HACHIMARU COFFEE ROASTERY
品質評価 / Cupping

カッピングの手順Sample Preparation and Tasting Mechanics

コーヒーの味を評価するとき、条件を揃えなければ比較にならない。カッピングは、そのための標準化された手順である。焙煎度・粉の量・挽き目・湯温・待ち時間・水質まで数値で決められていて、同じ条件で淹れたコーヒーを並べて比べる。当ページはSCAの現行標準 SCA Standard 102-2024 が定める具体的な数値を、標準文書そのものから掲載する。付けた点数をどう扱うかはCVAの側の話で、この標準の範囲外である。

01

この標準が引き受けている範囲

SOURCE: SCA STANDARD 102-2024, SECTION 2

SCA-102は「サンプル調製とテイスティング手順」だけを扱う。標準自身が範囲の線引きをはっきり書いている。

採点はこの標準の範囲外。 「この標準は生豆のサンプルをテイスティングのために準備する方法と、コーヒーの感覚的体験の各セクションをカバーするためにサンプルを味わう手順を記述しているが、実際の評価——各属性がどう評定され、記述され、判断されるか——はこの標準の範囲外であり、このシリーズの他の標準、すなわちSCA-103(記述的評価)とSCA-104(感情的評価)が扱う」。つまり手順と採点が意図的に別々の文書に分けられている。→ CVAのページ
「たくさんのサンプルを短時間で見る」用途は範囲外。 標準は自らを「価値の発見(value discovery)のために、評価者がコーヒーの感覚的属性を十分に探索する機会を与えるよう設計された」ものとし、そのために必要な詳細さの水準からすると「品質管理や素早い意思決定のために1セッションで多数のサンプルを簡略にカッピングすることは、このプロトコルの範囲外」と明記する。現場の日常的なQCカッピングとは目的が違うということである。
対象は生豆のアラビカ種。 「生豆のCoffea arabicaを評価するために設計された」もので、パーチメント・乾燥チェリー・焙煎豆・抽出済みコーヒーなど他の状態や、アラビカ以外のCoffea種にも適応させうるとするが、その適応方法は記述されていない(たとえば焙煎豆を記述的評価する場合は焙煎の工程が該当しなくなる、という例が挙げられている)。
02

焙煎:どこまで煎るか、そして「煎り方の失敗」

SOURCE: SCA-102, SECTION 5.1

カッピング用の焙煎度は「おおむねミディアムと表現されてきたもの」とされ、数値でも定義されている。

焙煎度(色彩測定)
L* = 26〜29粉にしたコーヒーの明度(CIELAB座標のL*)。Agtron/SCA ロースト・カラー・クラシフィケーション・システムのタイル#65にほぼ相当
焙煎度(ロースト計)
Agtron Gourmet 63Agtron「Gourmet」スケールでの目標値、または他のロースト計での同等値。使用時は挽き目とコーヒーの温度を管理すべきとされる
焙煎後の休ませ時間
8〜24時間この時間内にカッピングできない場合は、風味の劣化を最小限にする措置を取るべきとされる
冷却
空冷のみ水による急冷(water quenching)は行わない。室温(約20℃)まで下がったら気密容器または非透過性の袋に入れ、冷暗所で保管する
チャフが多いサンプルは誤差が大きくなる。 ロースト計を使う場合の注意として標準が明記している点。焙煎度の数値そのものを疑うべき場面があるということである。焙煎度の尺度については焙煎ページも参照。なおSCA-131「Coffee Roast Level: Test Method」(焙煎度の試験方法)は2026年8月時点で「策定中」のままである。
⭐ 「ロースティング・プロブレム」という概念。 標準は焙煎度が目標範囲に入っていても、なお避けるべき失敗として2つを定義している——「too fast」(加熱速度が過剰)「too slow」(加熱速度が不足し、いわゆる "baked"(ベイクド)豆になる)。これらは「underdeveloped(発達不足)、burnt(焦げ)、baked(ベイクド)」の性質をサンプルに生じさせ、風味と品質の印象に影響を与えてテストにノイズを持ち込むとされる。該当するバッチはカッピングに使わず、焙煎をやり直す

目的は「焙煎が風味のばらつきに与える影響を最小化し、風味のばらつきが生豆どうしの違いによるものであって、焙煎条件の違いによるものではないようにすること」。焙煎技術や条件は問わず、この目的が達成されるならどんな方式でもよい、というのが標準の立場である。

03

器具・分量・挽き目

SOURCE: SCA-102, SECTION 5.2(感情的評価の場合)

感情的評価を行う場合はカッピング法を用い、1サンプルあたり5杯をテイスティングする。5杯という数がそのまま「均一性(非均一なカップが5杯中何杯か)」の評価につながる。

カップの数
5杯 / サンプル感情的評価の場合。それぞれ別の豆を別々に挽いて淹れる
カップの材質・寸法
200〜350 mL強化ガラスまたは陶磁器。上部の直径75〜90 mm。使用する全カップは容量・寸法・材質が同一であること
コーヒーの量
8.25 g / 150 mLカップの縁までの容量に対する比率で算出する。容量は、縁まで満たした室温の水の質量(g)を量り、水の密度1 g/mLとして近似してよい
計量の精度
±0.2 g1杯ずつ別々に計量する。秤は0.1 g以上の精度。コーヒー豆1粒の平均質量があるため、この許容差を見込む
挽き目
20メッシュ通過 70〜75%米国標準20メッシュ篩(目開き850 µm)を70〜75%が通過する粗さ。ペーパーフィルターのドリップに通常使う挽き目よりわずかに粗い
挽くタイミング
カップごとに個別カッピングの直前が望ましい。セッション前に挽き目を調整し、新しいサンプルを少量挽いて捨て、前のサンプルの粉をグラインダーから追い出す
「縁まで」が効いてくる。 コーヒーの量はカップの縁までの容量から計算されるため、後述の注湯も縁まで注ぐ必要がある。標準も注湯の項で「容器の容量は縁までで計算されているので、縁まで満たすことが重要である」とわざわざ書いている。
04

水:温度と水質

SOURCE: SCA-102, SECTION 7.3 / TABLE 2
湯温
93 ± 3 ℃注ぎ口のあるカラフェを使い、注ぎながら穏やかに乱流を起こす。縁まで注ぐ
pH
6〜8
塩素
なし(None)
カルシウム硬度
50〜175 ppmCaCO3換算
アルカリ度
40〜70 ppm 前後CaCO3換算。「at or near(その範囲かその近傍)」という書き方
抽出ページの水質基準とは別物。 当サイトの抽出(ブリューイング)ページで扱っているのは SCA Standard 310(家庭用コーヒーブリューワーの仕様と試験方法)の系統の基準で、こちらはカッピング用の水である。目的が違う(おいしく淹れるためではなく、比較の条件を揃えるため)ので、数値をそのまま行き来させないこと。
05

3つのステップ

SOURCE: SCA-102, SECTION 6

カッピングは3つの「ステップ」からなり、それぞれで評価される「セクション」が決まっている。テーブルに並べた全サンプルを並行して進める——全部にステップ1を行い、次に全部にステップ2、最後に全部にステップ3、という順序である。

STEP 1 / フレグランス(粉の香り)
実行可能になり次第、乾いた粉の匂いを嗅いで評価する。各カップの粉の匂いが「フレグランス」のセクションで、これは純粋に嗅覚だけの評価である。嗅ぐときにカップを振ってもよいし振らなくてもよく、カッパーの好みによる。
STEP 2 / 注湯とアロマ(液体の香り)
フレグランスの評価の直後に湯を注ぐ。表面にコーヒーと水のスラリーの「ドーム」=クラスト(crust)ができる。まず崩していないクラストの香りを評価し、クラストは3〜5分そのまま置く。その後スプーンで約3回かき混ぜて崩し、その動きで立ちのぼる蒸気を嗅いで評価する。この2つ(崩す前と崩しながら)を合わせて「アロマ」のセクションとなり、これも純粋に嗅覚だけ
クラストを崩した時点からカッピングの終わりまで、スプーンはどのカップの液体に触れる前にも毎回熱湯でリンスする。テーブル上の全カップのクラストを崩し終えたら、表面の粉と油分を1〜2本のスプーンですくい取って捨てる(スキミング)
STEP 3 / リカーリング(冷めていく液体を味わう)
スキミング後、約70℃まで冷ますのを待ってから始める。スプーン1杯を、舌と上顎をできるだけ広く覆うように音を立てて吸い込み(スラープ)、口の中で各セクションを評価し、飲み込まずに吐き出す——1回のセッションでカフェインを摂りすぎないためである。コーヒーが体温より下まで冷めていく間に、少なくとも3回のリカーリングを行う。
このステップで評価するのはフレーバー/アフターテイスト/酸味/甘味/マウスフィール/総合の6セクション。
複数人で行う場合のクラスト崩し。 標準は「カッパーが複数いる場合、カップを分担して、できるだけ多くのサンプルについて各カッパーが少なくとも1杯のクラストを崩す機会を持てるようにすべき」と定める。クラストを崩す瞬間の香りが評価対象なので、その体験を全員に配るという設計である。
06

セッションの運営

SOURCE: SCA-102, SECTION 7
1セッションのサンプル数
最大6種6種×6人なら、各カッパーが1サンプルの正面に立ち、他のカッパーが他のサンプルを味わえる。記述的評価と感情的評価を同時に行う「結合フォーム」を使う場合は、より丁寧な評価の時間を取るためサンプル数を減らすべきとされる
カッピングテーブル
0.90 m² 以上6人用の場合。カッパーにとって快適な高さで、テーブルは固定し、カッパーが動いて回る
カラフェ
1人1本が原則全サンプルを同時に淹れ、各カッパーが1サンプル分のカップに注ぐ。カラフェや人数が足りない場合でも3サンプルあたり少なくとも1本の大型カラフェは用意する
注湯の順序
各サンプル内は連続1つのサンプルの全カップを続けて淹れる。量が足りなかったカップには、クラストを崩したあとに湯を足してよい
07

記述的評価の場合は条件がゆるむ

SOURCE: SCA-102, SECTION 5.3 / 6.x

記述的評価均一性を評価しない。そのため、5杯を別々に淹れるカッピング法そのものが必須ではなくなる。

項目感情的評価(カッピング法)記述的評価
カップ数5杯(必須)カッピング法を使う場合は3〜5杯。バッチブリューでも可
バッチブリュー不可フィルターまたはフレンチプレスで可。比率はコーヒー55〜60 g / 水1リットル(水対コーヒーで約17:1〜18:1)
挽き目20メッシュ通過70〜75%バッチブリューの場合は選んだ抽出方法に合わせる(例:フレンチプレス)
クラスト崩す前と崩しながらの香りを評価バッチブリューではクラストの香り評価もクラスト崩しもない。ただし淹れたてのコーヒーからアロマは評価する
フレグランス各カップの乾いた粉を嗅ぐバッチブリューでも乾いた粉を別のカップかトレイに取り分けて嗅げるようにする
比率の書き方に注意。 バッチブリューの比率について標準は「55〜60 g of coffee per liter of water(approximately 17:1 to 18:1 water-to-coffee ratio)」と書いている。「水対コーヒー」の向きで17〜18対1という表記であり、一般に日本で言う「1:15」などの表記(コーヒー対水)とは順序が逆なので読み違えやすい。当サイトは原文の向きのまま掲載する。
08

カッピングを続けると、嗅覚そのものが鍛えられる

SOURCE: SCA「Coffee Decoded」コラム(Peter Giuliano)

ここまでは手順の話だった。その手順を繰り返すこと自体に意味がある——という研究をSCAが紹介している。きっかけは2020年からのコロナ禍で、感染者の約40%が味覚または嗅覚の喪失を経験したことから、嗅覚の仕組みをめぐる研究が一気に進んだ。

嗅覚だけが、脳への経路が違う。 SCAによれば、においは鼻腔の嗅神経で受け取られ、嗅球・嗅索を通って脳へ直接送られる他のすべての感覚と違い、嗅覚の情報は視床を経由せずに、感情と記憶をつかさどる部位で処理される。においが記憶や感情と結びつきやすいと言われるのは、この経路の違いによる。
Primary source quote
…simply using your sense of smell makes it work better.
(単に嗅覚を使うことが、嗅覚をよりよく働かせる)
SCA「Coffee Decoded: Is Tasting Coffee Good for Your Brain?」より。神経の経路は普通は固定的だが、嗅覚の経路は変化し、発達し、回復しうる(科学者はこれを可塑性=plasticityと呼ぶ)。コロナ禍の嗅覚障害の治療では、意図的・定期的に香りを体験する「嗅覚トレーニング」で回復率が上がり、回復も早まることが分かった。
⭐ 医師が「嗅覚トレーニング」と呼ぶものを、コーヒーの世界は「カッピング」と呼んできた。 SCAはこう書いている——意識的に嗅ぐという習慣(カッパーが毎日していること)は、香りを知覚し、思い出し、言葉にする能力を著しく高める。そして「テイスティングの能力は、持って生まれた才能というより筋肉の発達に近い。使えば使うほど強くなる」。鍵になるのは意識的な嗅ぎ方(conscious olfaction)=自分が嗅いでいるものに注意を向けることだとされる。05節の「クラストを割る」瞬間は、まさにそのための時間である。
嗅覚以外にも効果があるらしい。 SCAは18の研究を対象とした系統的レビューを引き、嗅覚トレーニングが言語の流暢さ、幸福感、記憶力といった別の認知的な利益にもつながったと紹介している。レビューの表現は「認知と神経画像に関する研究は、嗅覚トレーニングが脳機能を改善したという収束的な証拠を提供した——認知パフォーマンスの向上、いくつかの脳領域の体積増加、神経の結合性・効率の向上として現れた」
ただし、コーヒーで確かめられたわけではない。 SCA自身が「これらの研究のどれも(まだ!)コーヒーのテイスティングそのものを対象にしてはいない」と明記している。においの種類を問わず効果が働くように見えることから同じ結論を導いているが、コーヒーのカッピングを対象にした研究の裏づけは現時点で存在しない。当サイトもここは区別して記載する。
09

今後追加すべき項目

  1. Specialty Coffee Association「SCA Standard 102-2024 Coffee Value Assessment: Sample Preparation and Tasting Mechanics」(© 2024 SCA)— 適用範囲(2節)、焙煎(5.1節)、計量と挽き(5.2/5.3節)、カッピングのステップ(6節)、注湯と運営(7節)、カッピング用水の仕様(Table 2)
  2. 同「SCA Standard 103-2024 Coffee Value Assessment: Descriptive Assessment」/「SCA Standard 104-2024 ... Affective Assessment」(© 2024 SCA)— 採点方法は当サイトのCVAページに掲載
  3. 同「Standards」(sca.coffee/research/coffee-standards、2026年8月確認)— SCA-131「Coffee Roast Level: Test Method」が策定中である旨