology 18(1):201-216(2006年、オープンアクセス CC BY-NC、ドレスデン工科大学 食品化学研究所)— 本ページの全節。出版元の SciELO は2026年9月23日の時点でサーバーエラーが続いていたため、Internet Archive に保存された同じ論文の全文(2024年11月26日保存)を読んだ。表と図は画像のため、本文に書かれた数値だけを使っている