ブルーマウンテンBlue Mountain
日本の表示ルールでは「ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆」という一行で定義されている。ではその「地区」はどこからどこまでなのか——答えはジャマイカ側の法令にある。そしてそこには、よく語られる「標高◯◯フィート以上」という条件が、一文字も書かれていない。
日本側の定義:3つの銘柄名がジャマイカを分け合っている
SOURCE: 公正競争規約施行規則 別表2別表2の14銘柄のうち、ジャマイカを産地とするものは3つある。しかも別表2の先頭3つがそれである。
| 番号 | 銘柄名 | 別表2の定義(原文) |
|---|---|---|
| 1) | ブルーマウンテン | ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。 |
| 2) | ハイマウンテン | ジャマイカ・ハイマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。 |
| 3) | ジャマイカ | ジャマイカにて生産されたアラビカコーヒー豆のうち、1)及び2)以外のものをいう。 |
⭐ 「地区」の中身は、地名を結んだ一本の線である
SOURCE: JACRA Regulations, 2018 第一附則別表2は「ブルーマウンテン地区」としか書かない。その範囲を定めているのはジャマイカ政府の法令——現行の「Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018」の第一附則である。書かれているのは、次の地点を順にたどる閉じた境界線だけ。
- スキボ(起点)
- スウィフト・リバー
- チェルシー
- ダラム(サンバ・ヒル)
- ベルビュー
- シーダー・グローブ
- フォント・ヒル
- ランブル
- グッド・ホープ
- ダラス
- インダストリー・ビレッジ
- メリーランド
- ゴールデン・スプリング
- ブランドン・ヒル
- トランクィリティ
- スキボ(終点)
ベルビューからシーダー・グローブまでは「ジョン・クロウ・マウンテンの西斜面に沿って」と書かれており、ここだけ地形が指定されている。全文と各区間の方角はジャマイカの産地ページ 02に掲載している。
日本の「ハイマウンテン」とジャマイカの法定名称はずれている
SOURCE: 別表2 / JACRA Regulations, 2018 第2条ジャマイカの2018年規則は、コーヒーの名称を4つ定義している。日本の別表2と突き合わせると、ブルーマウンテンはきれいに対応するのに、ハイマウンテンはずれる。
| 日本 別表2 | ジャマイカ 2018年規則 | 対応 |
|---|---|---|
| ブルーマウンテン ジャマイカ・ブルーマウンテン地区産のアラビカ | Jamaica Blue Mountain Coffee ブルーマウンテン地域で栽培されたコーヒー | 対応する |
| ハイマウンテン ジャマイカ・ハイマウンテン地区産のアラビカ | Jamaica High Mountain Supreme Coffee ブルーマウンテン地域の外で栽培されたジャマイカ産コーヒーのうちプレミアムグレードのもの | ずれる |
| (該当なし) | Jamaica Blue Mountain Blend Coffee ブルーマウンテンを重量の30%以上含むもの | 日本側は04の一般規定で処理 |
| (該当なし) | Jamaica High Mountain Supreme Blend Coffee ハイマウンテン・スプリームを重量の30%以上含むもの | 同上 |
「ブルーマウンテンブレンド」は30%以上——両国とも同じ数字
SOURCE: 公正競争規約 / JACRA Regulations, 2018日本では「ブルーマウンテン」とだけ表示するならその銘柄100%、「ブルーマウンテンブレンド」なら30%以上で名乗れる(→銘柄名ページ 04)。ジャマイカの法令も、同じ30%を使っている。
| 制度 | 「ブレンド」の下限 |
|---|---|
| 日本 公正競争規約 | 30%以上 |
| ジャマイカ 2018年規則 | 30%以上(重量比) |
| ジャマイカ 1953年規則(旧) | 20%以上(重量比) |
| (参考)ハワイ州法 | 10%以上(2027年6月30日まで)→51%以上(2027年7月1日から) |
「ブルーマウンテン」は品種の別名でもある
SOURCE: World Coffee Research 品種カタログ / JACRA当サイトのティピカのページで扱っているとおり、WCRの品種カタログは「Blue Mountain」をティピカの別名の一つとして挙げている。産地の名前が、そのまま品種の別名になっている珍しい例である。
「ブルーマウンテンは高級」は正しいのか
当サイトは中立の資料集なので、順位を決める立場にはない。一次資料から言えることと、言えないことを分けて示す。
| 問い | 一次資料から言えること |
|---|---|
| ブルーマウンテンは品質の上位等級か | いいえ。 日本の別表2の定義も、ジャマイカ2018年規則の定義も、産地の範囲を定めているだけで品質・等級には触れていない。ジャマイカ側で品質に触れているのはハイマウンテン・スプリームの「プレミアムグレード」という語だけで、その中身は規則に書かれていない。 |
| 標高が高いから高級なのか | その根拠は法令にない。 ブルーマウンテンの範囲は02のとおり地名を結んだ線で定義されており、標高の条件はない。 |
| 他の産地より高く売れているのはなぜか | 今回の資料からは説明できない。 JACRAは「ジャマイカのコーヒーはグルメ製品とみなされ、ニューヨークやロンドンの商品取引所では取引されない」と書いているが、価格形成の仕組みまでは書かれていない。当サイトは推測で埋めない。 |
| 「ブルーマウンテンブレンド」ならその味か | 30%以上であることしか保証されない。 →04 |
| では品質は何で決まるのか | 個々のロットの評価で決まる。 国際的にはSCAのCVAという評価体系があり(→CVAとは)、品評会としてはカップ・オブ・エクセレンスがある(→COEとは)。評価されるのは銘柄名ではなく、その年・その農園・そのロットである。 |
今後追加すべき項目
- ブルーマウンテンの等級表 — No.1/No.2/No.3/ピーベリーといった等級名はスペシャルティコーヒーのページに記載しているが、スクリーンサイズ・欠点数の数値基準を記した一次資料には未到達。2018年規則にも含まれていない。
- 第一附則の地名を地図に落とす — 16地点をたどれば範囲を図示できるはずだが、当サイトはまだ行っていない。JACRAは3教区(セント・トーマス、セント・アンドリュー、ポートランド)としており、よく見る「4教区」説との食い違いもこれで確かめられる可能性がある。
- 「1)及び2)以外」としてのジャマイカ — 別表2の3)「ジャマイカ」に相当する呼び名が、ジャマイカ側の制度に存在するかは未確認。
- 日本への輸入量 — 日本がジャマイカ産コーヒーの主要輸出先だとよく言われるが、キリマンジャロのようにジャマイカ側の公的資料で確認できたものはまだない。
- 「ブルーマウンテン」という名前の由来 — 山脈名であること以上の経緯(なぜ「青い山」なのか)を記した一次資料は今回確認していない。
- 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定、告示第6号)— 別表2「産地、品種、銘柄の区分及び範囲の例示」1)ブルーマウンテン・2)ハイマウンテン・3)ジャマイカ、施行規則 第3条(1)
- The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Act — The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018(第2条 解釈規定、第19条・第21条、第一附則 Blue Mountain Area of Jamaica)。FAO法令データベース FAOLEX 収録版(2026年8月16日取得)
- The Coffee Industry Regulation Act — The Coffee Industry Regulations, 1953(ジャマイカ司法省法令データベース、2026年8月16日取得)。スキャン画像をOCRしたPDFのため、判読できた条文のみ引用
- Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority(JACRA)公式サイト — Divisions/Coffee の About Coffee、Known Industry Concerns、Introduction 各ページ(2026年8月16日取得)
- World Coffee Research 品種カタログ「Typica」— 別名一覧に Blue Mountain。当サイトのティピカのページで確認したもの