カッピングの手順Sample Preparation and Tasting Mechanics
コーヒーの味を評価するとき、条件を揃えなければ比較にならない。カッピングは、そのための標準化された手順である。焙煎度・粉の量・挽き目・湯温・待ち時間・水質まで数値で決められていて、同じ条件で淹れたコーヒーを並べて比べる。当ページはSCAの現行標準 SCA Standard 102-2024 が定める具体的な数値を、標準文書そのものから掲載する。付けた点数をどう扱うかはCVAの側の話で、この標準の範囲外である。
この標準が引き受けている範囲
SOURCE: SCA STANDARD 102-2024, SECTION 2SCA-102は「サンプル調製とテイスティング手順」だけを扱う。標準自身が範囲の線引きをはっきり書いている。
焙煎:どこまで煎るか、そして「煎り方の失敗」
SOURCE: SCA-102, SECTION 5.1カッピング用の焙煎度は「おおむねミディアムと表現されてきたもの」とされ、数値でも定義されている。
- 焙煎度(色彩測定)
- L* = 26〜29粉にしたコーヒーの明度(CIELAB座標のL*)。Agtron/SCA ロースト・カラー・クラシフィケーション・システムのタイル#65にほぼ相当
- 焙煎度(ロースト計)
- Agtron Gourmet 63Agtron「Gourmet」スケールでの目標値、または他のロースト計での同等値。使用時は挽き目とコーヒーの温度を管理すべきとされる
- 焙煎後の休ませ時間
- 8〜24時間この時間内にカッピングできない場合は、風味の劣化を最小限にする措置を取るべきとされる
- 冷却
- 空冷のみ水による急冷(water quenching)は行わない。室温(約20℃)まで下がったら気密容器または非透過性の袋に入れ、冷暗所で保管する
目的は「焙煎が風味のばらつきに与える影響を最小化し、風味のばらつきが生豆どうしの違いによるものであって、焙煎条件の違いによるものではないようにすること」。焙煎技術や条件は問わず、この目的が達成されるならどんな方式でもよい、というのが標準の立場である。
器具・分量・挽き目
SOURCE: SCA-102, SECTION 5.2(感情的評価の場合)感情的評価を行う場合はカッピング法を用い、1サンプルあたり5杯をテイスティングする。5杯という数がそのまま「均一性(非均一なカップが5杯中何杯か)」の評価につながる。
- カップの数
- 5杯 / サンプル感情的評価の場合。それぞれ別の豆を別々に挽いて淹れる
- カップの材質・寸法
- 200〜350 mL強化ガラスまたは陶磁器。上部の直径75〜90 mm。使用する全カップは容量・寸法・材質が同一であること
- コーヒーの量
- 8.25 g / 150 mLカップの縁までの容量に対する比率で算出する。容量は、縁まで満たした室温の水の質量(g)を量り、水の密度1 g/mLとして近似してよい
- 計量の精度
- ±0.2 g1杯ずつ別々に計量する。秤は0.1 g以上の精度。コーヒー豆1粒の平均質量があるため、この許容差を見込む
- 挽き目
- 20メッシュ通過 70〜75%米国標準20メッシュ篩(目開き850 µm)を70〜75%が通過する粗さ。ペーパーフィルターのドリップに通常使う挽き目よりわずかに粗い
- 挽くタイミング
- カップごとに個別カッピングの直前が望ましい。セッション前に挽き目を調整し、新しいサンプルを少量挽いて捨て、前のサンプルの粉をグラインダーから追い出す
水:温度と水質
SOURCE: SCA-102, SECTION 7.3 / TABLE 2- 湯温
- 93 ± 3 ℃注ぎ口のあるカラフェを使い、注ぎながら穏やかに乱流を起こす。縁まで注ぐ
- pH
- 6〜8
- 塩素
- なし(None)
- カルシウム硬度
- 50〜175 ppmCaCO3換算
- アルカリ度
- 40〜70 ppm 前後CaCO3換算。「at or near(その範囲かその近傍)」という書き方
3つのステップ
SOURCE: SCA-102, SECTION 6カッピングは3つの「ステップ」からなり、それぞれで評価される「セクション」が決まっている。テーブルに並べた全サンプルを並行して進める——全部にステップ1を行い、次に全部にステップ2、最後に全部にステップ3、という順序である。
クラストを崩した時点からカッピングの終わりまで、スプーンはどのカップの液体に触れる前にも毎回熱湯でリンスする。テーブル上の全カップのクラストを崩し終えたら、表面の粉と油分を1〜2本のスプーンですくい取って捨てる(スキミング)。
このステップで評価するのはフレーバー/アフターテイスト/酸味/甘味/マウスフィール/総合の6セクション。
セッションの運営
SOURCE: SCA-102, SECTION 7- 1セッションのサンプル数
- 最大6種6種×6人なら、各カッパーが1サンプルの正面に立ち、他のカッパーが他のサンプルを味わえる。記述的評価と感情的評価を同時に行う「結合フォーム」を使う場合は、より丁寧な評価の時間を取るためサンプル数を減らすべきとされる
- カッピングテーブル
- 0.90 m² 以上6人用の場合。カッパーにとって快適な高さで、テーブルは固定し、カッパーが動いて回る
- カラフェ
- 1人1本が原則全サンプルを同時に淹れ、各カッパーが1サンプル分のカップに注ぐ。カラフェや人数が足りない場合でも3サンプルあたり少なくとも1本の大型カラフェは用意する
- 注湯の順序
- 各サンプル内は連続1つのサンプルの全カップを続けて淹れる。量が足りなかったカップには、クラストを崩したあとに湯を足してよい
記述的評価の場合は条件がゆるむ
SOURCE: SCA-102, SECTION 5.3 / 6.x記述的評価は均一性を評価しない。そのため、5杯を別々に淹れるカッピング法そのものが必須ではなくなる。
| 項目 | 感情的評価(カッピング法) | 記述的評価 |
|---|---|---|
| カップ数 | 5杯(必須) | カッピング法を使う場合は3〜5杯。バッチブリューでも可 |
| バッチブリュー | 不可 | フィルターまたはフレンチプレスで可。比率はコーヒー55〜60 g / 水1リットル(水対コーヒーで約17:1〜18:1) |
| 挽き目 | 20メッシュ通過70〜75% | バッチブリューの場合は選んだ抽出方法に合わせる(例:フレンチプレス) |
| クラスト | 崩す前と崩しながらの香りを評価 | バッチブリューではクラストの香り評価もクラスト崩しもない。ただし淹れたてのコーヒーからアロマは評価する |
| フレグランス | 各カップの乾いた粉を嗅ぐ | バッチブリューでも乾いた粉を別のカップかトレイに取り分けて嗅げるようにする |
カッピングを続けると、嗅覚そのものが鍛えられる
SOURCE: SCA「Coffee Decoded」コラム(Peter Giuliano)ここまでは手順の話だった。その手順を繰り返すこと自体に意味がある——という研究をSCAが紹介している。きっかけは2020年からのコロナ禍で、感染者の約40%が味覚または嗅覚の喪失を経験したことから、嗅覚の仕組みをめぐる研究が一気に進んだ。
(単に嗅覚を使うことが、嗅覚をよりよく働かせる)
仕入れ資料に出てくる略号(AC・MF)と「Brightness」
SOURCE: SCA-103/WCR SENSORY LEXICON v2.0(当サイトによる全文検索)生豆の仕入れ資料(オファーシート)には、カッピングの結果が「Orange AC」「Round MF」「Brightness」のような短い書き方で載っていることが多い。これが何を指しているのかを、規格の側から整理する。
ただし、略号が指している評価項目のほうは規格が定義している。そこは追える。
| 略号 | 元の語 | 規格上の位置づけ |
|---|---|---|
| AC | Acidity(酸味) | CVAの記述的評価で強度を付ける7セクションの1つ(フレグランス/アロマ/フレーバー/アフターテイスト/酸味/甘味/マウスフィール)。感情的評価では総合を加えた8セクション。用語集の「酸味」/焙煎側の成り立ちは酸味の正体 |
| MF | Mouthfeel(マウスフィール=口当たり) | 同じく7セクションの1つ。ボディ(フルネス)・とろみ・口の乾き・オイリーといった用語集の属性が、この領域にあたる |
・WCR Sensory Lexicon(Version 2.0、原文54ページ、109の風味用語)を全文検索したが、brightness も bright も出現0件だった(2026年9月2日、当サイトが確認)。用語集に対応するページが無いのはこのためである。
・CVAの評価セクション(フレグランス/アロマ/フレーバー/アフターテイスト/酸味/甘味/マウスフィール/総合)にも含まれていない。
つまり「明るさ」は、業界で広く使われているが標準化された属性ではない。当サイトは、実務上これが酸味(Acidity)の質を指して使われていることを記した上で、評価の枠組みとしては酸味の側に読み替えて扱う。酸味の正体が扱っているのは、この「明るさ」と呼ばれているものの中身にあたる。
今後追加すべき項目
- オファーシートの略号の由来 — 「AC」「MF」「BD」等がいつ・どこから業界で使われ始めたのか。CQIのQグレーダー用フォームやECXの評価表に略号として印字されているかを、原本で確認したい。
- 「Brightness」を定義している一次資料 — WCR Sensory LexiconにもSCA-103にも無いことは確認した。SCAの他の刊行物やCQIの教材に定義があるかは未確認。
- カッピングルームの環境条件 — SCA-102は旧個別標準「Cupping Room Size(カッピングルームの広さ)」を置き換えているが、当サイトはテーブルの面積以外の室内条件(照明・臭気・温湿度など)を本ページで扱えていない。標準の該当箇所を読み切っていない。
- カッピングスプーンの仕様 — 旧標準「Cupping Spoons」も置き換え対象に含まれるが、材質・容量などの具体的な仕様を確認していない。
- 「結合フォーム(combined form)」の実際 — 記述的評価と感情的評価を並行して(ただしセクションごとに別々に)行う方式が定義されているが、そのフォームと進め方の詳細は未確認。
- Agtron値とCIELAB L*の対応 — 本ページはL* 26〜29、タイル#65、Agtron Gourmet 63という標準記載の3つの数値をそのまま並べているが、これらの相互換算の根拠は標準に示されていない。焙煎ページの課題と共通。
- ロブスタ種のカッピング — 対象は生豆のアラビカ種で、他種への適応方法は「記述されていない」。当サイト掲載のロブスタ品種をどう評価するかは書けない。
- 日本語の用語 — 「リカーリング」「スキミング」「クラスト」等の訳語は当サイトの表記であり、AJCA・SCAJの公式訳を確認していない。
- Specialty Coffee Association「SCA Standard 102-2024 Coffee Value Assessment: Sample Preparation and Tasting Mechanics」(© 2024 SCA)— 適用範囲(2節)、焙煎(5.1節)、計量と挽き(5.2/5.3節)、カッピングのステップ(6節)、注湯と運営(7節)、カッピング用水の仕様(Table 2)
- 同「SCA Standard 103-2024 Coffee Value Assessment: Descriptive Assessment」/「SCA Standard 104-2024 ... Affective Assessment」(© 2024 SCA)— 採点方法は当サイトのCVAページに掲載
- 同「Standards」(sca.coffee/research/coffee-standards、2026年8月確認)— SCA-131「Coffee Roast Level: Test Method」が策定中である旨