HACHIMARU COFFEE ROASTERY
銘柄・表示ルール / Trade Names

コーヒーの銘柄名とは

モカ、キリマンジャロ、ブルーマウンテン、マンデリン——喫茶店のメニューでおなじみのこれらの名前は、品種名でも品質の等級でもなく、産地につけられた呼び名(銘柄名)である。日本ではこの呼び名の一部が公的に認定された表示ルールで定義されている。何を名乗れて何を名乗れないのかを、その原文から整理する。

01

銘柄名は「品質の順位」ではない

「モカが一番いい」「やっぱりブルーマウンテン」といった言い方をよく聞くが、銘柄名そのものは順位づけの言葉ではない。当サイトでは、混同されやすい4つのしくみを次のように分けて扱っている。

しくみ何を表すか当サイトのページ
銘柄名どこで採れたかを指す呼び名。「モカ」「キリマンジャロ」など。日本では別表2が一部を定義している(→02)。このページ
品種コーヒーノキの植物としての種類。ティピカ、ブルボン、ゲイシャなど。銘柄名とは別の軸で、同じ銘柄の中に複数の品種がある。品種一覧
産地生産国・生産地域そのもの。エチオピア、タンザニア、ジャマイカなど。産地一覧
格付け(等級)豆の大きさ・欠点数などによる商取引上の等級。コロンビアのスプレモ、ケニアのAAなど。生豆の格付け
ややこしいのは、この4つが重なる名前があること。 たとえば「コロンビアスプレモ」は、銘柄名でありながら中身はコロンビアの輸出等級である(→03の表/個別ページ)。だからこそ「銘柄名=等級ではない」と一括りにも言えず、名前ごとに何を根拠にしているかを見る必要がある

個々のコーヒーがおいしいかどうかは、銘柄名ではなくそのロットを実際に評価した結果で決まる。国際的にはSCAのCVAという評価体系や、カップ・オブ・エクセレンスのような品評会がその役割を担っている(→CVAとはカップ・オブ・エクセレンスとは)。なお同じ規約は、客観的な根拠なしに「特上」「特選」「最高級」といった文言を使うこと自体を不当表示として禁じている(第6条(7))——順位づけの言葉は、根拠を示せる場合にしか使えないということでもある(→使ってはいけない言葉)。

02

日本には銘柄名の公的な定義がある

SOURCE: 公正競争規約 第5条 / 施行規則 第3条・別表2

「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」は、景品表示法第31条に基づき公正取引委員会・消費者庁の認定を受けた表示ルールである。この規約は、銘柄名の表示について次のように定めている。

Primary source quote
事業者は、コーヒーについて、コーヒー生豆の産地、品種、銘柄、有機その他これらに類する表示をしようとする場合には、施行規則に定める表示基準によらなければならない。
公正競争規約 第5条(特定事項の表示基準)より。これを受けた施行規則 第3条(1)ウは「コーヒー生豆の産地、品種、銘柄等については、別表2に定めるとおりとする」と定め、別表2に14の呼び名の範囲を列挙している。
「別表2にある名前だけしか使えない」という意味ではない。 別表2の見出しは「産地、品種、銘柄の区分及び範囲の例示」——つまり例示である。世の中にはここに載っていない産地名の商品も当然あるが、ここに載っている14の名前については、意味する範囲が公的に固定されているという読み方になる。
03

別表2が定義する14の銘柄名

SOURCE: 公正競争規約施行規則 別表2

原文の定義を、順番どおりに訳さずそのまま並べたもの。定義の細かさが名前ごとにまったく違う点に注目してほしい。

銘柄名別表2の定義(原文)粒度産地ページ
ブルーマウンテンジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区→ 個別ページジャマイカ
ハイマウンテンジャマイカ・ハイマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区→ 個別ページジャマイカ
ジャマイカジャマイカにて生産されたアラビカコーヒー豆のうち、1)及び2)以外のものをいう。国(除外つき)ジャマイカ
クリスタルマウンテンキューバにて生産された同国輸出規格に基づくアラビカコーヒー豆をいう。輸出規格→ 同じ構文の銘柄として解説
グアテマラアンテイグアグアテマラ・アンテイグア地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区グアテマラ
コロンビアスプレモコロンビアにて生産された同国輸出規格に基づくアラビカコーヒー豆をいう。輸出規格→ 個別ページコロンビア
モカハラーエチオピア・ハラー地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区エチオピア
モカマタリイエメンにて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。イエメン
キリマンジャロタンザニアにて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。ただし、ブコバ地区でとれるアラビカコーヒー豆は含まない。国(除外つき)→ 個別ページタンザニア
トラジャインドネシアのスラウェシ島トラジャ地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区→ 個別ページ
カロシインドネシアのスラウェシ島カロシ地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区→ 個別ページ
ガヨマウンテンインドネシアのスマトラ島タケンゴン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区→ 個別ページ
マンデリンインドネシアの北スマトラ州及びアチェ州(タケンゴン周辺のガヨマウンテン生産地区を除く)にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。州(除外つき)→ 個別ページインドネシア
ハワイコナアメリカのハワイ州南コナ地区及び北コナ地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。地区→ 個別ページ
① 14件すべてが「アラビカコーヒー豆」と書かれている。 別表2には例外がなく、ここに挙がった銘柄名はすべてアラビカ種であることが条件になっている。品種ページで扱っているロブスタ(カネフォラ種)は、これらの名前を名乗れない。
② 「山の名前」だからといって、その山のふもとという意味ではない。 キリマンジャロは「タンザニアにて生産されたアラビカ」——つまりキリマンジャロ山の周辺という限定ではなく、ブコバ地区を除いたタンザニア全体を指す。一方ブルーマウンテンは「ジャマイカ・ブルーマウンテン地区」と地区限定である(その範囲をジャマイカ側の法令がどう定めているかは産地ページで扱っている)。同じ「山の名前」でも、定義の広さがまったく違う。
③ わざわざ「除く」と書かれている名前が3つある。 ジャマイカ(ブルーマウンテン・ハイマウンテン以外)、キリマンジャロ(ブコバ地区を除く)、マンデリン(ガヨマウンテン生産地区を除く)。より狭い銘柄名が先にある場合、広いほうの名前はその残りを指すという構造になっている。名前どうしが重ならないよう整理されている、ということでもある。
04

「○○ブレンド」は30%から名乗れる

SOURCE: 公正競争規約施行規則 第3条(1)

同じ施行規則の第3条(1)には、銘柄名の名乗り方に関する2つの基準が並んでいる。ここが、お客さまからの質問で最も誤解が多いところである。

表示のしかた施行規則が定める条件(原文)読み方
「モカ」
(その銘柄のみと表示する場合)
特定のコーヒー生豆の産地、品種、銘柄等のみを使用している旨表示しようとする場合には、当該コーヒー生豆以外を使用してはならない。その銘柄100%。ほかの豆を混ぜてはいけない。
「モカブレンド」
(○○ブレンドと表示する場合)
「○○○ブレンド」(「○○○」は、コーヒー生豆の産地、品種、銘柄等をいう。)と表示する場合は、当該コーヒー生豆を30パーセント以上使用しているものに限り表示することができる。その銘柄が30%以上あれば名乗れる。残りの70%が何かは、この条文では限定されていない。
「モカブレンド」の残り70%は、原材料名欄を見れば分かる。 規約は原材料名について「ブレンドされている場合は、生豆生産国名を、原則としてブレンド比率の多い順に表示する」と定めている(AJCA「情報ラベル(一括表示)の見方」の解説より)。袋の裏の「コーヒー豆(生豆生産国=○○、○○他)」という表記は、多い順に並んでいるということである。→保存方法のページでも同じラベルを扱っている。
「炭焼モカブレンド」のような合わせ技にも条件がある。 施行規則は製法の冠表示について、「特定の銘柄コーヒーが30パーセント以上ブレンドされていることは勿論のこと、全てのコーヒーが特定の熱源のみによって焙煎された場合に限って冠表示を併記することができる」と定め、例として「モカ炭焼ブレンド」「炭焼モカブレンド」「ブルーマウンテン炭焼ブレンド」を挙げている。30%の条件と、焙煎方法の条件の両方を満たす必要がある。
05

個別の銘柄名

モカMocha / Moka別表2では「モカハラー」(エチオピア)と「モカマタリ」(イエメン)の2つに分かれている。港の名前、ブラジルの等級名、飲み物の名前としての「モカ」もあり、日本語で一番意味が多い銘柄名。 ブルーマウンテンBlue Mountain別表2は「ジャマイカ・ブルーマウンテン地区」と書くだけだが、ジャマイカ側の法令はその範囲を地名を結んだ一本の線として定義している。標高の条件はどこにも書かれていない。 ハワイコナKonaハワイ州法では「州の税務地図で指定された北コナ・南コナ地区」。「コナ」と名乗れる下限は現在10%だが、2027年7月1日から51%に引き上げられる。虚偽表示はクラスC重罪。 コロンビアスプレモColombia Supremo「スプレモ」は地名でも味の等級でもなく、豆の大きさの輸出等級(スクリーン17)。しかも別表2の定義文には「スプレモ」という語が一度も出てこない。 キリマンジャロKilimanjaro山のふもとという意味ではなく、ブコバ地区を除いたタンザニア全体。タンザニア・コーヒー・ボード自身が日本市場でのブランド力に言及しており、日本が最大の輸出先(34%)でもある。 マンデリンMandheling別表2で唯一「州」を単位に定義された銘柄名。すぐ隣のガヨマウンテンをわざわざ除外している。インドネシアだけが4つの銘柄名を持つ理由も扱う。 トラジャ・カロシ・ガヨマウンテンToraja / Kalosi / Gayo3つともインドネシア政府の地理的表示(GI)登録簿に正式登録されていることを、公式データベースの検索で確認した。

グアテマラアンテイグア・クリスタルマウンテンの個別ページは未作成。上の表の定義と産地ページのリンクが、現時点で当サイトが確認できている内容のすべて。

06

今後追加すべき項目

  1. 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定、告示第6号)— 規約 第5条、施行規則 第3条(1)、別表2、別表3(製法上の特性表示)
  2. 全日本コーヒー協会(AJCA)「情報ラベル(一括表示)の見方」— 原材料名・生豆生産国名の表示順の解説
  3. 出典の位置づけについて:公正競争規約は景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)第31条第1項に基づく業界の自主ルールで、公正取引委員会・消費者庁の認定を受けたもの。当サイトが基準とする7団体そのものではないが、日本国内の表示について公的に認定されたルールであるため一次資料として扱った。