収穫・精製 / Decaffeinated Coffee
カフェインレスコーヒーDecaffeinated Coffee / デカフェ
日本で「カフェインレス」と表示できるのは、カフェインを90%以上除去したコーヒーだけ ——これは公正取引委員会・消費者庁が認定した表示ルールで決まっている 。ではどうやって抜くのか。抜くのは焙煎する前の「生豆」の段階 で、水を使う方法、二酸化炭素を使う方法、そして法令が残留基準つきで認めている溶剤を使う方法 がある。
「カフェインレス」の条件 カフェインを90%以上除去
抜く段階 焙煎前の生豆
コーヒーのカフェイン 60mg/100ml
(参考)玉露 160mg/100ml
このページが扱うのは「作り方」と「表示のルール」である。 健康への影響や「何杯まで飲んでよいか」については、当サイトは助言を行わない ——中立の資料集であり、その立場にないためである。
公的機関がまとめた資料の所在だけは05 に記す。
01
「カフェインレス」と名乗れる条件
SOURCE: 公正競争規約施行規則
Primary source quote
カフェインを90パーセント以上除去したコーヒーにあっては、「カフェインレスコーヒー」、「デカフェネィテッドコーヒー」等と表示する。
⭐ 「ゼロ」ではない。 条件は90%以上の除去 であって、カフェインが完全になくなっていることではない 。全日本コーヒー協会(AJCA)は、通常のコーヒーが100mlあたり約60mgのカフェインを含むのに対し、デカフェコーヒーは「わずか6mg未満」と説明している 。デカフェにもカフェインは残っている ——これは規約の定義から当然にそうなる。
呼び名は複数ある。 規則は「カフェインレスコーヒー」「デカフェネィテッドコーヒー」等 と例示している。AJCAは「デカフェとは英語の『デカフェネイテッド』の略で、『カフェインを取り除いた』という意味。カフェインレスとも言われる」 とし、コーヒーに限らず紅茶やお茶から除去した場合もこう呼ぶ と説明している。店頭で見かける「カフェインレス」「デカフェ」「ノンカフェイン」のうち、規約が定義しているのは前2つの系統である ——「ノンカフェイン」は規約の例示にはない。
この定義は、袋の表示ルール全体の一部である。 一括表示の10項目、挽き方の5段階、「最高級」「天然」「フレッシュ」といった使えない言葉などは
パッケージの表示ルール で扱っている。
02
抜くのは、焙煎する前の生豆
SOURCE: 全日本コーヒー協会(AJCA)
Primary source quote
カフェインレスコーヒーの製造方法はいくつかありますが、ほとんどは焙煎前の「生豆(なままめ)」と呼ばれる段階で、カフェインを除去しています。
つまりコーヒーができるまでの流れのなかでは、脱穀 で生豆になったあと、焙煎 に入る前 に行われる工程ということになる(→コーヒーができるまで )。AJCAが挙げている方法は2つ。
方法 AJCAの説明
水抽出法みずちゅうしゅつほう 一般的な製法 。コーヒーの生豆を水に浸し、溶け出たカフェインを特殊フィルターなどで除去する。ただし、香りや味成分も抜けがちになる 。
超臨界二酸化炭素抽出法 二酸化炭素を使用してカフェインを除去する。豆に負担をかけずにカフェインだけを狙って取り除くため、おいしさはそのまま。香りや味の成分を逃しにくい 。
⭐ AJCAが挙げているのはこの2つだけである。 世界的にはこのほかに
溶剤を使う方法 もあり、
EUの法令はそれを残留基準つきで具体的に認めている (→
03 )。
AJCAのページに溶剤法の記述がないことは、日本で流通しているものがすべて水か二酸化炭素であることを意味しない ——
AJCAはそこまで書いていない ので、当サイトも書かない。
「香りや味も一緒に抜ける」という指摘は、方法の比較として書かれている。 AJCAは水抽出法について「香りや味成分も抜けがちになる」 、二酸化炭素法について「香りや味の成分を逃しにくい」 と、両者を対比して説明している。カフェインだけを選んで抜くのが技術的に難しい ということでもある。AJCAは別の記事で「近年ではカフェインを取り除く技術が向上し、味も改善され取り入れやすくなっています」 とも書いている。
⭐ AJCAの別の資料は、もう少し具体的に書いている。 「インスタントコーヒーQ&A」は
「コーヒー生豆を水に浸して水溶性のカフェインを取り出しやすくした後、最終的にカフェインだけを取り除いていきます」 とし、その方法の一例として
「水溶液から特殊な樹脂層や活性炭を用いてカフェインを吸着させる方法」 と
「炭酸ガスを用いてカフェインを除去する方法」 を挙げ、
「溶剤等を一切使用せずカフェインを除去する方法が確立しています」 と書いている。
①まず水に浸してカフェインを溶かし出す ②溶けた水溶液からカフェインだけを取り除く ——という2段構えであることが、この記述で分かる。
「水抽出法」が単に水に浸すだけの操作ではない ということでもある(→
インスタントコーヒーのページ )。
数値的な条件(温度・時間・回数など)は、AJCAの資料には書かれていない。 当サイトは
乾燥 や
焙煎 のページでは具体的な数値を載せているが、
脱カフェイン工程についてはそれに当たる一次資料をまだ入手できていない (→
06 )。
03
⭐ EUの法令は、使ってよい溶剤を名指しで決めている
SOURCE: 欧州指令 2009/32/EC
「抽出溶剤」に関するEUの指令(Directive 2009/32/EC) は、附属書Iで食品の製造に使ってよい溶剤を列挙し、そのうちいくつかについては用途と残留基準を個別に定めている 。そこに「コーヒーと茶の脱カフェイン」という用途が名指しで出てくる 。
区分 溶剤 コーヒー脱カフェイン時の残留基準
Part I適正製造規範(GMP)に従えば全用途で使用可。数値基準の定めなし 二酸化炭素 (Carbon dioxide)数値の定めなし
酢酸エチル (Ethyl acetate)
エタノール/プロパン/ブタン/アセトン/亜酸化窒素
Part II用途が指定され、残留基準が個別に定められている ジクロロメタン (Dichloromethane)焙煎したコーヒーで2mg/kg (茶は5mg/kg)
酢酸メチル (Methyl acetate)コーヒーまたは茶で20mg/kg
エチルメチルケトン (Ethylmethylketone=ブタノン)コーヒーまたは茶で20mg/kg
Part IIの3つは、用途の書き方まで同じである。 条文はいずれも「Decaffeination of, or removal of irritants and bitterings from coffee and tea(コーヒーおよび茶の脱カフェイン、または刺激性物質・苦味物質の除去)」 という同一の用途記述を持つ。脱カフェインという工程が、法令上ひとつの明確な用途として扱われている ことになる。
⭐ ジクロロメタンだけ基準が桁違いに厳しい。 酢酸メチル・エチルメチルケトンが20mg/kg なのに対し、ジクロロメタンは焙煎コーヒーで2mg/kg ——10分の1 である。指令はその理由を書いていない ので、当サイトは基準値の違いという事実だけを記載する 。
水はどこに出てくるのか。 附属書Iの一覧に水は入っていない。ただし指令の第2条3項は「酸度・アルカリ度を調整する物質を加えた水、および溶剤としての性質を持つその他の食品物質は、食品の製造における抽出溶剤として認められる」 と別に定めている。だから水抽出法には数値の残留基準が置かれていない ——水は附属書の管理対象ではなく、条文で一般的に認められている という構造になっている。
これはEUの法令であって、日本の基準ではない。 当サイトは、日本の食品衛生法における脱カフェイン用溶剤の扱いをまだ確認できていない (→
06 )。
EUの指令を載せているのは、「どんな方法が現実に使われているか」を法令の側から具体的に読み取れる、数少ない一次資料だから である。
日本で売られているデカフェがどの方法で作られたかは、この指令からは分からない。
04
そもそも、どれくらい入っているのか
SOURCE: 内閣府 食品安全委員会 ファクトシート「食品中のカフェイン」
日本の食品安全委員会 が公表しているファクトシートに、飲み物ごとのカフェイン濃度の一覧 がある。浸出方法(何gを何mlで淹れたか)まで併記されている のが、この資料の要点である。
玉露 160 mg
コーヒー 60 mg
インスタントコーヒー 57 mg
紅茶 30 mg
せん茶 20 mg
ウーロン茶 20 mg
デカフェコーヒー 6 mg未満
いずれも100mlあたり。浸出方法:コーヒー=粉末10g/熱湯150ml、インスタント=2g/熱湯140ml、玉露=茶葉10g/60℃の湯60ml・2.5分、紅茶=茶5g/熱湯360ml・1.5〜4分、せん茶=茶10g/90℃430ml・1分、ウーロン茶=茶15g/90℃の湯650ml・0.5分 (食品安全委員会)。デカフェの「6mg未満」はAJCAの記述 で、これは01 の「90%以上除去」から導かれる数字である。
⭐ 玉露はコーヒーの約2.7倍ある。 「お茶のほうがカフェインが少ない」という言い方をよく聞くが、この表ではそうなっていない 。ただし並んでいるのは「同じ100mlあたり」の濃度 であって、玉露は60mlの湯で10gの茶葉を淹れる想定 ——1回に飲む量が違う 。浸出方法まで併記されているのは、そこを読み違えないためである。
インスタントコーヒーは、ほぼ同じ濃度になっている。 コーヒー60mg/インスタント57mg 。ただし前者は粉10g/150ml、後者は2g/140ml——使う量がまったく違う条件で、結果的に近い濃度になっている 。「インスタントはカフェインが少ない」とは、この資料からは言えない。
この数字も、淹れ方で変わる。 当サイトの
抽出のページ で扱っているとおり、
湯温・粉の量・時間で抽出されるものは変わる 。ファクトシートの数値は
特定の浸出条件のもとでの値 であり、
家庭で淹れた一杯がこの通りとは限らない 。
05
当サイトが書かないこと
SOURCE: 同ファクトシート
デカフェを選ぶ理由は健康や体質にかかわることが多いが、当サイトはコーヒーの資料集であって、健康に関する助言をする立場にない 。ここでは公的な資料の所在と、その資料が「何を決めていないか」だけ を記す。
Primary source quote
カフェインに対する感受性は個人差が大きいため、健康に及ぼす影響を正確に評価することは難しく、カフェインの一日摂取許容量(ADI) は設定されていません。
内閣府 食品安全委員会 ファクトシート「食品中のカフェイン」(作成 平成23年3月31日/最終更新 平成30年2月23日)より。「一日にこれだけまで」という日本の公式な上限値は存在しない ということになる。
ただし各国の当局は、それぞれの目安を示している。 同じファクトシートは、欧州食品安全機関(EFSA)、オーストリア保健・食品安全局(AGES)、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、フィンランド食品安全局(EVIRA)など の評価結果を国ごとに整理して紹介している。その中身は資料本体を直接読むのがよい ——当サイトが要約して伝えると、条件(対象年齢・体重・妊娠中かどうか等)が落ちてしまうため、あえて転載しない 。
AJCAの記事には健康に関する記述もあるが、当サイトは引用していない。 02 で引用したAJCAの別記事には、カフェインの作用や病気の予防に関する記述も含まれている。
当サイトが引用したのは、製造方法・呼び名・規約の定義・輸入傾向といった事実に関する部分だけ である。
効能に関する記述は、出典が7団体のものであっても掲載しない ——これは
出典としている団体 のページで示している方針の延長にある。
06
今後追加すべき項目
日本での溶剤の扱い — 03節のとおり、当サイトが確認できたのはEUの指令だけ 。日本の食品衛生法・食品添加物公定書における脱カフェイン用溶剤の扱い は未確認。
各方法の具体的な条件 — 温度・圧力・時間・繰り返し回数など。超臨界二酸化炭素法の「超臨界」がどの条件を指すのかも、AJCAの資料には書かれていない 。
「スイスウォータープロセス」等の名称 — 店頭でよく見る呼び名だが、AJCAの資料にも規約にも出てこない 。特定企業の商標である可能性を含め、一次資料での確認が必要。カーボニックマセレーション のページと同じく、「業界で通用しているが公的な定義がない言葉」 として扱うべきかを判断する。
カフェイン量の実測 — 04節はファクトシートの表による。2026年8月25日追記:「ロブスタはアラビカのおよそ2倍」という通説は、2026年の系統的文献レビュー(アラビカ平均22.15±15.22 mg/g・ロブスタ平均45.58±22.14 mg/g)で裏づけが取れた。 →カフェイン量は焙煎で変わるかのページ 。ただし焙煎度による変化率の具体的な数値は引き続き未確認(→コーヒーの「種」とは )。
抜いたカフェインの行方 — 食品安全委員会のファクトシートは「コーヒーや茶葉から抽出されたカフェイン(抽出物)については、清涼飲料水(コーラ等)などに苦味料等の用途で食品添加物として使用されています」 と記している。脱カフェインで取り除かれたカフェインがどう流通しているかは、別に調べる価値がある。
デカフェの輸入量の推移 — AJCAは「近年、国内におけるデカフェコーヒーの輸入量は増加傾向」 とし、統計資料のページのグラフを示している。数値そのものは当サイトで未取得 (→市場・統計コンテキスト )。
銘柄・表示ルール 缶コーヒーのカフェインレス定義
銘柄・表示ルール パッケージの表示ルール
収穫・精製 脱穀(生豆になる工程)
焙煎 焙煎
抽出 抽出
用語集 苦味(参照物質はカフェイン溶液)
抽出 インスタントコーヒー
全体像 コーヒーができるまで
当サイトについて 出典としている団体
全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定、告示第6号)— カフェインレスコーヒーの表示。原文PDF(ajcft.org)を2026年8月16日に取得して確認
全日本コーヒー協会(AJCA)「カフェインレスコーヒーを知る」(coffee.ajca.or.jp、2026年8月16日取得)— 生豆段階での除去、水抽出法、超臨界二酸化炭素抽出法
全日本コーヒー協会(AJCA)「デカフェコーヒーの輸入推移から見える、新たなコーヒー習慣」(coffee.ajca.or.jp、2026年8月16日取得)— 「デカフェ」の語義、公正取引協議会の90%基準、コーヒー約60mg/100ml・デカフェ6mg未満、輸入量の増加傾向。同記事のカフェインの作用・疾病予防に関する記述は引用していない
全日本コーヒー協会(日本インスタントコーヒー協会)「インスタントコーヒーQ&A」(instant-coffee.ajca.or.jp、2026年8月16日取得)— 水に浸してから樹脂層・活性炭で吸着する方法、炭酸ガスを用いる方法、溶剤等を一切使用しない方法が確立しているという記述。同Q&Aの健康に関する項目は引用していない
欧州連合「Directive 2009/32/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on the approximation of the laws of the Member States on extraction solvents used in the production of foodstuffs and food ingredients」附属書I Part I・Part II、第2条3項(EUR-Lex CELEX:32009L0032、2026年8月16日取得)
内閣府 食品安全委員会「ファクトシート 食品中のカフェイン」(作成 平成23年3月31日、最終更新 平成30年2月23日、fsc.go.jp)— 飲料別カフェイン濃度と浸出方法、ADIが設定されていないこと、抽出カフェインの食品添加物としての用途