HACHIMARU COFFEE ROASTERY
抽出 / Iced Coffee / Cold Brew

アイスコーヒーと水出しIced Coffee / Cold Brew

冷たいコーヒーの作り方は、大きく2つある。熱いお湯で淹れて氷で一気に冷やす「急冷式」と、冷たい水に何時間も漬けて出す「水出し(コールドブリュー)」この2つは別の淹れ方である。そして「水出し」には、何℃の水で何時間かを定めた基準が世界のどこにも無い——学術論文がそう書いている。

急冷式
熱く淹れて氷で冷やす
水出し
冷たい水で6〜26時間
水出しの定義
存在しない
日本の表示ルール
規定なし
01

「アイスコーヒー」と「水出し」は、別の淹れ方である

SOURCE: 全日本コーヒー協会 / Foods 2021

冷たいコーヒーには、作り方が2通りある。熱いお湯で淹れてから冷やすのか、はじめから冷たい水で時間をかけて出すのか。この2つは、まったく別のものである。

急冷式(アイスコーヒー)

熱いお湯でふつうに淹れて、氷で一気に冷やす。淹れる時間はホットと同じ数分。氷で薄まるぶん、粉を多め・お湯を少なめにして濃く出す。

水出し(コールドブリュー)

冷たい水にコーヒーを漬けたまま、何時間もかけて出す火もお湯も使わない。ダッチコーヒー、ウォータードリップとも呼ばれる。

⭐ 学術論文も、この2つをはっきり区別している。 2021年の学術誌 Foods に載った水出しコーヒーの研究は、冒頭で「アイスコーヒーとは、熱く淹れたあとに冷やしたコーヒーである(Iced coffee is hot brewed coffee which is then cooled)」と定義し、水出し(cold brew)はそれとは別の抽出方法だとして論を進めている。同じ論文は「水出しがアイスコーヒーに取って代わりつつある」とも書いている。
日本語の呼び方は、ここが少しややこしい。 日本では冷たいコーヒー全般を「アイスコーヒー」と呼ぶことが多く、水出しで作ったものも店では「アイスコーヒー」として出される「アイスコーヒー」は飲みものの温度の呼び名、「水出し」は淹れ方の呼び名——と考えると、両者は矛盾しない。当ページは、AJCA(全日本コーヒー協会)の資料にならって「急冷式のアイスコーヒー」と「水出し」を分けて扱う。
02

急冷式アイスコーヒーの淹れ方

SOURCE: 全日本コーヒー協会「アイスコーヒー」

AJCAはペーパードリップで淹れるアイスコーヒーの手順を公開している。1杯140mL分の分量である。

材料(1杯140mL分)分量
コーヒー粉12〜15g(細挽き〜中細挽き)
140mL
適量
準備
湯を沸かし、湯温が95℃前後になるまで少し置く。ペーパーフィルターのシール目を交互に折り曲げ、ドリッパーにセットする。
01
コーヒー粉を入れる。ドリッパーを振って粉の表面をならす。
02
お湯を20mL注いで30〜40秒蒸らしたのち、3回に分けてお湯を注ぎ、コーヒーを抽出する。
03
サーバーを氷水に浸して冷やす。
⭐ ポイントは「濃く淹れる」こと。 AJCAは「氷が溶けて薄まることを考慮して、粉は多めに、お湯は少なめにして濃く抽出すること」と書いている。ホットのペーパードリップは粉12g・湯160mL(→ペーパードリップのページ)なのに対し、アイスは粉12〜15g・湯140mL粉は同じか多め、湯は20mL少ない——その差が「濃く」の中身である。
もう一つのやり方も、同じ資料に書かれている。 AJCAは「氷が入ったサーバーに直接注ぎ入れて冷やす方法もあります」とし、「抽出されたコーヒーの一滴一滴が、サーバー内の氷に直接当たって冷やされます。急冷されるので、透明度の高い清涼感ある仕上がりに」と説明している。冷やす速さが、仕上がりの透明感に効くという説明である。
03

水出しには、2つのやり方がある

SOURCE: 全日本コーヒー協会「いろいろな器具」/ Foods 2021
方式やり方時間の目安
滴下式
(ウォータードリップ)
水を一滴ずつポタポタと落として抽出する。専用の器具を使う。6〜8時間(10杯分)
浸漬式
(漬け込み式)
容器の中でコーヒー粉を水に漬けたまま置く。ポットや瓶で作れる。調査での最頻値は20〜26時間
Primary source quote
6〜8時間(10杯分)かけて一滴ずつポタポタと水を落としてコーヒーを抽出。ウォータードリップ、ダッチコーヒー、コールドブリューともいわれ、コクのある甘味が特長です。
全日本コーヒー協会「いろいろな器具」のウォータードリップ(水出しコーヒー滴下式)の項より。AJCAが挙げている水出しは、この滴下式だけである。
⭐ 浸漬式はAJCAの資料には出てこない。 家庭で「水出しコーヒーのパックを冷蔵庫に一晩」というのは浸漬式にあたるが、AJCAの器具紹介にこの方式は載っていない。当ページが浸漬式について書けるのは、04節以降で扱う学術研究がこの方式を調べているからである。どちらが「正しい水出し」かを決めた資料は無い
「ダッチコーヒー」という呼び名について。 Foods の論文は、「17世紀に、オランダ人がコーヒーを日本に持ち込んだとき、この淹れ方が日本で知られるようになった」と書いている。ただしこれは論文が別の文献を引いて紹介している記述であり、当サイトはこの由来そのものを一次資料で確認していない「そう説明されている」以上のことは書かない——インスタントコーヒーの加藤サトリ博士の扱いと同じである。
04

⭐ 「水出し」には、定義がない

SOURCE: Foods 2021, 10(4), 865

何度も水出しを飲んでいても、「水出しとは何℃以下の水で何時間?」と聞かれると答えられない——これは飲む側の知識不足ではない。決めた資料が、そもそも存在しないのである。

Primary source quote
There is a complete lack of definition of cold brew, not even what is meant by “cold”.(水出しには定義がまったく存在しない。「冷たい」が何を指すのかさえ定まっていない)
Foods 2021年、10巻4号865(doi:10.3390/foods10040865)より。同論文は「熱いコーヒーと違い、抽出時間・抽出温度・分量・水の組成・豆の種類・挽き目・焙煎度といったパラメータについて、統一された標準的な製法が今なお存在しない」とも述べている。

同じ論文が作り手へのオンライン調査(回答126件)で集めた「いちばん多かった条件」は、下の表のとおりである。これは基準ではなく、実際の分布の最頻値である。

項目いちばん多かった回答その割合
粉と水の比率50〜100 g/L44%
抽出温度8℃47%
抽出時間20〜26時間35%
挽き目粗挽き45%
豆の種類アラビカ種53%
焙煎度中煎り54%
保存期間平均1.5日
⭐ 回答者の41%は20℃以上で抽出していた。 論文はさらに「41%が20℃以上で水出しを抽出している」と報告し、回答者の一部は熱く淹れて冷やしたものを『水出し』と呼んでいるとも指摘している。作っている人の間でも言葉が揃っていない——それが「定義がない」の実態である。
開示:この論文は当サイトが基準とする7団体のものではない。 Foods は査読のある学術誌で、この論文はオープンアクセスで全文を確認できる。当サイトは抽出のページでも学術論文(UC Davis Coffee Centerの研究)を同じ扱いで引用している。業界団体の基準ではなく、あくまで一つの研究の結果として読んでいただきたい。
05

何時間漬ければいいのか

SOURCE: Scientific Reports 2017 / Foods 2021

レシピには「一晩(8〜12時間)」「24時間」などと書かれている。これを実際に測った研究がある。

Primary source quote
カフェインと3-CGA(クロロゲン酸)の濃度は、すべての水出しサンプルで6〜7時間のあいだに一次反応速度式にしたがって平衡に達した——一般的な水出しの方法で示されている10〜24時間ではなく。
Scientific Reports 2017年、7巻17979(doi:10.1038/s41598-017-18247-4)の要旨より要約。実験条件は室温21〜25℃、粉35.0g/水350mL(=100g/L)、ハワイ・コナ産アラビカ種(ティピカ)を使用。
別の研究も、同じ方向の結果を出している。 Foods 2021の抽出実験も「通常の抽出時間は必要以上に長い可能性がある。ほとんどの成分はわずか数時間のうちに抽出されてしまう」と結論している。2つの独立した研究が、同じ「思ったより早く終わっている」という方向を指している。
⚠️ ただし「6時間で完成」とは書かれていない。 測られたのはカフェインとクロロゲン酸という特定の成分の濃度であって、味や香りが6時間で完成するとは論文は言っていない成分の濃度が頭打ちになる時間と、おいしいと感じる時間は別の話である——当サイトはここを混ぜない。
挽き目の影響は小さかった。 同じ2017年の研究は「挽き目の大きさは水出しサンプルのクロロゲン酸・カフェイン濃度に有意な影響を与えなかった」とし、これらの成分の抽出を決めている段階は表面積に依存していないと述べている。お湯の抽出では挽き目が効くのに、水出しでは効きにくい——抽出ページ 06章の浸漬式の知見(TDSは幅広い粒度の範囲でほぼ一定)とも重なる方向である。
06

「水出しは酸っぱくない」は本当か

SOURCE: Scientific Reports 2018, 8:16030

水出しは「まろやか」「酸味が少ない」とよく言われる。これを測った研究の結果は、少し込み入っている。

測ったもの結果
pH(酸性度)水出しと熱湯抽出で同等。どちらも4.85〜5.13の範囲
総滴定酸度熱湯抽出のほうが高かった
抗酸化活性熱湯抽出のほうが高かった
⭐ 「pHは同じ、でも酸の量は違う」。 pHが同じでも、中に含まれる酸の総量(滴定酸度)は熱湯抽出のほうが多かったという結果である。論文は「熱湯抽出のほうが、脱プロトン化していない酸をより多く抽出する傾向がある」と述べている。「水出しは酸味が少ない」という感覚には、pHではなく酸の総量のほうが対応している可能性がある——ただし論文はここまでで、味の感じ方との対応そのものを検証してはいない
抗酸化活性が熱湯のほうが高かった点も、そのまま書いておく。 水出しは健康によい、という宣伝を目にすることがあるが、この研究では熱湯抽出のほうが抗酸化活性は高かった当サイトは健康に関する助言を行わないので、測定結果をそのまま示すにとどめる。使われたのはブラジル・エチオピア2地域・コロンビア・ミャンマー・メキシコの浅煎りで、粉と水の比率は熱湯抽出と同じに揃えられている。
07

「水出しはカフェインが少ない」は本当か

SOURCE: Scientific Reports 2017, 7:17979
Primary source quote
粗挽きの水出しサンプルのカフェイン濃度は、対応する熱湯抽出のものよりかなり高かった(substantially higher)。
Scientific Reports 2017年、7巻17979の要旨より。同じ豆・同じ比率で比べた場合の話である。
⭐ 少なくともこの研究では、逆の結果が出ている。 「冷たい水だから成分が出にくい=カフェインも少ない」というのは、この実験結果と合わない水出しは時間をかけるぶん、結果的にカフェインがしっかり出ているということになる。ただしこれは「同じ豆・同じ粉と水の比率で比べたら」という条件つきである。
実際に飲む1杯の量は、また別の話。 水出しは濃く作って薄めて飲むこともあれば、そのまま飲むこともある1杯あたりに何mg入るかは、比率と飲む量で決まる——エスプレッソのページ 08節と同じ考え方である。日本食品標準成分表には「水出しコーヒー」の項目がないので、当サイトは1杯あたりの数値を示せない
08

水出しは、日持ちしない

SOURCE: Foods 2021(微生物検査)

加熱しない飲みものである以上、ここは書いておく必要がある。Foods の研究は、市販の水出しコーヒーの微生物検査も行っている。

検査結果内容
微生物量の増加2検体(全体の9%)で確認
1検体目腐敗の原因となる乳酸菌と酵母の菌数が明らかに増加
2検体目セレウス菌(Bacillus cereus)の疑いのある汚染。保存期間5日の水出しコーヒーだった
論文の書き方を、そのまま伝える。 論文は「抽出時間と保存時間を短くすることは、水出し製品の品質にとって有益でありうる」と結論している。作り手への調査で出た保存期間の平均は1.5日だった(04節の表)一方、回答者の一部は7日まで保存するとも報告されている。セレウス菌については、論文自身が「食中毒と関連づけられてきた毒素を産生するが、それは今回検出された菌数よりかなり多い菌数に対応することがほとんどである」と注釈している——検出=ただちに危険、という書き方を論文はしていない
当サイトは健康・衛生上の助言を行わない。 ここに書いたのは論文が報告した検査結果だけである。家庭での保存日数の判断については、公的機関の食品衛生の情報を参照されたい。 なおコーヒー豆そのものの保存についてはコーヒー豆の保存方法で扱っている。
09

日本の表示ルールに「アイスコーヒー」「水出し」は出てこない

SOURCE: 公正競争規約 全文

日本のコーヒーの表示ルール(公正競争規約)の全文を検索したが、「アイスコーヒー」「水出し」「コールドブリュー」いずれの語も出てこないこの規約が定義しているのは、あくまで袋・瓶で密封して売られる豆と粉のほうだからである。

⭐ 「アイスコーヒー用」と書かれた豆について、規約は何も定めていない。 店頭で見かける「アイスコーヒー用」「アイスブレンド」といった表示に、公的な条件(深煎りであること、この豆を使うこと等)は無い規約が定めているのは「○○ブレンド」を名乗るための30%ルールや、産地名・銘柄名の使い方のほうである(→銘柄名の表示ルール)。
缶・ペットボトルのアイスコーヒーは、別の規約の側にある。 この規約は対象を「容器又は包装に密封されたもの」としつつ、「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約の適用を受けるものは除く」と自分で書いている(→インスタントコーヒー 01)。缶コーヒー・ペットボトル入りのアイスコーヒーは、そちらの規約が扱う2026年8月21日、その規約の原文PDFを入手し、独立したページを新設した(→缶コーヒーの表示ルール(→10)。
10

今後追加すべき項目

  1. 全日本コーヒー協会(AJCA)「アイスコーヒー」(coffee.ajca.or.jp/知る・楽しむ、2026年8月20日取得)— 急冷式アイスコーヒーの材料・手順、氷入りサーバーに直接落とす方法
  2. 全日本コーヒー協会(AJCA)「いろいろな器具」(同上)— ウォータードリップ(水出しコーヒー滴下式)6〜8時間・10杯分、ダッチコーヒー/コールドブリューの別名
  3. Rahn, A. ほか「Cold Brew Coffee—Pilot Studies on Definition, Extraction, Consumer Preference, Chemical Characterization and Microbiological Hazards」Foods 2021年10巻4号865(doi:10.3390/foods10040865、オープンアクセス)— 定義の不在、作り手調査(比率・温度・時間・挽き目・保存)、抽出実験、三点識別試験、微生物検査
  4. Fuller, M. & Rao, N. Z.「The Effect of Time, Roasting Temperature, and Grind Size on Caffeine and Chlorogenic Acid Concentrations in Cold Brew Coffee」Scientific Reports 2017年7巻17979(doi:10.1038/s41598-017-18247-4、オープンアクセス)— 6〜7時間で平衡、粗挽き水出しのカフェインは熱湯抽出より高い、挽き目の影響は有意でない
  5. Rao, N. Z. & Fuller, M.「Acidity and Antioxidant Activity of Cold Brew Coffee」Scientific Reports 2018年8巻16030(doi:10.1038/s41598-018-34392-w、オープンアクセス)— pH 4.85〜5.13で同等、総滴定酸度と抗酸化活性は熱湯抽出のほうが高い
  6. 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定)— 全文を検索し「アイスコーヒー」「水出し」「コールドブリュー」の語が存在しないことを確認(2026年8月20日)