01
日本側の定義:3つの銘柄名がジャマイカを分け合っている
SOURCE: 公正競争規約施行規則 別表2
Primary source quote
ブルーマウンテン:ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。
別表2の14銘柄のうち、ジャマイカを産地とするものは3つある 。しかも別表2の先頭3つがそれである 。
番号 銘柄名 別表2の定義(原文)
1) ブルーマウンテン ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。
2) ハイマウンテン ジャマイカ・ハイマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。
3) ジャマイカ ジャマイカにて生産されたアラビカコーヒー豆のうち、1)及び2)以外のもの をいう。
⭐ 1か国で3銘柄は、インドネシアに次ぐ多さである。 別表2で最も銘柄名が多いのは
インドネシアの4つ (
マンデリン ・ガヨマウンテン・トラジャ・カロシ)で、
次がジャマイカの3つ 。そして
3つが「重ならないように」組まれている ——一番狭いブルーマウンテン、その外側のハイマウンテン、そして
「1)及び2)以外」 としてのジャマイカ。
狭い名前が先にあり、広い名前が残りを指す という、
キリマンジャロ (ブコバ地区を除く)やマンデリン(ガヨマウンテンを除く)と共通の構造である(→
銘柄名ページ 03 )。
02
⭐ 「地区」の中身は、地名を結んだ一本の線である
SOURCE: JACRA Regulations, 2018 第一附則
別表2は「ブルーマウンテン地区」としか書かない。その範囲を定めているのはジャマイカ政府の法令 ——現行の「Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018」の第一附則 である。書かれているのは、次の地点を順にたどる閉じた境界線 だけ。
スキボ(起点) スウィフト・リバー チェルシー ダラム(サンバ・ヒル) ベルビュー シーダー・グローブ フォント・ヒル ランブル グッド・ホープ ダラス インダストリー・ビレッジ メリーランド ゴールデン・スプリング ブランドン・ヒル トランクィリティ スキボ(終点)
ベルビューからシーダー・グローブまでは「ジョン・クロウ・マウンテンの西斜面に沿って」 と書かれており、ここだけ地形が指定されている。全文と各区間の方角はジャマイカの産地ページ 02 に掲載している。
⭐ この附則に、標高は一文字も出てこない。 緯度経度も、面積も、教区名すら書かれていない。
「ブルーマウンテンは標高3,000〜5,500フィートで穫れたもの」という説明は、今回参照したジャマイカの法令にもJACRA(ジャマイカ農産物規制庁)の公式サイトにも存在しなかった 。当サイトは書かれていない数字を定義として紹介しない(→
ジャマイカ 02 )。
この線は70年以上動いていない。 当サイトはジャマイカ司法省の法令データベースから1953年の旧規則 も取得したが、その附則「Blue Mountain Area」もスキボを起点に同じ地名を同じ順序でたどる 同一の記述だった。根拠法は1948年法から2017年法へ作り替えられたが、範囲そのものは引き継がれている。
ただし1953年当時は、条件がもう1つあった。 旧規則の「ブルーマウンテンコーヒー」は①この地域で栽培され、かつ②附則に指定された coffee works(コーヒー加工場)で処理・製造されたもの という2条件で、加工場名(Moy Hall、Silver Hill、Mavis Bank、Langley、Wallenford)まで列挙されていた。2018年規則の定義は「ブルーマウンテン地域で栽培されたコーヒー」だけに簡素化されている。
03
日本の「ハイマウンテン」とジャマイカの法定名称はずれている
SOURCE: 別表2 / JACRA Regulations, 2018 第2条
ジャマイカの2018年規則は、コーヒーの名称を4つ 定義している。日本の別表2と突き合わせると、ブルーマウンテンはきれいに対応するのに、ハイマウンテンはずれる 。
日本 別表2 ジャマイカ 2018年規則 対応
ブルーマウンテンジャマイカ・ブルーマウンテン地区産のアラビカ Jamaica Blue Mountain Coffee ブルーマウンテン地域で栽培されたコーヒー 対応する
ハイマウンテンジャマイカ・ハイマウンテン地区産のアラビカ Jamaica High Mountain Supreme Coffee ブルーマウンテン地域の外 で栽培されたジャマイカ産コーヒーのうちプレミアムグレード のもの ずれる
(該当なし) Jamaica Blue Mountain Blend Coffee ブルーマウンテンを重量の30%以上含むもの 日本側は04 の一般規定で処理
(該当なし) Jamaica High Mountain Supreme Blend Coffee ハイマウンテン・スプリームを重量の30%以上含むもの 同上
⭐ ずれは2つある。 ①「地区」なのかどうか。 別表2は「ハイマウンテン地区」と区域名のように書くが、ジャマイカ法令に「ハイマウンテン地区」という区域の指定はない 。法令上のハイマウンテン・スプリームは「ブルーマウンテン地域の外」+「プレミアムグレード」という引き算の定義 である。②“Supreme” の有無。 ジャマイカの法定名称は Jamaica High Mountain Supreme Coffee だが、別表2の「ハイマウンテン」にはSupremeに当たる語がない 。どちらの資料も、このずれについて説明していない ——当サイトは両方の原文を並べるにとどめる。
「プレミアムグレード」が何を指すかは、規則に書かれていない。 2018年規則の条文からは、どの等級が該当するのか読み取れなかった。
当サイトの格付けページ にジャマイカの等級区分が載っていないのは、この裏づけがまだ取れていないためである。
商標としても守られている。 JACRAは自らを
「Jamaica Blue Mountain® および Jamaica High Mountain Supreme® コーヒー商標の所有者」 と表示し、
完全子会社の Coffee Marks Limited が両商標を保有 している。
法令による名称規制と、商標という私法上の権利の二段構え である。名前の無断使用には
200万ジャマイカドル以下の罰金 (2018年規則 第21条)。→
ジャマイカ 05
04
「ブルーマウンテンブレンド」は30%以上——両国とも同じ数字
SOURCE: 公正競争規約 / JACRA Regulations, 2018
日本では「ブルーマウンテン」とだけ表示するならその銘柄100%、「ブルーマウンテンブレンド」なら30%以上 で名乗れる(→銘柄名ページ 04 )。ジャマイカの法令も、同じ30%を使っている。
制度 「ブレンド」の下限
日本 公正競争規約 30%以上
ジャマイカ 2018年規則 30%以上 (重量比)
ジャマイカ 1953年規則(旧) 20%以上 (重量比)
(参考)ハワイ州法 10%以上 (2027年6月30日まで)→51%以上 (2027年7月1日から)
ジャマイカ側は20%から30%へ引き上げられている。 ただしどちらの規則にも改正の理由は書かれていない 。また日本の30%とジャマイカの30%が制度として関係しているかどうかも、どちらの資料にも書かれていない ——数字が一致しているという以上のことは言えない 。
「ブルーマウンテンブレンド」を買った場合、中身の最大70%はブルーマウンテン以外であり得る。 これは規約が許している正規の表示であって、不当表示ではない。残りが何かは
原材料名欄の生豆生産国名 で確認できる(多い順に表示される)。→
パッケージの表示ルール
ジャマイカには、もう一つ別の30%規定がある。 2018年規則 第19条は、
輸入した生豆から作った焙煎コーヒーを国内で売る/輸出するには、ジャマイカ産のコーヒーを重量の30%以上混ぜたブレンドでなければならない と定めている。
こちらは銘柄名の話ではなく、国産豆を使わせるための産業保護の規定 である。
同じ30%という数字が、まったく別の目的で2か所に出てくる 点に注意(→
ジャマイカ 04 )。
05
「ブルーマウンテン」は品種の別名でもある
SOURCE: World Coffee Research 品種カタログ / JACRA
当サイトのティピカのページ で扱っているとおり、WCRの品種カタログは「Blue Mountain」をティピカ の別名の一つとして挙げている 。産地の名前が、そのまま品種の別名になっている 珍しい例である。
ジャマイカ側の資料とも一致する。 JACRAは「ジャマイカのコーヒー産業で繁殖されている支配的な品種はアラビカ・ティピカである」 とし、カップクオリティは他のアラビカ品種より優れる一方、多収性ではない と記している。銘柄名(産地の範囲)と品種名(植物の系統)は本来別の軸だが、ブルーマウンテンではその2つが実態として重なっている ということになる。
そしてティピカは、さび病 に弱い。 JACRAは
「アラビカ・ティピカは多くの病害に非常にかかりやすく、その筆頭がさび病(コーヒーリーフラスト、Hemileia vastatrix )である」 と明記している。
高いカップクオリティと、病気への弱さが同じ品種の両面である ——この関係は
コーヒーの「種」とは のページで扱っている論点でもある。→
ジャマイカ 06
06
「ブルーマウンテンは高級」は正しいのか
当サイトは中立の資料集なので、順位を決める立場にはない。一次資料から言えることと、言えないことを分けて示す 。
問い 一次資料から言えること
ブルーマウンテンは品質の上位等級か いいえ。 日本の別表2の定義も、ジャマイカ2018年規則の定義も、産地の範囲を定めているだけ で品質・等級には触れていない。ジャマイカ側で品質に触れているのはハイマウンテン・スプリームの「プレミアムグレード」という語だけ で、その中身は規則に書かれていない。
標高が高いから高級なのか その根拠は法令にない。 ブルーマウンテンの範囲は02 のとおり地名を結んだ線で定義されており、標高の条件はない。
他の産地より高く売れているのはなぜか 今回の資料からは説明できない。 JACRAは「ジャマイカのコーヒーはグルメ製品とみなされ、ニューヨークやロンドンの商品取引所では取引されない」 と書いているが、価格形成の仕組みまでは書かれていない 。当サイトは推測で埋めない。
「ブルーマウンテンブレンド」ならその味か 30%以上であることしか保証されない。 →04
では品質は何で決まるのか 個々のロットの評価で決まる。 国際的にはSCAのCVAという評価体系があり(→CVAとは )、品評会としてはカップ・オブ・エクセレンスがある(→COEとは )。評価されるのは銘柄名ではなく、その年・その農園・そのロットである。
当サイトの立場。 銘柄名は、そのコーヒーが
どこから来たか を伝えるための言葉である。ジャマイカはその「どこから」を
法令の附則で線を引き、罰則つきで守っている ——
その制度の厳格さは事実として確認できるが、それは「おいしさの保証」とは別の話である 。どれがおいしいかは
カッピング という手順で一つずつ確かめるほかない。この考え方は
モカのページ とまったく同じである。
07
今後追加すべき項目
ブルーマウンテンの等級表 — No.1/No.2/No.3/ピーベリーといった等級名はスペシャルティコーヒーのページ に記載しているが、スクリーンサイズ・欠点数の数値基準を記した一次資料には未到達 。2018年規則にも含まれていない。
第一附則の地名を地図に落とす — 16地点をたどれば範囲を図示できるはずだが、当サイトはまだ行っていない。JACRAは3教区(セント・トーマス、セント・アンドリュー、ポートランド)としており、よく見る「4教区」説との食い違い もこれで確かめられる可能性がある。
「1)及び2)以外」としてのジャマイカ — 別表2の3)「ジャマイカ」に相当する呼び名が、ジャマイカ側の制度に存在するかは未確認。
日本への輸入量 — 日本がジャマイカ産コーヒーの主要輸出先だとよく言われるが、キリマンジャロ のようにジャマイカ側の公的資料で確認できたものはまだない。
「ブルーマウンテン」という名前の由来 — 山脈名であること以上の経緯(なぜ「青い山」なのか)を記した一次資料は今回確認していない。
銘柄名 コーヒーの銘柄名とは
産地 ジャマイカ
銘柄名 モカ
銘柄名 ハワイコナ
銘柄名 キリマンジャロ
銘柄名 マンデリン
品種 ティピカ(別名ブルーマウンテン)
品質評価 格付け・グレーディングとは
銘柄・表示ルール パッケージの表示ルール
全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定、告示第6号)— 別表2「産地、品種、銘柄の区分及び範囲の例示」1)ブルーマウンテン・2)ハイマウンテン・3)ジャマイカ、施行規則 第3条(1)
The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Act — The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018 (第2条 解釈規定、第19条・第21条、第一附則 Blue Mountain Area of Jamaica)。FAO法令データベース FAOLEX 収録版(2026年8月16日取得)
The Coffee Industry Regulation Act — The Coffee Industry Regulations, 1953 (ジャマイカ司法省法令データベース、2026年8月16日取得)。スキャン画像をOCRしたPDFのため、判読できた条文のみ引用
Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority(JACRA)公式サイト — Divisions/Coffee の About Coffee、Known Industry Concerns、Introduction 各ページ(2026年8月16日取得)
World Coffee Research 品種カタログ「Typica」— 別名一覧に Blue Mountain。当サイトのティピカのページ で確認したもの