⭐ 比率がはっきり違う。AJCAは湯1kgあたり75g、SCAAは55g——AJCAのほうが4割ほど濃い計算になる。どちらかが間違っているという話ではない。SCAAの55g/kgはSCA Standard 310-2021が定める「標準抽出比率」と同じ数値で、認証機器の取扱説明書に明記が義務づけられているほどの基準である(→抽出ページ 02章)。一方AJCAの数値は日本の家庭向けの1杯分のレシピである。目的も対象も違う2つの数値を、当サイトはどちらも正しいものとして並べて示す。
①確認できたこと:抽出液は時間とともに薄くなり続け、成分ごとに薄くなる速さが違う。抽出ページ07章で扱ったSchmieder et al.(2023)は、パーコレーション式(エスプレッソ)の抽出を時間経過で10画分に分けて測定し、すべての成分の濃度は最初の画分でもっとも高く、抽出が進むほど指数関数的に下がること、そしてトリゴネリンとTDSがもっとも速く下がり、5-CQA・カフェインはそれより緩やかに下がることを報告している。つまり抽出の後半に出てくる湯は「同じコーヒーが薄まったもの」ではなく、「相対的な成分構成そのものが変化した液体」だという点は、実測データの裏付けがある(対象はエスプレッソで、ハンドドリップそのものではない——抽出ページ07章の開示を参照)。
Primary source quote
Sensory-guided fractionation of a roasted coffee brew ... demonstrated a group of ethyl acetate soluble compounds formed from O-hydroxycinnamoyl quinic acid derivatives upon coffee roasting as the key compounds contributing to the bitter taste of roasted coffee beverages.
③確認できなかったこと:①と②を直接つなぐデータ。Frank et al.の分画は「時間で区切った抽出画分」ではなく、「できあがった抽出液を分子の性質(溶解度など)で分けた画分」である。つまり「キニド類が、ハンドドリップの抽出後半になるほど相対的に多く出てくる」ということを時間分解で直接測定した資料は、本セッションでは見つかっていない。①の抽出速度データと②の化合物同定データは、それぞれ独立した研究であり、この2つを橋渡しする一次資料は、当サイトの今後の課題として残す。「全部落としきると渋みが残る」という経験則そのものを否定するものではないが、その化学的なメカニズムを直接示した論文は、まだ確認できていない、というのが現状である。
Primary source quote
Simplified, these have been grouped into acidic, sweet and bitter compounds, that dissolve at different rates throughout the extraction of an espresso. This means that the first part of the espresso is dominated by acidic/sour flavours, sweetness in the middle and bitterness towards the end. [...] Extraction yields under 18% (under-extracted) lack flavour and the coffee can taste too acidic. For extraction yields above 22% (over-extracted) the coffee can taste too bitter.
「落としきると渋みが残る」のメカニズムを直接示すデータ — 06節で扱った通り、抽出速度の時間分解データ(Schmieder et al. 2023)と苦味成分の同定(Frank et al. 2006)は別々の研究で、両者を橋渡しする一次資料はまだ見つかっていない(→抽出ページ 11章にも同じ宿題を記載)。Moroney et al.(2019)が「抽出率22%超=過抽出=苦味」という数値の裏付けを補強したが、キニド類そのものの時間分解データではない。
Frank et al.(2006)の本文確認 — 06節で紹介した苦味物質の同定研究は、本セッションでは要旨のみの確認にとどまる。
SCA「Coffee Decoded: What is "freshly roasted" coffee?」— 蒸らしでふくらむ理由(炭酸ガス)。当サイトの保存のページで確認したもの
Schmieder, B.K.L. ほか「Influence of Flow Rate, Particle Size, and Temperature on Espresso Extraction Kinetics」Foods 12(15):2871(2023年、DOI: 10.3390/foods12152871)——オープンアクセス(CC BY 4.0)。当サイトの抽出ページ 07章で確認したもの
Frank, O., Zehentbauer, G., Hofmann, T.「Bioresponse-guided decomposition of roast coffee beverage and identification of key bitter taste compounds」European Food Research and Technology 222(5-6): 492-508(2006年、DOI: 10.1007/s00217-005-0143-6)——本セッションでは要旨のみ確認、本文(有料)未確認
Moroney, K.M. ほか「Analysing extraction uniformity from porous coffee beds using mathematical modelling and computational fluid dynamics approaches」PLOS ONE 14(7): e0219906(2019年、DOI: 10.1371/journal.pone.0219906)——オープンアクセス(CC BY)。当サイトの抽出ページ 07章で確認したもの