ジャマイカJamaica
世界のコーヒー生産で45位(ICO、JACRA引用)という小さな産地でありながら、「ブルーマウンテン」という名前だけは日本中の喫茶店で知られている。その名前が何を指すのかは、ジャマイカ政府が法令の別表で線を引いて定義している——そしてその定義に「標高」は一文字も出てこない。銘柄名が制度としてどう守られているかを、これほどはっきり読み取れる産地は他にない。
- 世界生産ランキング
- 45位(ICO、JACRA引用)
- 主要品種
- アラビカ・ティピカ
- 規制当局
- JACRA(2018年〜)
- ブレンドの下限
- 30%以上(法令)
/countries/jamaica・/es/countries/jamaica ともに404)。そこで本ページは、ジャマイカ農産物規制庁(JACRA=Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority、ジャマイカ政府の法定機関)の公式サイトと、その根拠法令である「Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018」の原文(FAOのFAOLEX法令データベース収録)を一次資料とした。JACRAは当サイトの「7団体」には含まれないが、ジャマイカ政府の規制当局そのものであり、パナマにおけるSCAPと同じ扱い——その国の公的主体を一次資料とし、差し替えをページ上で明示する——として掲載している(→出典としている団体)。
基本情報
SOURCE: JACRA 公式サイト- 国名
- ジャマイカ(Jamaica)
- 世界生産ランキング
- 45位。JACRAがICOの数字として掲載しているもの(年次の記載なし)
- 栽培地域
- ブルーマウンテン地域(JACRAの記述ではセント・トーマス、セント・アンドリュー、ポートランドの各教区)と、ジャマイカ・ハイマウンテン地域(ブルーマウンテン地域外で栽培されるプレミアムグレード)の2つ
- 主要品種
- アラビカ・ティピカ。JACRAは「ジャマイカのコーヒー産業で繁殖されている支配的な品種」とし、カップクオリティは他のアラビカ品種より優れる一方、多収性ではないと記す(→ティピカ)
- 生産量の目安
- ジャマイカ・ハイマウンテン地域の1953〜2017年の年平均は188,532.25箱(JACRA。1箱=チェリーコーヒー62ポンドと同ページに定義がある)
- 取引市場
- JACRAは「ジャマイカのコーヒーはグルメ製品とみなされており、そのためニューヨークやロンドンの商品取引所では取引されない」と明記している
- 規制当局
- JACRA(2018年1月1日業務開始)。コーヒー・ココア・ココナッツ・香辛料(ナツメグ・ピメント・ジンジャー・ターメリック)を所管する
⭐ ブルーマウンテンは「標高」で定義されていない
SOURCE: JACRA Regulations, 2018 第一附則「ブルーマウンテンは標高◯◯フィート以上で穫れたもの」——という説明を見かけることがある。ジャマイカの現行法令には、その記述がない。2018年規則は「ブルーマウンテン地域」の定義を第一附則(First Schedule)に丸投げし、その附則は地名を順に結んだ一本の境界線として範囲を書いている。
4つの法定名称:ブルーマウンテンとハイマウンテン・スプリーム
SOURCE: JACRA Regulations, 2018 第2条2018年規則の解釈規定(第2条)は、コーヒーの名称を4つ定義している。日本の別表2と同じく「名前の範囲を決める」ための定義であり、品質の点数を決めるものではない。
| 法定名称 | 2018年規則の定義 |
|---|---|
| Jamaica Blue Mountain Coffee | ジャマイカのブルーマウンテン地域で栽培されたコーヒーをいう。 |
| Jamaica Blue Mountain Blend Coffee | ジャマイカ・ブルーマウンテンコーヒーを重量の30%以上含むコーヒーまたはコーヒー製品をいう。 |
| Jamaica High Mountain Supreme Coffee | ジャマイカのブルーマウンテン地域の外で栽培されたジャマイカ産コーヒーのうち、プレミアムグレードのものをいう。 |
| Jamaica High Mountain Supreme Blend Coffee | ジャマイカ・ハイマウンテン・スプリームコーヒーを重量の30%以上含むブレンドをいう。 |
ブレンドは30%以上——日本の規約と同じ数字
SOURCE: JACRA Regulations, 2018 / 公正競争規約当サイトの銘柄名のページで扱ったとおり、日本では「○○ブレンド」と名乗るには、その銘柄が30%以上でなければならない。ジャマイカの法令も、まったく同じ30%という数字を使っている。
| 制度 | 下限 | 条文 |
|---|---|---|
| ジャマイカ 2018年規則 | 30%以上(重量比) | “…comprising Jamaica Blue Mountain coffee in such proportion as to account for not less than thirty per cent of its weight” |
| ジャマイカ 1953年規則(旧) | 20%以上(重量比) | “blue mountain blend” means any coffee or coffee product comprising blue mountain coffee in such proportion as to amount for not less than 20 per centum of its weight |
| 日本 公正競争規約 | 30%以上 | 特定の銘柄が30%以上ブレンドされている場合に「○○ブレンド」と表示できる(→銘柄名 04) |
免許がなければ、コーヒーを売り買いできない
SOURCE: JACRA 公式サイト / Regulations, 2018ジャマイカでは、コーヒーに関わる事業のほとんどが免許制である。JACRAが挙げているコーヒー関係の免許は次のとおり。
| 免許 | 対象と主な条件(JACRAの記述) |
|---|---|
| Coffee Dealers Licence | 生豆・焙煎豆を栽培・生産・加工・販売する者。1作年あたり6,000箱以上のチェリーコーヒーの農場または生産能力を示すことが主な前提条件。商標使用許諾も併せて必要。 |
| Special Coffee Dealers Licence | 免許を持つディーラーから焙煎豆・粉を買って自社ラベルで売る者。生豆の取引は禁止。 |
| Coffee Works Licence | コーヒーの実を加工・洗浄・販売準備する者。工場法および天然資源保全庁法の有効な免許も必要。 |
| Nursery Operator Licence | アラビカ・ティピカおよびその他の推奨品種の苗を育てて農家に売る苗床事業者。 |
| Local / Foreign Importer Licence | 完成品のみを輸入する者/国外で生豆・焙煎豆を扱う者。後者は供給元・供給先の名前と住所の申告が必要。 |
| Trademark User Licence / Sub-Licence | 自社ラベルでブルーマウンテン/ハイマウンテン・スプリーム商標を使う者。承認を得れば再許諾も可能。 |
アラビカ・ティピカと、さび病
SOURCE: JACRA 公式サイトジャマイカの主要品種はアラビカ・ティピカである。当サイトのティピカのページでも、WCRのカタログが「ブルーマウンテン」をティピカの別名として挙げていることを掲載している。産地名がそのまま品種の別名になっている珍しい例で、その裏づけがJACRA側からも取れたことになる。
| 論点 | JACRAの記述 |
|---|---|
| カップクオリティ | 「アラビカ・ティピカのカップクオリティ」と呼ばれるほどで、他のアラビカ品種より優れているとされる。その優れたカップクオリティが、世界最高のコーヒーの一つにしている。 |
| 収量 | 一方でティピカは多収性ではない——他のいくつかの品種のようには穫れない、と明記されている。 |
| 病害 | アラビカ・ティピカは多くの病害に非常にかかりやすく、その筆頭がさび病(コーヒーリーフラスト、Hemileia vastatrix)。JACRAは症状を「葉に小さな黄色い斑点として現れ、それが広がって茶色くなり、葉が落ちて木が枯れる」と説明している。 |
| 対策 | JACRAはIICA(米州農業協力機構)、西インド諸島大学(UWI)、PROMECAFE、World Coffee Research、パデュー大学などと連携して対策活動を行っていると記す。またジャマイカ気象局・UWI・アリゾナ大学・コロンビアの大学・IICAと連携した早期警戒システムのプロジェクトも進行中としている。 |
日本の別表2との比較
SOURCE: 公正競争規約施行規則 別表2 / JACRA Regulations, 2018日本の別表2は、ジャマイカを産地とする銘柄名を3つ定義している。1か国から3銘柄は、インドネシア(4銘柄)に次ぐ多さである。
| 日本 別表2 | 定義(原文) | ジャマイカ法令側の対応 |
|---|---|---|
| ブルーマウンテン | ジャマイカ・ブルーマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。 | 対応する:Jamaica Blue Mountain Coffee=ブルーマウンテン地域で栽培されたコーヒー |
| ハイマウンテン | ジャマイカ・ハイマウンテン地区にて生産されたアラビカコーヒー豆をいう。 | ずれる:法令側は「地区」ではなく「ブルーマウンテン地域の外」+「プレミアムグレード」で定義される Jamaica High Mountain Supreme Coffee |
| ジャマイカ | ジャマイカにて生産されたアラビカコーヒー豆のうち、1)及び2)以外のものをいう。 | 法令側に対応する名称はない(残りを指す日本側の整理) |
制度の歴史
SOURCE: JACRA 公式サイト- 1948年
- Coffee Industry Regulation Act(コーヒー産業規制法)制定
- 1950年6月2日
- 同法に基づきジャマイカ・コーヒー産業委員会(CIBOJ)設立。コーヒー産業の発展と、従事者の福祉の増進を目的とする
- 1951年・1953年
- 委員会が Cess規則(1951年)とコーヒー産業規則(1953年)を制定。1953年規則の附則にブルーマウンテン地域の境界線と指定加工場が置かれた
- 2000年
- コーヒー産業の正式な規制緩和。以後CIBOJの役割は、免許付与・品質基準の設定と見直し・輸出向け認証と生豆の唯一の輸出者・農家への助言に整理された
- 2017年3月14日
- Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Act, 2017 制定
- 2018年1月1日
- JACRA業務開始。ココア産業委員会・コーヒー産業委員会・ココナッツ産業委員会の規制機能・農業省輸出部門を統合した組織で、CIBOJの機能を引き継いだ
- 2018年
- JACRA Regulations, 2018 制定。本ページで引用している定義・罰則はすべてこの規則による
今後追加すべき項目
- ブルーマウンテンの個別銘柄ページ — 同日(2026年8月16日)に公開した。別表2の3銘柄とジャマイカの4法定名称を原文で突き合わせている。
- さび病(コーヒーリーフラスト)のページ — コーヒーの「種」とはで指摘した穴。06節のJACRAの記述に加え、WCRの品種カタログの耐病性欄と合わせれば単独ページが作れる。
- ジャマイカの等級区分 — 03節のとおり「プレミアムグレード」の中身が2018年規則からは読み取れない。JACRAの品質基準文書が公開されているか要調査(→格付け)。
- 生産量・輸出量の実数 — JACRAが載せているのはハイマウンテン地域の1953〜2017年平均(箱数)のみ。ICO統計でのジャマイカの扱いも未確認(→産地ランキング)。
- 1993年 Coffee (Cess) Order の等級名 — 1953年規則と同じPDFに、Blue Mountain/High Mountain Supreme/Prime Washed/Lowland といったCess(賦課金)区分としての等級名が載っているが、スキャンPDFのOCRが崩れており金額・名称ともに正確に読み取れなかったため採用を見送った。現行の Cess 区分をJACRAに直接あたる必要がある。
- 教区の数 — 02節のとおり、JACRAは3教区、一般の解説は4教区とすることが多い。第一附則の地名を地図上でたどれば確定できるはずだが、当サイトはまだ行っていない。
- COE・国内品評会 — ACE公式のCup of Excellenceにジャマイカの開催実績は確認できていない(→受賞ロット)。
- Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority(JACRA)公式サイト — Divisions/Coffee の Introduction、About Coffee、Background、Licensing & Permits、Known Industry Concerns 各ページ(
jacra.org、2026年8月16日取得) - The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Act — The Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority Regulations, 2018(第2条 解釈規定、第18〜23条 Part VI Coffee、第一附則 Blue Mountain Area of Jamaica)。FAO法令データベース FAOLEX 収録版(
faolex.fao.org/docs/pdf/jam221800.pdf、2026年8月16日取得) - The Coffee Industry Regulation Act — The Coffee Industry Regulations, 1953/The Coffee Industry (Cess) Regulations, 1951/The Coffee (Cess) Order, 1993(ジャマイカ司法省法令データベース
laws.moj.gov.jm、2026年8月16日取得)。スキャン画像をOCRしたPDFのため一部が判読不能で、判読できた条文のみ引用している - 全日本コーヒー公正取引協議会「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約 及び 同施行規則」(平成30年5月21日 公正取引委員会・消費者庁認定)— 別表2 1)ブルーマウンテン・2)ハイマウンテン・3)ジャマイカ
- World Coffee Research 国別ページ — ジャマイカのページは存在しないことを2026年8月16日に確認(
worldcoffeeresearch.org/countries/jamaicaおよび/es/countries/jamaicaはいずれも404)