密閉容器からいったん空気を抜き、二酸化炭素(CO₂)を注入した環境でコーヒーチェリーを発酵させる手法。ワイン醸造の技術を応用したもの。ただし当サイトが確認した範囲では、ICO・CQI・ACEのいずれの公開資料にも定義も言及も存在しない。本ページは、この「定義が定まっていない」という状態そのものと、査読付き論文に書かれている範囲を整理する。
| 団体 | 確認した資料 | 記載の有無 |
|---|---|---|
| ICO | スペシャルティコーヒー・フォーカスグループ「Existing definitions of specialty coffee」FGSC 03/24 Rev.1(2025年10月1日) | なし。 精製の例示は「pulped natural/honey、barrel-aged、anaerobic and yeast fermentation」および「Washed, Natural, Semi washed, Honeys, co fermentations and diverse fermentation process」。アナエロビックは挙がるが、カーボニックマセレーションは挙がらない |
| CQI | ITC「Coffee Processing theory: A preparatory course for CQI Q Processing Arabica Level 2」学生用ハンドブック(2024年、全32ページ) | なし。 carbonic / maceration / anaerobic / CO2 のいずれの語も本文に1回も出現しない。同教材は「QP2コースは最も古典的な発酵方法に限る(the QP2 course will be limited to the most classic fermentation methods)」と明記している |
| ACE / COE | 2025・2026年の大会公式結果ページ17大会分 | なし。 精製方法の表記 延べ558件のうち0件(セクション06) |
| SCA | ― | 当サイト未確認。 機関誌「25 Magazine」に言及があるとの検索結果はあるが、本文を取得できていない。確認は今後の課題 |
| WCR | ― | 当サイト未確認。 WCRの公開資料は品種カタログと国別ページが中心で、精製方法の定義は扱っていない |
| AJCA / SCAJ | ― | 当サイト未確認。 |
当サイトがPubMedで「carbonic maceration coffee」を検索して該当したのは、2026年8月時点で3本のみ。うち2本[2][3]がカーボニックマセレーションそのものを扱っており、残る1本は精製方法と重金属残留の関係を調べたもの(Várady et al., Heliyon, 2024)で本ページの主題からは外れるため扱わない。これに、オープンアクセスの総説1本[1]を加えて確認した。これらは主要7団体の枠外の資料だが、原典まで辿れるため、その旨を明記した上で掲載する。
赤く熟したコーヒーチェリーをバイオリアクターまたはプラスチックバッグに入れ、吸引または真空によって内部の空気を抜く。そのうえでCO₂を注入し、発酵環境をつくる。酸素がなく二酸化炭素だけが存在するという点が、他のコーヒー発酵工程との違いであると同論文は説明している。
CO₂がチェリー内部で酸素の役割を置き換えることで、呼吸作用と酵母・細菌の活動が止まる。発酵に必要なCO₂に富んだ管理環境をつくることで、生産者はどの微生物をどれだけの時間活動させるかを制御できる、とされる。過度な酸化やアルコール発酵によるプロファイルの損傷を避けながら風味を組み立てる狙いがある。
Brioschi Junior et al.(2021, Food Chemistry)は、要旨で「ワイン醸造で既に確立された技術であるカーボニックマセレーションを応用した、コーヒーの新しい精製方法を提案する」と述べている。発酵時間96時間・温度38℃で総合スコアとの間に有意な関係が見られたこと、細菌の多様性と官能特性に正の相関があったことを報告している。
Entringer et al.(2024, 3 Biotech)は、カーボニックマセレーションがつくる嫌気環境が好気呼吸を抑えて発酵代謝を促し、発酵中の微生物群集を変化させるとした上で、アラビカ種の果実を18・28・38℃/24〜120時間で発酵させ真菌群集を調べている。酵母 Pichia cephalocereana が優勢だったと報告している。
[2][3]について当サイトが確認できたのは公開されている要旨(PubMed収録)までで、全文は未取得。本文中の数値・条件のうち要旨に書かれていないものは掲載していない。[1]は総説論文であり、それ自体が一次研究ではない。また同論文は、カーボニックマセレーションによる製品が「比較的新しい工程であり、いまだほとんど研究されていない(still rarely studied)」と自ら述べている。
総説[1]は明確に、「カーボニックマセレーションは、ドライ・ウェット・ハニーといった異なる精製方法が行われる前の初期段階である」としている。発酵が終わったあと、生産者は果皮を剥いてウォッシュドとして進めることも、そのまま乾かしてナチュラルとして進めることもできる。
総説[1]によれば、生産者レベルでは2つの方式がある。違いはCO₂を加えるかどうか。
| 方式 | やり方 | 備考 |
|---|---|---|
| カーボニックマセレーション | 容器内を吸引・真空にしたのち、CO₂を注入する | 注入したガスが嫌気環境のコントローラーとして働き、果皮を軟化させて果実組織へ拡散しやすくする |
| セミカーボニックマセレーション | ガスは加えず、発酵槽に水を入れてチェリーを完全に水没させる | 数日で浸漬水が濁り泡立つ。果皮・果肉から固形の有機化合物が溶け出すため。ガスが溜まることが発酵終了のサインとされる |
同論文は、インドネシアの生産者は一般にセミカーボニックの方を採用していると述べている。工程が簡単で設備も単純(ブロアーが不要、タンクの代わりに透明なプラスチックを使う)なためで、その製品は現地で「ワインコーヒー」としてよく知られている、としている。
言葉としてどれだけ流通しているのかを確かめるため、Alliance for Coffee Excellence が公開している2025・2026年の大会結果ページ(ブラジル/コスタリカ/エルサルバドル/グアテマラ/ホンジュラス/メキシコ/ニカラグア/ペルー/台湾/タイの計17大会)から、各ロットの精製方法の表記をすべて抽出した。延べ558件。カーボニックマセレーションは0件だった。
| 表記 | 件数 |
|---|---|
| Washed | 212 |
| Natural | 134 |
| Honey | 88 |
| Experimental | 36 |
| Dry/Natural | 34 |
| Natural Anaerobico | 15 |
| Pending(未確定) | 11 |
| Pulped Natural | 6 |
| Washed Anaerobico | 6 |
| Natural Experimental | 3 |
| Semi-Washed / SemiWashed | 3 |
| Lavado | 2 |
| Washed Experimental | 2 |
| Honey Anaerobico | 1 |
| Semi-Washed Anaerobico | 1 |
| Fermented Natural Process | 1 |
| Fermented Honey process | 1 |
| Red Honey | 1 |
| Exerimental(原文ママ・誤記と思われる) | 1 |
| Carbonic Maceration | 0 |
結果ページはHTMLの表から機械的に抽出した。1ページに部門別の表が複数あり、オークション表と結果表で同一ロットが重複掲載されている可能性があるため「延べ558件」とした。ブラジル2026・インドネシア2026・ペルー2026の3大会は精製方法の表を取得できず、集計に含んでいない。
総説[1]は、この発酵工程を広めたのはワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)の王者であるサシャ・セスティッチ(Sasa Sestic)であるとし、フルーティー・フローラル・シトリックといった異なる風味をつくるための革新であり実験であったと記述している。
この由来は[1]の記述に基づく。WBCの公式記録において優勝ロットの精製方法がどう記載されているかは、当サイトでは未確認。年次・ロットの特定は今後の課題とする。