脱穀(生豆化)
乾燥を終えた豆はまだ「生豆(グリーンビーンズ)」ではない。パーチメント(内果皮)やチェリーの果皮に包まれたままの状態から、これらを取り除いて出荷用の生豆にする最後の工程が「脱穀(milling/dry-milling)」。ITC「Coffee Processing Theory」(CQI Q Processing Level 2準備コース教材)に基づき、この工程の位置づけと歩留まりデータを解説する。
脱穀とは何か:ウェットミルとの違い
SOURCE: ITC「Coffee Processing Theory」Step 7: Storage / Chapter Five(果実の解剖と精製方法)コーヒーチェリーの果実構造は、外側から「果皮(Skin/Exocarp)」「パルプ(Pulp/Mesocarp外層)」「ミューシレージ(Mucilage/Mesocarp内層)」「パーチメント(Parchment/Hull=Endocarp)」「シルバースキン(Silverskin/Chaff=Spermoderm)」「豆(Bean/Endosperm)」の順に層をなす。ウォッシュド等の精製方法で行う果皮・パルプ・ミューシレージの除去(=pulping、ウェットミル工程)は、乾燥の前段階まで。乾燥を終えた時点でもまだパーチメント(またはナチュラルの場合は乾燥したチェリーの果皮)が豆を覆ったままで、これを取り除いて生豆にする作業が「脱穀(dry-milling)」——ウェットミルとは別の工程・別の施設(dry mill)で行われる。
チェリーから生豆になるまでの歩留まり
SOURCE: ITC「Coffee Processing Theory」Chapter Nine: Useful conversion calculations(CENICAFE, 2008データ)教材はコロンビアの研究機関CENICAFE(2008年)のデータとして、フレッシュチェリーから焙煎豆に至るまでの各段階の重量比を紹介している。教材自身も「この数値は各地域の実情に応じて調整が必要」と明記しており、コロンビアという特定の産地・年のデータである点をふまえて参照されたい。
| 段階 | チェリー重量比 | チェリーからの累積ロス |
|---|---|---|
| ① フレッシュチェリー | 1.00 | — |
| ② 乾燥チェリー(ナチュラル) | 0.40 | 59.5% |
| ③ パルプ済みチェリー | 0.61 | 39.0% |
| ④ 水洗後パーチメント(湿) | 0.42 | 58.5% |
| ⑤ 乾燥パーチメント | 0.22 | 77.5% |
| ⑥ 生豆(グリーンビーンズ) | 0.18 | 82.0% |
| ⑦ 焙煎豆 | 0.15 | 84.7% |
大まかに言えば、収穫したフレッシュチェリー1kgのうち、最終的に生豆として残るのは重量にして約2割弱(0.18)——チェリーの果皮・パルプ・ミューシレージ・パーチメント・欠点豆等が、工程全体を通じて重量の8割強を占めるという計算になる。
⭐ 別の資料でも、ほぼ同じ数字になる
SOURCE: FAO「Post Harvest Handling and Processing of Coffee in African Countries」1.1002節の歩留まりはコロンビアのCENICAFE(2008年)のデータだった。当サイトが収穫・格付け・コーヒーベルトのページで使っているFAOの資料(2000年)にも、まったく別の出所で、同じ問いに答える数字が載っている。
| 段階 | FAO(2000年) 実重量 → チェリー比 | CENICAFE(2008年) チェリー比 |
|---|---|---|
| フレッシュチェリー | 249.5kg → 1.00 | 1.00 |
| 水洗後パーチメント(湿) | 102.1kg → 0.41 | 0.42 |
| 乾燥パーチメント | 54.4kg → 0.22 | 0.22 |
| 生豆 | 45.4kg → 0.18 | 0.18 |
| 乾燥チェリー(ナチュラル) | 90.7kg → 0.36 | 0.40 |
| 焙煎豆 | (生豆から16%減)→ 0.15 | 0.15 |
水分とかさ密度:工程ごとに何が変わるのか
SOURCE: FAO 同資料 1.10.1・1.10.3同じFAOの節には、重量比だけでなく「水分」と「かさ密度」の数字も並んでいる。減っているのは主に水であることが、これで見える。
| 状態 | 水分 | かさ密度(kg/リットル) |
|---|---|---|
| フレッシュチェリー | 50% | 0.80 |
| 湿った生豆 | — | 0.80 |
| 乾燥豆・パーチメント | — | 0.40 |
| 生豆 | 8〜13% | — |
| 浅煎りの豆 | — | 0.37 |
| 深煎りの豆 | — | 0.29 |
| 焙煎コーヒー | 7%未満 | — |
| 粗挽き | — | 0.31 |
| 細挽き | — | 0.40 |
| インスタントコーヒー | 4%未満 | — |
脱穀工程そのものの歩留まり:約82%
SOURCE: ITC「Coffee Processing Theory」Chapter Nine 演習問題(Performance Problem)一杯に入るのは、チェリーの2.6%
SOURCE: SCA「Coffee Decoded」コラム / Rotta ほか(2021)02節の歩留まり表は生豆になるまでの話だった。SCAの解説コラムは、そこから焙煎と抽出まで含めて、収穫したチェリーの何%が実際に飲まれるのかを扱っている。もとになっているのは、中南米の農園・精製所と米国の焙煎所・研究室のデータを組み合わせた研究(Rotta ほか、2021年)である。
| 工程 | 失われる量 (収穫時の果実の重量に対する%) | 何が失われるか |
|---|---|---|
| ① 収穫 | 約1% | 枝や葉などの異物。手摘みは比較的やさしいが、それでも少し混ざる |
| ② パルピング(果肉除去) | 約47% | 果皮・果肉(パルプ)。コーヒーで最大の廃棄物の流れ |
| ③ 発酵・水洗 | 約5% | 粘着質のミューシレージ層 |
| ④ 乾燥 | 約21% | 水分(水蒸気として大気へ)。水は重い |
| ⑤ 脱穀 | 約6% | パーチメント(内果皮)の殻 |
| ⑥ 輸出用の選別 | 約5% | 欠点豆・輸出品質に満たない豆 |
| = 生豆になった時点 | 合計で8割超が失われている | ここまでで輸出できる生豆になる |
| ⑦ 焙煎 | 約2% | 残っていた水分・二酸化炭素・チャフ(silverskin) |
| ⑧ 抽出 | 約10% | 抽出後の粉(出がらし) |
| = 実際に飲まれる分 | 2.6% | 97%以上が副産物・廃棄物として失われる |
今後追加すべき項目
- 「スクリーン15」の正確な定義 — 格付けページのICO一次資料で解消済み:スクリーンサイズは1/64インチ単位で、スクリーン15は6.00mmに相当する。
- 副産物(カスカラ等)の利用の実際 — 06節のとおりSCAは用途を列挙しているが、どの副産物が何に使われているかの対応づけ、および日本国内での流通状況は未確認。
- 脱穀機(ハラー)の機械的な仕組み — このITC教材はウェットミルのパルピングマシン(ディスク式・ドラム式等)は詳しく扱っているが、ドライミルの脱穀機そのものの構造については記載がなかった。
- CENICAFEデータの地域差 — 教材自身が「地域の実情に応じた調整が必要」と明記している通り、コロンビア以外の産地(当サイトで扱うケニア・エルサルバドル等)での歩留まり実例は今後の課題。
- ITC(International Trade Centre)「Coffee Processing theory: A preparatory course for CQI Q Processing Arabica Level 2」学生用ハンドブック(2024年)Chapter Five(果実の解剖と精製方法の対応関係)
- 同上 Step 7: Storage(脱穀=dry-millingという工程の位置づけ)
- 同上 Chapter Nine: Useful conversion calculations(CENICAFE, 2008による歩留まりデータ・脱穀工程の平均歩留まり82%)
- SCA「Coffee Decoded: How Much Coffee Does It Take To Make Coffee?」(Peter Giuliano, SCA Senior Advisor for Scientific Communication)— 工程ごとの重量ロスの内訳、最終2.6%、副産物の用途
- FAO「Post Harvest Handling and Processing of Coffee in African Countries」(Joackim Mutua, FAO, 2000年12月)1.10 Physical Properties of Coffee (1.10.1 かさ密度/1.10.2 重量歩留まり/1.10.3 水分含有率、およびカビ汚染に関する記述)。
fao.org/4/x6939e/x6939e01.htm、2026年8月16日取得 - 上記[4]が典拠として挙げる学術論文:Neil M. Rotta, Stephen Curry, Juliet Han, Rommel Reconco, Edward Spang, William Ristenpart, Irwin R. Donis-González「A comprehensive analysis of operations and mass flows in postharvest processing of washed coffee」Resources, Conservation and Recycling 170(2021年)DOI: 10.1016/j.resconrec.2021.105554。当サイトは論文本文を未確認で、SCAのコラム経由での引用である。