HACHIMARU COFFEE ROASTERY
栽培 / Coffee Leaf Rust

さび病Coffee Leaf Rust / Hemileia vastatrix

World Coffee Research(WCR)が「世界中のコーヒー農園で最悪の病気」と呼ぶ、葉に取りつくカビの病気。1867年にセイロン島のコーヒーを壊滅させ2011〜2012年には中米の農園の70%に広がって32億ドルの損害を出した。当サイトの品種ページに必ず「さび病耐性」の欄があるのも、産地ページにたびたび「耐性品種への切り替え」が出てくるのも、すべてこの病気のためである。発病の最適温度は22〜23℃——コーヒーがよく育つ温度と、ほとんど重なっている。

病原菌
Hemileia vastatrix(カビ)
収量損失
35%〜75%超(深刻な場合)
確認されているレース
55種類以上
中米危機の損害
32億米ドル・失職170万人超
01

どんな病気か

SOURCE: World Coffee Research

まず、農家の目に何が起きるか。WCRは中米の危機の始まりを、次のように書いている。

Primary source
2011〜2012年の収穫期から、中米じゅうのコーヒー農家が落ち着かない光景に気づきはじめた——コーヒーの木の葉が、粉状のオレンジ色の生育物に覆われていたのである。
World Coffee Research「World Coffee Research publishes manual for coffee leaf rust」(2016年5月17日)より。同じ記事は続けて、「ひどく侵された植物では、感染した葉が地面に落ち、植物がエネルギーを作り出して収穫をもたらす能力を寸断してしまう」と書いている。
病原体
カビ(真菌)の一種 Hemileia vastatrix。ウイルスでも細菌でも虫でもない
症状
葉に粉状のオレンジ色の生育物が現れる。JACRA(ジャマイカ農産物規制庁)はこれを「葉に小さな黄色い斑点として現れ、それが広がって茶色くなり、葉が落ちて木が枯れる」と説明している(→ジャマイカ 06
なぜ収穫が減るのか
葉が落ちる(落葉)から。光合成ができなくなり、木がエネルギーを作れなくなる。実そのものを直接食べる病気ではない点が、この病気の理解の要になる
被害の大きさ
WCRは「落葉、豆の品質低下、そして深刻な場合は35%から75%超に及ぶ収量損失」を挙げる
回復までの時間
WCRは中米について「多くの農家にとって、失われたのは1回の収穫サイクルではなく2回以上だった」と記す。1年で終わらないのがこの病気の重さである
分布
ほぼすべてのコーヒー生産地域に広がっている。WCRは2020年のハワイでの発生を「最近の出現」として挙げている
「木が枯れる」だけが問題ではない。 WCRが繰り返し書いているのは収入が途切れることである——「すでに脆弱な小規模農家の集団にとって、何年も続けて収入がないということを意味した。多くの農家がコーヒー栽培をあきらめ、戻ってこないだろう」産地ページで扱っている国の多くが小規模農家中心であることを踏まえると、この病気は農学の問題であると同時に生計の問題である。
02

名前がついた場所は、セイロン島だった

SOURCE: WCR / SCA

当サイトのコーヒーの「種」とはのページで、SCAの解説にもとづき1867年にセイロン島(現在のスリランカ)のコーヒーが壊滅したことを扱った。その事件は、この菌に名前がつくきっかけでもあった。

Primary source
キュー王立植物園(イングランド)に収蔵されている歴史的な標本。セイロン(スリランカ)で採集されたさび病に侵されたコーヒーの葉であり、これがこの菌を Hemileia vastatrix と記載・命名する根拠となった。
World Coffee Research「Harnessing the power of natural enemies to fight coffee leaf rust」(2019年2月19日)の図版キャプションより。
できごと出典
1867年セイロン島を直撃。その年のセイロンのコーヒーは壊滅し、二度と回復しなかった。当時世界最大の生産地だったジャワ島にも現れはじめる。SCAはこれをコーヒー産業にとって史上初の世界的脅威と位置づけているSCA(→種のページ
19世紀この菌がセイロンの標本にもとづいて Hemileia vastatrix と命名される。標本はキュー王立植物園に現存WCR
1870年コンゴでロブスタ(カネフォラ種が見つかる。さび病に強い種として、その後の生産を支えるSCA(→種のページ
2011〜2012年中米で大流行が始まる(→04WCR
2020年ハワイで発生。WCRはこれを「最近の出現」として挙げているWCR
⭐ 菌の「ふるさと」はアフリカである。 WCRの生物的防除プロジェクトは、この菌を「アフリカにある原産地に置き去りにされた、共進化した天敵たちと再会させる」という発想で組み立てられている(→11)。コーヒーの木もさび病菌も、もともとアフリカのもの——世界中に運ばれたコーヒーが、あとから運ばれてきた病気に、天敵のいない土地で襲われたという構図になる。
03

世界へどう広がったか

SOURCE: CATIE 技術マニュアル131号

CATIE(熱帯農業研究教育センター)のマニュアルは、1869年から1993年までの世界への広がりを一覧表にしている。産地ページで断片的に出てくる話が、ここで一本につながる。

場所マニュアルの記述
1861年東アフリカ・ビクトリア湖周辺英国の探検家が野生のコーヒーで発病を観察スリランカより前の最初の報告だった可能性がある。この地域では感受性の高い個体がもともと稀だったため、長く気づかれなかったとみられる
1869年スリランカ(旧セイロン)アジア大陸での最初の発生報告。同じ年、英国の植物病理学者マイルズ・ジョゼフ・バークリーが病原菌を記載し、Hemileia vastatrix と学名をつけた
年不明ジャワ島・スマトラ島1回の収穫期で生産が30〜50%減少。低標高へ急速に拡大し、ジャワでは標高1,000mのコーヒー農園がすべて放棄された
1880〜1890年レユニオン島この10年間で生産が75%減少
1889年フィリピン当時世界第4位のコーヒー輸出国(7,000トン)
1892年フィリピンコーヒー生産がほぼ完全に停止。わずか3年での転落だった
1966年アンゴラ西アフリカでの最初の報告。アフリカ大陸内での広がりは、大恐慌と第二次大戦による経済危機で当地のコーヒー生産の発展が小さかったため遅かったとされる
1970年ブラジル・バイーア州アメリカ大陸での最初の報告。最有力の仮説は西アフリカから貿易風で胞子が運ばれたというもの(Bowden et al. 1971)。汚染された植物体や衣類による偶発的な持ち込み説(Waller 1972)もある
1976年ニカラグアパナマニカラグアは太平洋側のサンマルコス〜マサテペ地域で最初に出現。パナマは初出時の影響は小さかったが2012年に深刻化
1979年エルサルバドル2010年・2011年に深刻な被害。2012年が初出現以来もっとも強い流行
1980年ホンジュラスグアテマラグアテマラでは2010〜2011年に標高1,219〜1,524mの帯で確認され、2012年に他地域へ拡大
1981年メキシコ・チアパス州初出時ほどの被害はなかったが、2012年10月に生産が30%減少
1983年コスタリカ初出以来の被害は大きくなかったが、2012年に深刻化
⭐ 発生年について、当サイトの資料は食い違っている。 コーヒーの「種」とはのページでは、SCAの解説にもとづき「1867年にセイロン島を直撃」と書いた。一方CATIEのマニュアルは「1869年に最初の発生が報告された」としている。「病気が現れた年」と「報告された年」は別のことなので、両立しうるが、どちらの資料も相手の年に触れていない。当サイトは両方をそのまま並べ、どちらかに寄せない
⭐ フィリピンで起きたことは、コーヒーの歴史そのものを変えた。 マニュアルは、この壊滅の結果として①コーヒーが紅茶に置き換えられたこと、そして②アラビカ種がロブスタ(C. canephora)に置き換えられたことを挙げている。ロブスタは高い標高にも適応し、さび病により強い抵抗性を示す——コーヒーの「種」とはで扱った「さび病がロブスタを世界に広げた」という筋は、ここでも同じ説明になっている。アジアの国々はその後も標高1,000m以上でコーヒーを作り続けた。菌にとって不利な環境だったからである(→07)。
「根絶」の試みは、すべて失敗している。 マニュアルは、ブラジル・ニカラグア・メキシコで根絶措置が試みられたこと、それらがパプアニューギニアの経験にもとづいていたことを記す。パプアニューギニアでは1892年・1903年・1965年の3回、根絶の試みが行われて一時的な効果しか得られず1986年についに「定着した」と認められたいったん入った地域から取り除くのは難しい、というのがマニュアルの前提である。
04

⭐ 2011〜2012年、中米で起きたこと

SOURCE: World Coffee Research(2016年)

当サイトの産地ページに何度も出てくる「2012年のさび病大流行」の中身を、WCRの数字で押さえておく。

項目WCRの記述
始まり2011〜2012年の収穫期、中米の農家が葉のオレンジ色の生育物に気づく
広がり1年以内に地域全体へ広がった
5年後の被害農園の70%が影響を受けた
雇用170万人を超えるコーヒー労働者が職を失った
金額32億米ドルの損害と失われた収入
その後多くの農家がコーヒー栽培をあきらめ、戻ってこないだろうとWCRは書いている
⭐ この危機が明らかにしたのは「情報が無かった」ことだった。 WCRは「2011〜2012年に始まった中米のさび病危機は、さび病を制御するためのベストプラクティスについて、良質な情報が決定的に不足していることを露呈させた。さび病とは何か、どう制御するのかを説明した、入手しやすく信頼できる参考資料が存在しなかった」と書いている。病気そのものより、知識の空白のほうが問題だったという総括である。
その空白を埋めるために作られたのが『Prevención y Control de la Roya del Café』。 WCRとUSAID、そしてコスタリカのCATIE(熱帯農業研究教育センター)が組み、CATIEの農学研究の蓄積を凝縮した技術者・普及員向けのマニュアルとして2016年にスペイン語で刊行された(その後2019年に英語版が出ており、当サイトはそれを読んで03050708を書いた)。WCRのCEO(当時)Tim Schillingは「さび病を制御するための最良の農学的実践と、それがなぜ効くのかを説明した科学的な報告書が出版されたのは、これが初めてだ」と述べている。
⭐ 「殺菌剤の話しか聞こえてこない」という指摘。 同じコメントで Schilling は「殺菌剤による化学的防除は重要な構成要素の一つだが、それが農家の耳に入る唯一のものであることが多い。このマニュアルは殺菌剤をはるかに超えて、さび病のリスクを下げる農場レベルの多様な実践を扱っている」と述べている。その「多様な実践」の中身は、08に掲載した——マニュアルの英語版(CATIE技術マニュアル131号、2019年)を入手して読んだためである。
05

国別の被害と、非常事態宣言

SOURCE: CATIE 技術マニュアル131号(各国コーヒー機関のデータ)

CATIEのマニュアルは、2012〜2013年の減収を国別に集計した表を載せている。出所は各国のコーヒー機関(Ihcafé・Anacafé・Icafé・Magfor・Procafé)が、ノルウェー政府が資金を出したCATIE・CIRAD・Promecaféのプロジェクトの枠組みで提供したデータである。

2011-2012年産
(100万袋・46kg)
2012-2013年の減収
(千袋)
減収率非常事態宣言
ホンジュラス7.102,19231%あり
エルサルバドル1.5044223%なし
グアテマラ4.8573015%あり
パナマ0.28738.613.5%あり
コスタリカ2.01975%あり
ニカラグア2.00583%なし
合計17.753,557.6平均15%
⭐ 「農園の70%」と「減収15%」は、別のことを数えている。 04で引いたWCRの「農園の70%が影響を受けた」という数字と、この表の平均減収15%は矛盾しない——前者は影響を受けた農園の割合、後者は失われた収穫量の割合である。広く薄く効いた国(ニカラグア3%)と、深く効いた国(ホンジュラス31%)の差が大きいことも、この表からしか読めない。数字を引くときは、必ず「何を数えた数字か」を確かめる。
4か国が非常事態を宣言している。 ホンジュラス・グアテマラ・コスタリカ・パナマが宣言し、エルサルバドルとニカラグアは宣言していない減収率が23%のエルサルバドルが宣言せず、5%のコスタリカが宣言している——宣言の有無は被害の大きさだけで決まっているわけではないことが読み取れるが、マニュアルはその理由を説明していない
中米の約190万人がコーヒーで生計を立てているとマニュアルは記す。地域でもっとも貧しい、土地を持たない労働者を含む。減収率の数字の下に何があるかを示す一文として、そのまま引用しておく。
それ以前にも流行はあった。 マニュアルは中米での主な流行として1989〜1990年(コスタリカ、コーヒー価格低迷期)/1995〜1996年(ニカラグア、被害報告なし)/2002〜2003年(エルサルバドル、2000年の過剰生産に関連)/2008〜2011年(コロンビア、気象条件が発病に好適)/2012〜2013年(中米各国・メキシコ・カリブ・ペルー・エクアドル)を挙げている。2012年は「初めて」ではなく「最悪」だった。
06

抵抗性は遺伝子で決まる——SH遺伝子

SOURCE: World Coffee Research(2025年)

なぜ品種によってさび病への強さが違うのか。WCRは2025年の記事で、その仕組みを植物と病原菌の両方の遺伝子の組み合わせとして説明している。

基本の考え方
抵抗性は、コーヒーの木と病原菌の双方の遺伝的構成に依存する
病原菌側
これまでに55を超えるレース(race)が確認されており、それぞれが異なる品種と異なる相互作用をする
植物側
アラビカのさび病抵抗性遺伝子はSH遺伝子と呼ばれ、異なる種に由来する
もっとも持続可能な対策
WCRは「さび病に抵抗性のあるコーヒー品種を使うことが、農家が経済的損失を最小化するうえで最も持続可能かつ費用対効果の高い戦略の一つである」と書いている
SH遺伝子由来する種
SH1・SH2・SH4・SH5C. arabica(アラビカ種)
SH3C. liberica(リベリカ種)
SH6〜SH9C. canephoraカネフォラ種)。「ロブスタ」はこの種の名前ではなく、種の中の栽培グループの名前である。ティモール・ハイブリッドを経由してアラビカに入った
⭐ ここでティモール・ハイブリッドがつながる。 当サイトの品種ページで「さび病耐性を他の品種へ持ち込む『親』として使われ、現在の中南米の耐病性品種の多くがこの1本に行き着く」と書いてきたが、その中身がSH6〜SH9という具体的な遺伝子群だったということになる。アラビカに元々なかった抵抗性を、ロブスタ側から借りてきたのがこの品種の役割である(→コーヒーの「種」とは)。
⭐ そして「万能の品種」は存在しない。 WCRは「商業的なアラビカ品種はこれらの遺伝子の組み合わせを持つことが多いが、既知の抵抗性遺伝子をすべて備えた品種は一つもない。さらに、病原菌が絶えず進化し続けるため、新たな抵抗性の供給源を特定し組み込む努力が継続的に必要になる」と明記している。「さび病に強い品種を植えれば終わり」ではない——これが、耐性の評価が品種ページで「高い/中程度/低い」という相対値でしか書けない理由でもある。
2025年の国際共同試験。 WCRは15か国・23か所の試験地で29のアラビカ品種を評価した研究Frontiers in Plant Science に発表し、「多様な環境条件下でアラビカ品種を評価したものとしては、これまでで最も広範」と位置づけている。当サイトの品種ページが拠っているWCR品種カタログの耐性評価も、こうした試験の積み重ねの上にある。本ページはWCRの解説記事を出典としており、論文本体は未読である(→12)。
07

⭐ 発病の条件:22〜23℃と、夜露

SOURCE: CATIE 技術マニュアル131号 第4章

さび病はいつでも同じように出るわけではない。菌が増えるための条件がはっきりしている——そしてその条件は、コーヒーがよく育つ条件とかなり重なっている

最適温度
22〜23℃。この温度帯がウレド胞子の発芽・組織への侵入・葉の内部での定着を進める。葉の温度が22℃に近いほど、さび病は発生しやすい
潜伏期間と標高
ホンジュラスでの調査(Santacreo et al. 1983)では、標高750mで29〜62日標高1,200mで40〜80日標高が高い=気温が低いほど、菌の世代交代が遅くなる。750mでもっとも短かったのは気温が18〜27℃で推移した8〜9月だった
降雨
流行の発達を決める非常に重要な要因。雨は胞子形成・拡散と輸送・付着・発芽・葉への侵入のそれぞれの段階に働く。だから流行は雨季に進む
相対湿度
コーヒー自体は相対湿度70〜85%でもっともよく育つ。高い湿度は葉・実・枝を湿ったままにし、胞子の発芽と感染の拡大を助ける。ただしさび病に対する相対湿度の効果はまだあまり分かっていないとマニュアルは書いている
農園内の風の乱れは風速・樹形・葉面積指数・植栽距離・管理方法・畝の向きで決まる。風は胞子の拡散に寄与する。日陰栽培の風速(1.5〜3km/h)は、直射日光下(1.5〜4km/h)より低い
⭐ 夜露がつくかどうかが、分かれ目になる。 マニュアルが引くLópez(2010)の研究は、雨のない日の午後6時〜午前6時に、直射日光下(無日陰)の農園では葉の温度と露点が非常に近い状態が続き、それが胞子の発芽を助けることを示した。ところが適切に管理された日陰の下では、葉の温度が露点より上に保たれ、露の形成がかなり減り、結果として胞子が発芽する可能性も下がる。マニュアルは「コーヒーの葉に露があるかないかが、菌の胞子が発芽するかどうかを決める要因になりうる」と書いている。
⭐ 日陰の効果については、研究者の意見が割れている。 マニュアルはこれを隠さずに書いている——「日陰栽培のほうが直射日光下より感染レベルが高い」とする研究(Machado and Matiello 1983、Staver et al. 2001、Avelino et al. 2004・2006)と、「逆である」とする研究(Soto-Pinto et al. 2002)の両方がある。Avelinoらは、この食い違いがコーヒーの着果量(fruit load)の違いで説明できるのではないかと示唆している。「日陰にすればさび病が減る/増える」と単純に言える段階ではない——これはシェード栽培のページの内容とあわせて読むべき点である。
雨の強さによって、日陰の働きが逆になる。 日陰樹は雨の一部を受け止める。弱く短い雨(時間あたり0.25〜1.00mm)では、水が下のコーヒーまで届かないことがある——このとき日陰は胞子の拡散を抑える方に働く。ところが強く長い雨では、日陰樹が水を集め、直径9mmにもなる大粒の水滴を作って落とす大粒の水滴が葉を叩くことで、かえって拡散を促す同じ日陰樹が、雨の降り方によって逆の働きをする
参考:コーヒー自体が必要とする条件。 マニュアルは年間降水量1,200〜2,000mmを「もっとも重要な条件」として挙げ、雨季と乾季のサイクルが、新しい葉の発生・開花・結実に効くと書いている(→開花・結実)。
08

防除の実務:剪定・施肥・日陰

SOURCE: CATIE 技術マニュアル131号 第8章
⭐ なぜ防除するのか——マニュアルは目的をはっきり書いている。 「さび病を防除する主な理由は、実が育つ時期に葉を守る必要があるからである」。葉の役割はコーヒーの木の維持・成長・繁殖に必要な炭水化物をすべて合成することで、実の生産段階では、主要な開花の後60日まで、そして収穫期の30日前まで、葉がある必要がある(Cenicafé 2011)。葉を守ることが、そのまま今年と来年の収穫を守ることになる。

マニュアルは、発病を決める要因を「宿主・病原菌・環境・作物の農学的管理」の4つに整理する。このうち農家が動かせるのは4つめである。

実務マニュアルの記述
剪定収穫期が終わってから、できれば乾季か降雨の少ない時期に行う。目的は病気にかかった枝・力を使い切った枝・折れた枝を取り除いて木を更新すること。木は植えて3年目から生産を始め、生産開始から3年目ごろ(植えてから6年後)に疲弊の兆候が出たら剪定するのが目安
剪定の3方式選択剪定(木を見て疲弊・罹病した枝だけを外し、常に更新状態に保つ)/畝単位の剪定(3〜4〜5年ごとに1畝まるごと。作付面積の66%以上を維持するのが狙い)/区画単位の剪定(回復期間の畝間で豆・トウモロコシ・トウガラシ・トマトなど短期作物を作り、2年間の代替収入にできる)
ひこばえ整理剪定後、雨季の始まりに多数の芽が動く。幹によく分散した勢いのよいひこばえを2〜3本だけ残し、他は全部取り除く年2回(1回目は剪定の2〜3か月後、2回目はさらに2〜3か月後)
なぜ効くのか剪定とひこばえ整理は樹内の通気を改善し、株間の空間配分をよくする。その結果相対湿度が下がり、日射が入る——さび病にとって不利な条件ができる。加えて葉面散布剤のかかりと効きもよくなる
施肥良好な栄養状態は木の樹勢を高め、さび病に対する防御機構を強める。土壌・葉分析の結果に応じて化学肥料・有機肥料(またはその両方)を施す。土壌の酸性化はリンの固定や鉄・アルミニウムイオンの放出を招くため、ドロマイト石灰や炭酸カルシウムによる矯正が推奨される
日陰の管理中米では90%以上のコーヒー農園が樹木と組み合わされている。日陰樹は微気候を整え、日射を減らし、水収支を改善し、有機物と(マメ科なら)窒素で土を肥やし、落葉と枝で土壌侵食を減らす。その同じ微気候調整がさび病菌の発達を促すこともあるが、日陰の条件はさび病の天敵にとっても有利になりうる——だから日陰の管理が、病気に不利な条件を作るうえで根本的な役割を果たしうる
⭐ 価格の下落が、流行の一因になっている。 マニュアルはAvelino et al.(2015)を引いて、2012年の流行の原因として、気象の変動に加えて「2011〜2013年のコーヒー価格の下落によって管理が手薄になったこと」を挙げる。収入が減った農家は管理作業と施肥を減らし、その結果、木が栄養不足になって病気にかかりやすくなった——という筋道である。同じ節には、樹齢25年を超える農園が増えていたことも原因として並べられている。病気の流行が、市場価格と地続きになっていることを示す記述として引用しておく(→市場・統計コンテキスト)。
農園が高齢化している。 マニュアルが各国機関の報告として挙げる数字:グアテマラは農園の60%が樹齢15年超(Anacafé 2013)、パナマは61%が20年超・23%が11〜20年(MIDA 2013)、コスタリカは96,539haのうち14,592ha(15.1%)が剪定を、5,140ha(5.3%)が更新を要する(Icafé 2013)、エルサルバドルは11,444ha(10.5%)が最低限の管理も受けていない(Procafé 2013)。2012年の流行の背景には、この状態があった。
⭐ 「耐病性品種はカップが落ちる」は、そのままでは正しくない。 マニュアルは「ティモール・ハイブリッド系品種のカップ品質はあまり良くない」と率直に書く一方で、「しかしカティモール系とサルチモール系は、必ずしも品質の問題を示すわけではなく、ときには品質で知られる品種と比べても、品評会で優勝したりカッピングで高得点を得たりして驚かせてきた」と続けている。当サイトの品種ページにカティモール系・サルチモール系が並んでいるのはこのためである(→ティモール・ハイブリッド)。マニュアルは「耐性・耐病性を持つ品種を少なくとも2品種組み合わせる」ことも勧めている。
薬剤の話は、このページには載せない。 マニュアル第8章には化学的防除(8.3)の節もあるが、薬剤の選択・濃度・散布時期は、その国の登録制度と農園の条件に依存する。当サイトは中立の資料集であり栽培指導を行う立場にないため、具体的な薬剤の記述は掲載しない。原典(下記の出典[7])を直接参照されたい。
評価方法も国ごとに違う。 マニュアル第6章は、Anacafé(グアテマラ)・CATIE・Icafé(コスタリカ)・OIRSA(国際地域植物動物衛生機構)の4つの調査法を並べて紹介している。「さび病の発生率」という数字も、どの方法で測ったかによって比べられないことになる——10で産地ごとの数字を単純比較しないと書いたのと同じ理由である。第7章は早期警戒システム(EWS)を扱っており、ジャマイカがIICA・気象局と組んで進めているものと同系統の取り組みにあたる。
09

⭐ 当サイトの品種ページ35件を、さび病耐性で並べる

SOURCE: 各品種ページ(WCR品種カタログ準拠)

当サイトには35件の品種ページがあり、そのすべてに「さび病耐性」の欄がある。ここではその評価を横断して集計した。各品種の根拠は、リンク先のページ末尾に記載している。

この表の読み方には、はっきりした注意がいる。ここに並べた評価は品種どうしを直接比べるための順位表ではない。WCR品種カタログの3段階評価をそのまま集計したもので、試験地・年・さび病のレースが違えば結果は変わる(04節のとおりレースは55種類以上ある)。②「評価値なし」の2品種は耐性が不明という意味ではない——ティモール・ハイブリッドは抵抗性を供給する側なので3段階評価の枠に載らず、エチオサルはWCRカタログに準拠したスペック値が書けない品種である。③この集計は当サイトが掲載している35品種の範囲であって、世界の品種全体の分布ではない。
⭐ 有名な品種ほど、さび病に弱い側に並んでいる。 ティピカブルボンカトゥーラSL28パカマラ——カップの評価で名前が知られている系統の多くが「低い耐性」に入る。JACRAがジャマイカについて書いている「アラビカ・ティピカはカップクオリティが優れる一方、多くの病害に非常にかかりやすく、その筆頭がさび病である」という記述は、この並びと整合する。おいしさと丈夫さが同じ方向を向いていないことが、品種改良が今も続いている理由である。
耐性評価は「変わる」。 コスタリカ95かつてさび病への高い耐性が期待されたが、WCRカタログの現行評価は「低い耐性/感受性」で、同カタログは「コスタリカにおいてさび病感受性が科学的評価により確認された」と明記している。病原菌が進化すれば、いったん耐性とされた品種も感受性に変わりうる——04節のWCRの記述が、実例として当サイトの品種ページに載っているかたちである。
10

産地ページから見る「切り替え」の進み方

SOURCE: 各産地ページ(WCR等)

さび病への対策は、国ごとに耐性品種への植え替えという形で進んでいる。当サイトの産地ページに載っている数字を並べると、進み方に大きな差があることがわかる。

産地さび病に関する記述
コロンビアさび病耐性品種の比率が2024年時点で87%(2010年は35%)。1938年設立のCenicafé(国家コーヒー研究センター)による品種改良の蓄積があり、Castillo 2.0を2024年にリリース。2025年にはWCRと共同でさび病関連の遺伝子マーカーを特定
グアテマラ総樹木数16億本超のうちさび病耐性品種は30%にとどまり、70%が更新を必要とする状態。国産耐病性品種 Anacafe 14 を2014年にリリース
ホンジュラス2012年のさび病大流行を受けた国家的な樹木更新(若返り)政策により、近隣諸国と比べて若い樹木が多い構成になっている。IHCAFE(ホンジュラスコーヒー協会)が育種・技術支援・融資を担う
コスタリカICAFEによるコスタリカ95、CIRAD・PROMECAFE・CATIEのコンソーシアムによるF1ハイブリッドセントロアメリカーノなど、複数の耐病性品種の育成地
ジャマイカ主要品種のアラビカ・ティピカさび病に非常にかかりやすい。JACRAはIICA・西インド諸島大学・PROMECAFE・WCR・パデュー大学と連携し、気象局と組んだ早期警戒システムのプロジェクトも進めている
インドWCRは、インドの農家が「世界のどの産地よりも強い病害圧力」に直面しているとし、それが耐病性・気候変動耐性品種の研究優先度を押し上げていると記す
数字を横に並べるときの注意。 コロンビアの87%とグアテマラの30%は集計の年も対象も同じではない(コロンビアは耐性品種の比率、グアテマラは総樹木数に対する比率)。「コロンビアのほうが進んでいる」と単純に読むための表ではない——各国が公表している数字をそのまま並べたものである。この扱いは産地ハブに輸出ランクを置かないのと同じ方針による。
11

もう一つの道:天敵を使う

SOURCE: World Coffee Research(2019年)

品種改良と殺菌剤のほかに、WCRが進めているのが生物的防除(biocontrol)である。さび病菌の天敵を、菌のふるさとであるアフリカで探すという研究。

研究者
ブラジル・ヴィソーザ連邦大学(UFV)の Robert Weingart Barreto 教授が率いるWCRのプロジェクト。英国の植物病理学者 Harry Evans(CABI)およびアフリカの研究者と協力
探している場所
2015年から、エチオピア・ケニア・カメルーンなどの野生のコーヒーの森。Barreto教授は「森の中で、樹齢100年を超えるコーヒーの木を見てきた」と語る
探しているもの
菌寄生性(mycoparasitic)=さび病菌を攻撃して食べる菌、および内生菌(endophytic)=コーヒーの植物体内で育ち、感染から植物を守る「ボディガード」として働きうる菌
考え方
古典的生物的防除(CBC)——アフリカの原産地に置き去りにされた、共進化した天敵たちとさび病菌を再会させるという発想。WCRは「効果的で、持続可能で、生態学的に穏当な方法であり、かつ費用対効果が非常に高い」と説明する
これまでの成果
UFVチームは合計1,392の内生菌・菌寄生菌を採集。そこから10〜20の候補を選び、実験室と温室でより包括的なスクリーニングを行い、有望なものを圃場で試験する段階
「見たことのない菌」が出てきている。 Barreto教授は「私たちは、これまで見たこともない菌を見つけている。生きた植物の中で育つことができると誰も知らなかった菌だ」と述べている。これらの内生菌は、健全なコーヒー組織からの手間のかかる分離手順を経て初めて姿を現し、その作業はアフリカ現地で行う必要がある——現地の共同研究者なしには成り立たない調査である、とWCRは強調している。
これは研究段階の話である。 記事は2019年時点のもので、圃場試験の結果や実用化については書かれていない。当サイトは「こういう方向の研究がある」という以上のことは書かない
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今後追加すべき項目

  1. World Coffee Research「World Coffee Research publishes manual for coffee leaf rust」(WCR News、2016年5月17日。中米危機の被害実数、CATIE・USAIDとの共同、Tim Schillingのコメント。2026年8月16日取得)
  2. World Coffee Research「Coffee leaf rust knows no borders—neither does coffee science」(WCR News、2025年6月13日。収量損失35〜75%、55超のレース、SH遺伝子の由来、15か国23試験地29品種の国際共同試験、2020年ハワイでの発生。2026年8月16日取得)
  3. World Coffee Research「Harnessing the power of natural enemies to fight coffee leaf rust」(Program Updates、2019年2月19日。キュー王立植物園のセイロン標本、古典的生物的防除、1,392の採集。2026年8月16日取得)
  4. Jamaica Agricultural Commodities Regulatory Authority(JACRA)公式サイト — Divisions/Coffee/Known Industry Concerns(症状の説明、国際的な研究連携。→ジャマイカ
  5. SCA「Coffee Decoded: A Multi-Species World」(1867年のセイロン、1870年のロブスタ発見。→コーヒーの「種」とは
  6. 09・10節の各品種・各産地のデータは、リンク先の当サイト各ページ本文からの集計。個別の出典は各ページ末尾に記載(大半はWorld Coffee Research 品種カタログおよび国別ページ)
  7. Virginio Filho, E. de M.; Astorga Domian, C. Prevention and control of coffee leaf rust: Handbook of best practices for extension agents and facilitators. Tropical Agricultural Research and Higher Education Center(CATIE), Technical series, Technical manual no. 131, August 2019, ISBN 978-9977-57-704-3, 全100ページ。World Coffee Research・Borlaug Institute・USAIDとの連携で作成されたスペイン語版(2016年)の英語訳。CATIE機関リポジトリ(repositorio.catie.ac.cr)より2026年8月16日取得。第1章(起源・流行・影響)、第4章(環境要因)、第6〜8章(評価法・早期警戒・防除の実務)を参照