HACHIMARU COFFEE ROASTERY
精製方法ページ / Processing

カーボニックマセレーションCarbonic Maceration / 炭酸浸漬

密閉容器からいったん空気を抜き、二酸化炭素(CO₂)を注入した環境でコーヒーチェリーを発酵させる手法。ワイン醸造の技術を応用したもの。ただし当サイトが確認した範囲では、ICO・CQI・ACEのいずれの公開資料にも定義も言及も存在しない。本ページは、この「定義が定まっていない」という状態そのものと、査読付き論文に書かれている範囲を整理する。

01

このページの位置づけ

「定義が定まっていない」ことと「出所を辿れない」ことは別。 当サイトは、出所を辿れない情報は載せない方針を取っている。カーボニックマセレーションは業界団体による定義こそ存在しないが、査読付きの学術論文という辿れる出所がある。そのため「定義は定まっていない」と明記した上で、論文に書かれている範囲だけを掲載する。逆に、農園が独自に命名した製法など、公開された資料が存在しないものは引き続き掲載しない。
02

主要団体の公開資料での扱い

SOURCE: 当サイトによる原資料の直接確認(2026年8月)
団体確認した資料記載の有無
ICO スペシャルティコーヒー・フォーカスグループ「Existing definitions of specialty coffee」FGSC 03/24 Rev.1(2025年10月1日) なし。 精製の例示は「pulped natural/honey、barrel-aged、anaerobic and yeast fermentation」および「Washed, Natural, Semi washed, Honeys, co fermentations and diverse fermentation process」。アナエロビックは挙がるが、カーボニックマセレーションは挙がらない
CQI ITC「Coffee Processing theory: A preparatory course for CQI Q Processing Arabica Level 2」学生用ハンドブック(2024年、全32ページ) なし。 carbonic / maceration / anaerobic / CO2 のいずれの語も本文に1回も出現しない。同教材は「QP2コースは最も古典的な発酵方法に限る(the QP2 course will be limited to the most classic fermentation methods)」と明記している
ACE / COE 2025・2026年の大会公式結果ページ17大会分 なし。 精製方法の表記 延べ558件のうち0件(セクション06
SCA 当サイト未確認。 機関誌「25 Magazine」に言及があるとの検索結果はあるが、本文を取得できていない。確認は今後の課題
WCR 当サイト未確認。 WCRの公開資料は品種カタログと国別ページが中心で、精製方法の定義は扱っていない
AJCA / SCAJ 当サイト未確認。
03

学術文献での記述

SOURCE: 査読付き論文3本[1][2][3]

当サイトがPubMedで「carbonic maceration coffee」を検索して該当したのは、2026年8月時点で3本のみ。うち2本[2][3]がカーボニックマセレーションそのものを扱っており、残る1本は精製方法と重金属残留の関係を調べたもの(Várady et al., Heliyon, 2024)で本ページの主題からは外れるため扱わない。これに、オープンアクセスの総説1本[1]を加えて確認した。これらは主要7団体の枠外の資料だが、原典まで辿れるため、その旨を明記した上で掲載する。

工程の定義[1]

赤く熟したコーヒーチェリーをバイオリアクターまたはプラスチックバッグに入れ、吸引または真空によって内部の空気を抜く。そのうえでCO₂を注入し、発酵環境をつくる。酸素がなく二酸化炭素だけが存在するという点が、他のコーヒー発酵工程との違いであると同論文は説明している。

なぜCO₂なのか[1]

CO₂がチェリー内部で酸素の役割を置き換えることで、呼吸作用と酵母・細菌の活動が止まる。発酵に必要なCO₂に富んだ管理環境をつくることで、生産者はどの微生物をどれだけの時間活動させるかを制御できる、とされる。過度な酸化やアルコール発酵によるプロファイルの損傷を避けながら風味を組み立てる狙いがある。

研究の到達点[2][3]

Brioschi Junior et al.(2021, Food Chemistry)は、要旨で「ワイン醸造で既に確立された技術であるカーボニックマセレーションを応用した、コーヒーの新しい精製方法を提案する」と述べている。発酵時間96時間・温度38℃で総合スコアとの間に有意な関係が見られたこと、細菌の多様性と官能特性に正の相関があったことを報告している。

Entringer et al.(2024, 3 Biotech)は、カーボニックマセレーションがつくる嫌気環境が好気呼吸を抑えて発酵代謝を促し、発酵中の微生物群集を変化させるとした上で、アラビカ種の果実を18・28・38℃/24〜120時間で発酵させ真菌群集を調べている。酵母 Pichia cephalocereana が優勢だったと報告している。

出典の限界

[2][3]について当サイトが確認できたのは公開されている要旨(PubMed収録)までで、全文は未取得。本文中の数値・条件のうち要旨に書かれていないものは掲載していない。[1]は総説論文であり、それ自体が一次研究ではない。また同論文は、カーボニックマセレーションによる製品が「比較的新しい工程であり、いまだほとんど研究されていない(still rarely studied)」と自ら述べている。

04

「精製方法」ではなく、その前の段階

SOURCE: [1]

総説[1]は明確に、「カーボニックマセレーションは、ドライ・ウェット・ハニーといった異なる精製方法が行われる前の初期段階である」としている。発酵が終わったあと、生産者は果皮を剥いてウォッシュドとして進めることも、そのまま乾かしてナチュラルとして進めることもできる。

STAGE 0
カーボニックマセレーション
密閉・脱気・CO₂注入して発酵
STAGE 1
精製方法を選ぶ
STAGE 2
乾燥
アナエロビックとの関係。 どちらも「精製方法そのものではなく、発酵段階に応用される技術」という点で位置づけが共通する。両者の違いはCO₂を能動的に注入するかどうかにあるが、この区別を定めた公的な定義は当サイトでは確認できていない。[1]はカーボニックマセレーションを「アナエロビック・カーボン・マセレーションとも呼ばれる」とも記述しており、文献上も用語が一意に切り分けられていない。
05

カーボニック と セミカーボニック

SOURCE: [1]

総説[1]によれば、生産者レベルでは2つの方式がある。違いはCO₂を加えるかどうか。

方式やり方備考
カーボニックマセレーション 容器内を吸引・真空にしたのち、CO₂を注入する 注入したガスが嫌気環境のコントローラーとして働き、果皮を軟化させて果実組織へ拡散しやすくする
セミカーボニックマセレーション ガスは加えず、発酵槽に水を入れてチェリーを完全に水没させる 数日で浸漬水が濁り泡立つ。果皮・果肉から固形の有機化合物が溶け出すため。ガスが溜まることが発酵終了のサインとされる

同論文は、インドネシアの生産者は一般にセミカーボニックの方を採用していると述べている。工程が簡単で設備も単純(ブロアーが不要、タンクの代わりに透明なプラスチックを使う)なためで、その製品は現地で「ワインコーヒー」としてよく知られている、としている。

06

COE出品ロットでの表記実態

SOURCE: ACE公式結果ページ17大会分(当サイト調べ・2026年8月)

言葉としてどれだけ流通しているのかを確かめるため、Alliance for Coffee Excellence が公開している2025・2026年の大会結果ページ(ブラジル/コスタリカ/エルサルバドル/グアテマラ/ホンジュラス/メキシコ/ニカラグア/ペルー/台湾/タイの計17大会)から、各ロットの精製方法の表記をすべて抽出した。延べ558件。カーボニックマセレーションは0件だった。

表記件数
Washed212
Natural134
Honey88
Experimental36
Dry/Natural34
Natural Anaerobico15
Pending(未確定)11
Pulped Natural6
Washed Anaerobico6
Natural Experimental3
Semi-Washed / SemiWashed3
Lavado2
Washed Experimental2
Honey Anaerobico1
Semi-Washed Anaerobico1
Fermented Natural Process1
Fermented Honey process1
Red Honey1
Exerimental(原文ママ・誤記と思われる)1
Carbonic Maceration0
読み取れること。 アナエロビックは「Natural Anaerobico」等として計23件現れるのに対し、カーボニックマセレーションは一度も現れない。一方でCOEには「Experimental」という枠が36件あり、新しい手法はここにまとめられている可能性がある。つまり0件は「COEに出品されていない」ことの証明ではなく、「COEの結果データ上、独立した精製方法名として扱われていない」ことを示す。
集計の限界

結果ページはHTMLの表から機械的に抽出した。1ページに部門別の表が複数あり、オークション表と結果表で同一ロットが重複掲載されている可能性があるため「延べ558件」とした。ブラジル2026・インドネシア2026・ペルー2026の3大会は精製方法の表を取得できず、集計に含んでいない。

07

由来についての記述

SOURCE: [1]

総説[1]は、この発酵工程を広めたのはワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)の王者であるサシャ・セスティッチ(Sasa Sestic)であるとし、フルーティー・フローラル・シトリックといった異なる風味をつくるための革新であり実験であったと記述している。

出典の限界

この由来は[1]の記述に基づく。WBCの公式記録において優勝ロットの精製方法がどう記載されているかは、当サイトでは未確認。年次・ロットの特定は今後の課題とする。

08

当サイトでの扱い

09

今後追加すべき項目

  1. N Azmi, et al.「What is carbonic maceration coffee? A mini review on production and quality」IOP Conference Series: Earth and Environmental Science, 1356 (2024) 012007, doi:10.1088/1755-1315/1356/1/012007(オープンアクセス/総説)
  2. D Brioschi Junior, et al.「Microbial fermentation affects sensorial, chemical, and microbial profile of coffee under carbonic maceration」Food Chemistry, 342 (2021) 128296, doi:10.1016/j.foodchem.2020.128296(要旨のみ確認)
  3. T L Entringer, et al.「Genetic diversity of the fungal community that contributes to the sensory quality of coffee beverage after carbonic maceration and fermentation」3 Biotech, 14:272 (2024), doi:10.1007/s13205-024-04099-z(要旨のみ確認)
  4. International Coffee Organization, Focus Group on Specialty Coffee「Existing definitions of specialty coffee」FGSC 03/24 Rev.1(2025年10月1日)
  5. ITC「Coffee Processing theory: A preparatory course for Coffee Quality Institute (CQI) Q Processing Arabica Level 2」学生用ハンドブック(2024年)
  6. Alliance for Coffee Excellence 各国Cup of Excellence公式結果ページ(2025・2026年/17大会分、2026年8月取得)