HACHIMARU COFFEE ROASTERY
銘柄・表示ルール / Blue Mountain

ブルーマウンテンBlue Mountain

日本の表示ルールでは「ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆」という一行で定義されている。ではその「地区」はどこからどこまでなのか——答えはジャマイカ側の法令にある。そしてそこには、よく語られる「標高◯◯フィート以上」という条件が、一文字も書かれていない

01

日本側の定義:3つの銘柄名がジャマイカを分け合っている

SOURCE: 公正競争規約施行規則 別表2
Primary source quote
ブルーマウンテン:ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。
「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」施行規則 別表2「産地、品種、銘柄の区分及び範囲の例示」1) より。この規約は景品表示法第31条に基づき、公正取引委員会・消費者庁の認定を受けた表示ルールである(→パッケージの表示ルール)。

別表2の14銘柄のうち、ジャマイカを産地とするものは3つある。しかも別表2の先頭3つがそれである

番号銘柄名別表2の定義(原文)
1)ブルーマウンテンジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。
2)ハイマウンテンジャマイカ・ハイマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。
3)ジャマイカジャマイカにて生産されたアラビカコーヒー豆のうち、1)及び2)以外のものをいう。
⭐ 1か国で3銘柄は、インドネシアに次ぐ多さである。 別表2で最も銘柄名が多いのはインドネシアの4つマンデリン・ガヨマウンテン・トラジャ・カロシ)で、次がジャマイカの3つ。そして3つが「重ならないように」組まれている——一番狭いブルーマウンテン、その外側のハイマウンテン、そして「1)及び2)以外」としてのジャマイカ。狭い名前が先にあり、広い名前が残りを指すという、キリマンジャロ(ブコバ地区を除く)やマンデリン(ガヨマウンテンを除く)と共通の構造である(→銘柄名ページ 03)。
02

⭐ 「地区」の中身は、地名を結んだ一本の線である

SOURCE: JACRA Regulations, 2018 第一附則

別表2は「ブルーマウンテン地区」としか書かない。その範囲を定めているのはジャマイカ政府の法令——現行の「Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018」の第一附則である。書かれているのは、次の地点を順にたどる閉じた境界線だけ。

ベルビューからシーダー・グローブまでは「ジョン・クロウ・マウンテンの西斜面に沿って」と書かれており、ここだけ地形が指定されている。全文と各区間の方角はジャマイカの産地ページ 02に掲載している。

⭐ この附則に、標高は一文字も出てこない。 緯度経度も、面積も、教区名すら書かれていない。「ブルーマウンテンは標高3,000〜5,500フィートで穫れたもの」という説明は、今回参照したジャマイカの法令にもJACRA(ジャマイカ農産物規制庁)の公式サイトにも存在しなかった。当サイトは書かれていない数字を定義として紹介しない(→ジャマイカ 02)。
この線は70年以上動いていない。 当サイトはジャマイカ司法省の法令データベースから1953年の旧規則も取得したが、その附則「Blue Mountain Area」もスキボを起点に同じ地名を同じ順序でたどる同一の記述だった。根拠法は1948年法から2017年法へ作り替えられたが、範囲そのものは引き継がれている。
ただし1953年当時は、条件がもう1つあった。 旧規則の「ブルーマウンテンコーヒー」は①この地域で栽培され、かつ②附則に指定された coffee works(コーヒー加工場)で処理・製造されたものという2条件で、加工場名(Moy Hall、Silver Hill、Mavis Bank、Langley、Wallenford)まで列挙されていた。2018年規則の定義は「ブルーマウンテン地域で栽培されたコーヒー」だけに簡素化されている。
03

日本の「ハイマウンテン」とジャマイカの法定名称はずれている

SOURCE: 別表2 / JACRA Regulations, 2018 第2条

ジャマイカの2018年規則は、コーヒーの名称を4つ定義している。日本の別表2と突き合わせると、ブルーマウンテンはきれいに対応するのに、ハイマウンテンはずれる

日本 別表2ジャマイカ 2018年規則対応
ブルーマウンテン
ジャマイカ・ブルーマウンテン地区産のアラビカ
Jamaica Blue Mountain Coffee
ブルーマウンテン地域で栽培されたコーヒー
対応する
ハイマウンテン
ジャマイカ・ハイマウンテン地区産のアラビカ
Jamaica High Mountain Supreme Coffee
ブルーマウンテン地域ので栽培されたジャマイカ産コーヒーのうちプレミアムグレードのもの
ずれる
(該当なし)Jamaica Blue Mountain Blend Coffee
ブルーマウンテンを重量の30%以上含むもの
日本側は04の一般規定で処理
(該当なし)Jamaica High Mountain Supreme Blend Coffee
ハイマウンテン・スプリームを重量の30%以上含むもの
同上
⭐ ずれは2つある。「地区」なのかどうか。別表2は「ハイマウンテン地区」と区域名のように書くが、ジャマイカ法令に「ハイマウンテン地区」という区域の指定はない。法令上のハイマウンテン・スプリームは「ブルーマウンテン地域の外」+「プレミアムグレード」という引き算の定義である。②“Supreme” の有無。ジャマイカの法定名称は Jamaica High Mountain Supreme Coffee だが、別表2の「ハイマウンテン」にはSupremeに当たる語がないどちらの資料も、このずれについて説明していない——当サイトは両方の原文を並べるにとどめる。
「プレミアムグレード」が何を指すかは、規則に書かれていない。 2018年規則の条文からは、どの等級が該当するのか読み取れなかった。当サイトの格付けページにジャマイカの等級区分が載っていないのは、この裏づけがまだ取れていないためである。
商標としても守られている。 JACRAは自らを「Jamaica Blue Mountain® および Jamaica High Mountain Supreme® コーヒー商標の所有者」と表示し、完全子会社の Coffee Marks Limited が両商標を保有している。法令による名称規制と、商標という私法上の権利の二段構えである。名前の無断使用には200万ジャマイカドル以下の罰金(2018年規則 第21条)。→ジャマイカ 05
04

「ブルーマウンテンブレンド」は30%以上——両国とも同じ数字

SOURCE: 公正競争規約 / JACRA Regulations, 2018

日本では「ブルーマウンテン」とだけ表示するならその銘柄100%、「ブルーマウンテンブレンド」なら30%以上で名乗れる(→銘柄名ページ 04)。ジャマイカの法令も、同じ30%を使っている。

制度「ブレンド」の下限
日本 公正競争規約30%以上
ジャマイカ 2018年規則30%以上(重量比)
ジャマイカ 1953年規則(旧)20%以上(重量比)
(参考)ハワイ州法10%以上(2027年6月30日まで)→51%以上(2027年7月1日から)
ジャマイカ側は20%から30%へ引き上げられている。 ただしどちらの規則にも改正の理由は書かれていない。また日本の30%とジャマイカの30%が制度として関係しているかどうかも、どちらの資料にも書かれていない——数字が一致しているという以上のことは言えない
「ブルーマウンテンブレンド」を買った場合、中身の最大70%はブルーマウンテン以外であり得る。 これは規約が許している正規の表示であって、不当表示ではない。残りが何かは原材料名欄の生豆生産国名で確認できる(多い順に表示される)。→パッケージの表示ルール
ジャマイカには、もう一つ別の30%規定がある。 2018年規則 第19条は、輸入した生豆から作った焙煎コーヒーを国内で売る/輸出するには、ジャマイカ産のコーヒーを重量の30%以上混ぜたブレンドでなければならないと定めている。こちらは銘柄名の話ではなく、国産豆を使わせるための産業保護の規定である。同じ30%という数字が、まったく別の目的で2か所に出てくる点に注意(→ジャマイカ 04)。
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「ブルーマウンテン」は品種の別名でもある

SOURCE: World Coffee Research 品種カタログ / JACRA

当サイトのティピカのページで扱っているとおり、WCRの品種カタログは「Blue Mountain」をティピカの別名の一つとして挙げている産地の名前が、そのまま品種の別名になっている珍しい例である。

ジャマイカ側の資料とも一致する。 JACRAは「ジャマイカのコーヒー産業で繁殖されている支配的な品種はアラビカ・ティピカである」とし、カップクオリティは他のアラビカ品種より優れる一方、多収性ではないと記している。銘柄名(産地の範囲)と品種名(植物の系統)は本来別の軸だが、ブルーマウンテンではその2つが実態として重なっているということになる。
そしてティピカは、さび病に弱い。 JACRAは「アラビカ・ティピカは多くの病害に非常にかかりやすく、その筆頭がさび病(コーヒーリーフラスト、Hemileia vastatrix)である」と明記している。高いカップクオリティと、病気への弱さが同じ品種の両面である——この関係はコーヒーの「種」とはのページで扱っている論点でもある。→ジャマイカ 06
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「ブルーマウンテンは高級」は正しいのか

当サイトは中立の資料集なので、順位を決める立場にはない。一次資料から言えることと、言えないことを分けて示す

問い一次資料から言えること
ブルーマウンテンは品質の上位等級かいいえ。 日本の別表2の定義も、ジャマイカ2018年規則の定義も、産地の範囲を定めているだけで品質・等級には触れていない。ジャマイカ側で品質に触れているのはハイマウンテン・スプリームの「プレミアムグレード」という語だけで、その中身は規則に書かれていない。
標高が高いから高級なのかその根拠は法令にない。 ブルーマウンテンの範囲は02のとおり地名を結んだ線で定義されており、標高の条件はない。
他の産地より高く売れているのはなぜか今回の資料からは説明できない。 JACRAは「ジャマイカのコーヒーはグルメ製品とみなされ、ニューヨークやロンドンの商品取引所では取引されない」と書いているが、価格形成の仕組みまでは書かれていない。当サイトは推測で埋めない。
「ブルーマウンテンブレンド」ならその味か30%以上であることしか保証されない。04
では品質は何で決まるのか個々のロットの評価で決まる。 国際的にはSCAのCVAという評価体系があり(→CVAとは)、品評会としてはカップ・オブ・エクセレンスがある(→COEとは)。評価されるのは銘柄名ではなく、その年・その農園・そのロットである。
当サイトの立場。 銘柄名は、そのコーヒーがどこから来たかを伝えるための言葉である。ジャマイカはその「どこから」を法令の附則で線を引き、罰則つきで守っている——その制度の厳格さは事実として確認できるが、それは「おいしさの保証」とは別の話である。どれがおいしいかはカッピングという手順で一つずつ確かめるほかない。この考え方はモカのページとまったく同じである。
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今後追加すべき項目

  1. 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定、告示第6号)— 別表2「産地、品種、銘柄の区分及び範囲の例示」1)ブルーマウンテン・2)ハイマウンテン・3)ジャマイカ、施行規則 第3条(1)
  2. The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Act — The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018(第2条 解釈規定、第19条・第21条、第一附則 Blue Mountain Area of Jamaica)。FAO法令データベース FAOLEX 収録版(2026年8月16日取得)
  3. The Coffee Industry Regulation Act — The Coffee Industry Regulations, 1953(ジャマイカ司法省法令データベース、2026年8月16日取得)。スキャン画像をOCRしたPDFのため、判読できた条文のみ引用
  4. Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority(JACRA)公式サイト — Divisions/Coffee の About Coffee、Known Industry Concerns、Introduction 各ページ(2026年8月16日取得)
  5. World Coffee Research 品種カタログ「Typica」— 別名一覧に Blue Mountain。当サイトのティピカのページで確認したもの