HACHIMARU COFFEE ROASTERY
抽出 / French Press

フレンチプレスFrench Press / Plunger Pot

ガラスのポットに粉を入れ、お湯を注いで数分待ち、金属のフィルターを押し下げる。全日本コーヒー協会は「豆の味わいをダイレクトに楽しむことができます」と説明している。AJCAには手順のページが無い器具だが、この「浸漬式」は学術研究がいちばん詳しく調べている淹れ方でもある。そしてSCAの家庭用ブリューワー規格は、フレンチプレスを名指しで対象外にしている

方式
浸漬式(漬けたまま)
挽き方
中挽き〜粗挽き
公式の手順
AJCAには無い
SCA-310
適用対象外
01

フレンチプレスとは

SOURCE: 全日本コーヒー協会「いろいろな器具」
Primary source quote
ガラスポットにコーヒー粉をセットしてお湯を注ぎ、数分間待つだけで手軽にコーヒーを淹れられます。コーヒーの成分がしっかりと抽出されるので、豆の味わいをダイレクトに楽しむことができます。
全日本コーヒー協会「いろいろな器具」より。AJCAの資料でフレンチプレスに触れているのは、この2文だけである。
⭐ AJCAには、フレンチプレスの手順ページが無い。 AJCAはペーパードリップ式・ネルドリップ式・エスプレッソ式・サイフォン式の4つには分量と手順のページを用意しているが、フレンチプレスにはそれが無い器具紹介の2文と、器具×挽き方の対応表に出てくるだけである。したがって当ページは、他の器具のページのように「公式の手順」を示せない。
分類でいうと「浸漬式」である。 お湯を粉に通すのではなく、粉をお湯に漬けたまま置き、最後に金属フィルターを押し下げて粉と液を分けるサイフォン、水出しと同じ仲間にあたる。そして、この浸漬式こそ、学術研究がいちばん詳しく調べている方式である(→03)。
02

挽き方と分量

SOURCE: 全日本コーヒー協会「挽き方と分量」
挽き方フレンチプレス1杯分の粉量
中挽き12〜13g
粗挽き約15g
中細挽き以下
⭐ 5つの器具の中で、いちばん粗い側に寄っている。 フレンチプレスに印がついているのは中挽きと粗挽きだけで、細かい側には一つも印がない(→器具×挽き方の表)。金属フィルターは紙より目が粗く、細かい粉は液に混じる——という説明は自然に思えるが、AJCAの資料はその理由を書いていないので、当サイトは印の位置という事実だけを示す。
湯温と時間の一次資料は、AJCAには無い。 ただし学術論文が実験条件として使った値なら確認できる。2017年のScientific Reportsの研究は、比較対象の「熱湯抽出」をフレンチプレスのカラフェで、98℃の湯を注ぎ、6分間置いてからフィルターを押し下げるという条件で行っている同論文は「これ以上長く置いてもカフェイン・クロロゲン酸の抽出量は増えなかったので、すべての熱湯抽出の実験で6分を用いた」と述べている。これは研究の実験条件であって、推奨レシピではない。
03

浸漬式は、研究でいちばんよく調べられている

SOURCE: Scientific Reports 2021(UC Davis Coffee Center)

当サイトの抽出のページ 06章で扱っているUC Davis Coffee Centerの論文は、まさに「完全浸漬式(full immersion)」で淹れたコーヒーを対象にしている。フレンチプレスの淹れ方そのものが、研究対象になっているということである。

論文が示した数値内容
理論上の溶解上限焙煎豆の質量の約30%(Emax≈0.3)
平衡状態での抽出率20.70±1.08%(ブリューレシオ3以上の平均)
平衡に達するまでの時間条件により約20〜45分
挽き目の影響幅広い粒度の範囲でTDSは1.36±0.09%と大きな差が出なかった
⚠️ 「20〜45分」は、フレンチプレスの推奨時間ではない。 これは、それ以上置いても成分が増えなくなる(平衡に達する)までの時間である。実際のフレンチプレスは数分で終えるので、ふつうこの平衡値には到達していない抽出ページ06章も、この点をはっきり区別して書いている。
⭐ 挽き目を変えても濃さがあまり変わらない、というのは意外な結果である。 ペーパードリップでは挽き目が効くと言われるが、浸漬式の実験では幅広い粒度でTDSがほぼ一定だった水出しの研究(→アイスコーヒーと水出し 05)でも、挽き目の影響は有意でなかったと報告されている。「浸けるタイプは挽き目に鈍い」という方向で、複数の研究が一致している——ただしこれらは特定の条件下の実験であり、味の話ではない
04

SCAの家庭用ブリューワー規格は、フレンチプレスを対象外にしている

SOURCE: SCA Standard 310-2021

SCAが定める家庭用コーヒーブリューワーの認証規格(SCA-310)は、規格文書自身が適用除外を明記している。そこにフレンチプレスの名前がある。

SCA-310の適用除外
手動のプアオーバー器具
フレンチプレスのような非フィルター式器具
家庭用エスプレッソマシン、加圧式抽出器具
⭐ 規格が対象にしているのは「家庭用・常圧の電動フィルターブリューワー」だけである。 つまりフレンチプレスには、SCAの認証基準に相当するものが無いただし規格が定めている「湯1kgあたり粉55g」という標準抽出比率や水質の考え方は、器具を問わず参考になる——とはいえ、それを他の器具に当てはめてよいとは規格自身は書いていない(→抽出のページ)。
カッピングも、実は浸漬式である。 コーヒーの品質評価で行うカッピングは、粉に湯を直接注いで4分間浸けたままにする方式で(→カッピングの手順)、器具は違うがフレンチプレスと同じ「浸ける」やり方である。プロが豆の素性を確かめるときに浸漬式を使う——AJCAが「豆の味わいをダイレクトに楽しむことができます」と書いていることと、方向としては合う。ただし両者を結びつけて論じた資料は確認していない。
05

今後追加すべき項目

  1. 全日本コーヒー協会(AJCA)「いろいろな器具」「挽き方と分量」(coffee.ajca.or.jp/知る・楽しむ、2026年8月20日取得)— フレンチプレスの説明、器具×挽き方の対応表
  2. Liang, J., Chan, K.C., Ristenpart, W.D.「An equilibrium desorption model for the strength and extraction yield of full immersion brewed coffee」Scientific Reports 11(2021年、doi:10.1038/s41598-021-85787-1)— 浸漬式の平衡抽出率・溶解上限・粒度の影響。当サイトの抽出ページ 06章で確認したもの
  3. SCA「SCA Standard 310-2021: Home Coffee Brewers, Specifications and Test Methods」— 適用除外の記述。同抽出ページ 03章
  4. Fuller, M. & Rao, N. Z.『Scientific Reports』2017年7巻17979 — 熱湯抽出の実験条件(フレンチプレスのカラフェ、98℃、6分)