01
フレンチプレスとは
SOURCE: 全日本コーヒー協会「いろいろな器具」
Primary source quote
ガラスポットにコーヒー粉をセットしてお湯を注ぎ、数分間待つだけで手軽にコーヒーを淹れられます。コーヒーの成分がしっかりと抽出されるので、豆の味わいをダイレクトに楽しむことができます。
全日本コーヒー協会「いろいろな器具」より。AJCAの資料でフレンチプレスに触れているのは、この2文だけ である。
⭐ AJCAには、フレンチプレスの手順ページが無い。 AJCAはペーパードリップ式・ネルドリップ式・エスプレッソ式・サイフォン式の4つ には分量と手順のページを用意しているが、フレンチプレスにはそれが無い 。器具紹介の2文と、器具×挽き方の対応表に出てくるだけ である。したがって当ページは、他の器具のページのように「公式の手順」を示せない。
分類でいうと「浸漬式」である。 お湯を粉に通すのではなく、粉をお湯に漬けたまま置き、最後に金属フィルターを押し下げて粉と液を分ける 。
サイフォン、水出しと同じ仲間 にあたる。
そして、この浸漬式こそ、学術研究がいちばん詳しく調べている方式 である(→
03 )。
02
挽き方と分量
SOURCE: 全日本コーヒー協会「挽き方と分量」
挽き方 フレンチプレス 1杯分の粉量
中挽き ● 12〜13g
粗挽き ● 約15g
中細挽き以下 — —
⭐ 5つの器具の中で、いちばん粗い側に寄っている。 フレンチプレスに印がついているのは中挽きと粗挽きだけ で、
細かい側には一つも印がない (→
器具×挽き方の表 )。
金属フィルターは紙より目が粗く、細かい粉は液に混じる ——という説明は自然に思えるが、
AJCAの資料はその理由を書いていない ので、当サイトは
印の位置という事実だけ を示す。
湯温と時間の一次資料は、AJCAには無い。 ただし学術論文が実験条件として使った値 なら確認できる。2017年のScientific Reportsの研究は、比較対象の「熱湯抽出」をフレンチプレスのカラフェで、98℃の湯を注ぎ、6分間置いてからフィルターを押し下げる という条件で行っている 。同論文は「これ以上長く置いてもカフェイン・クロロゲン酸の抽出量は増えなかったので、すべての熱湯抽出の実験で6分を用いた」 と述べている。これは研究の実験条件であって、推奨レシピではない。
03
浸漬式は、研究でいちばんよく調べられている
SOURCE: Scientific Reports 2021(UC Davis Coffee Center)
当サイトの抽出のページ 06章 で扱っているUC Davis Coffee Centerの論文は、まさに「完全浸漬式(full immersion)」で淹れたコーヒー を対象にしている。フレンチプレスの淹れ方そのものが、研究対象になっている ということである。
論文が示した数値 内容
理論上の溶解上限 焙煎豆の質量の約30% (Emax≈0.3)
平衡状態での抽出率 20.70±1.08% (ブリューレシオ3以上の平均)
平衡に達するまでの時間 条件により約20〜45分
挽き目の影響 幅広い粒度の範囲でTDSは1.36±0.09% と大きな差が出なかった
⚠️ 「20〜45分」は、フレンチプレスの推奨時間ではない。 これは、それ以上置いても成分が増えなくなる(平衡に達する)までの時間 である。実際のフレンチプレスは数分で終える ので、ふつうこの平衡値には到達していない 。抽出ページ06章も、この点をはっきり区別して書いている。
⭐ 挽き目を変えても濃さがあまり変わらない、というのは意外な結果である。 ペーパードリップでは挽き目が効くと言われる が、
浸漬式の実験では幅広い粒度でTDSがほぼ一定だった 。
水出しの研究(→アイスコーヒーと水出し 05 )でも、挽き目の影響は有意でなかった と報告されている。
「浸けるタイプは挽き目に鈍い」という方向で、複数の研究が一致している ——ただし
これらは特定の条件下の実験であり、味の話ではない 。
04
SCAの家庭用ブリューワー規格は、フレンチプレスを対象外にしている
SOURCE: SCA Standard 310-2021
SCAが定める家庭用コーヒーブリューワーの認証規格(SCA-310) は、規格文書自身が適用除外 を明記している。そこにフレンチプレスの名前がある。
SCA-310の適用除外
手動のプアオーバー器具
フレンチプレスのような非フィルター式器具
家庭用エスプレッソマシン、加圧式抽出器具
⭐ 規格が対象にしているのは「家庭用・常圧の電動フィルターブリューワー」だけである。 つまり
フレンチプレスには、SCAの認証基準に相当するものが無い 。
ただし規格が定めている「湯1kgあたり粉55g」という標準抽出比率や水質の考え方は、器具を問わず参考になる ——
とはいえ、それを他の器具に当てはめてよいとは規格自身は書いていない (→
抽出のページ )。
カッピングも、実は浸漬式である。 コーヒーの品質評価で行うカッピングは、粉に湯を直接注いで4分間浸けたままにする 方式で(→
カッピングの手順 )、
器具は違うがフレンチプレスと同じ「浸ける」やり方 である。
プロが豆の素性を確かめるときに浸漬式を使う ——AJCAが
「豆の味わいをダイレクトに楽しむことができます」 と書いていることと、方向としては合う。
ただし両者を結びつけて論じた資料は確認していない。
05
今後追加すべき項目
フレンチプレスの公式な抽出ガイドライン — 7団体のいずれからも見つかっていない 。抽出ページ 11章 から引き継いだ宿題で、今回も解決していない 。SCA Standard 315(店舗用バッチブリューワー)は2026年8月時点でも開発中。
金属フィルターと紙フィルターの違い — 油分(コーヒーオイル)が通るかどうか について、一次資料を確認していない。
「プレスする」動作の意味 — 押し下げが抽出を止めるためのものか、粉を分離するためだけのものか を述べた資料が無い。
フレンチプレスの日本での呼び名 — 「コーヒープレス」「プランジャーポット」 など複数あるが、7団体の資料で整理したものは未確認。
焙煎 クロロゲン酸
焙煎 挽き方と粒度
抽出 いろいろな抽出器具
抽出 サイフォン(同じ浸漬式)
抽出 アイスコーヒーと水出し
抽出 抽出(TDS・抽出率・湯温)
品質評価 カッピングの手順
抽出 ペーパードリップ
当サイトについて 出典としている団体
全日本コーヒー協会(AJCA)「いろいろな器具」「挽き方と分量」(coffee.ajca.or.jp/知る・楽しむ、2026年8月20日取得)— フレンチプレスの説明、器具×挽き方の対応表
Liang, J., Chan, K.C., Ristenpart, W.D.「An equilibrium desorption model for the strength and extraction yield of full immersion brewed coffee」Scientific Reports 11(2021年、doi:10.1038/s41598-021-85787-1)— 浸漬式の平衡抽出率・溶解上限・粒度の影響。当サイトの抽出ページ 06章 で確認したもの
SCA「SCA Standard 310-2021: Home Coffee Brewers, Specifications and Test Methods」— 適用除外の記述。同抽出ページ 03章
Fuller, M. & Rao, N. Z.『Scientific Reports』2017年7巻17979 — 熱湯抽出の実験条件(フレンチプレスのカラフェ、98℃、6分)