01
基本情報
SOURCE: WCR VARIETY CATALOG
- 名称
- T8667(T-8667とも表記)。「T」はCATIEの所在地トゥリアルバTurrialba(コスタリカ)を表す——T5296と同じ命名規則
- 育種機関
- WCRカタログの「Breeder」欄はNone(記載なし)。特定の育種家の作出品種ではなく、各国の研究機関が受け取って選抜を重ねた集団であることによると考えられる
- 遺伝的系統区分
- 導入系・カティモール関連Introgressed (Catimor related)
- WCRによる要約
- 「高収量でさび病に耐性を持ち、もっとも暖かい地域と酸性土壌に適応する」
- 栽培上の注意
- オホ・デ・ガジョ(Ojo de Gallo/アメリカンリーフスポット)に感受性。酸性土壌・アルミニウムに富む土壌、暖かい気候に推奨。ペルーでは推奨標高が800〜1,400mとされている
このページは「栽培品種」ではなく「育種素材/集団」のページである。 T5296と同じく、農家が名指しで植える品種というより
「他の品種の母体」としての意味が中心になる。ただしWCRカタログに単独エントリがあるためスペック表は掲載できる(03章)。
02
カティモール群がたどった道のり
SOURCE: WCR VARIETY CATALOG「T8667」HISTORY
1958〜59年
ポルトガルの
CIFC(コーヒーさび病研究センター)が、ティモール島から
ティモール・ハイブリッドの種子を受け取る。
交配
CIFCで
ティモール・ハイブリッド 832/1 × カトゥーラの交配が行われる。CIFCでのこの交配の呼称が
H26。
初期選抜
ブラジルのヴィソーザ連邦大学(Universidade Federal de Viçosa)が、この交配から生まれた集団の初期選抜を担当。
1978年
CATIE(コスタリカ・トゥリアルバ)がヴィソーザ連邦大学から
F5世代の後代を受領。中米ではこれに
T-8667の番号が与えられた。
1978年
中米の地域コンソーシアムPROMECAFEが、この地域に到達したばかりのさび病の脅威に対応するために結成される。資金はUSAIDの中米地域事務所(ROCAP)とブラジルのIAC。T8667はPROMECAFE最初期の取り組みに起源を持つ。
1980年代後半
中米の民間農園がT-8667のさらなる集団選抜(mass selection)を行い、その種子が地域全体に配布された——とくに1980年代後半に広がった。
「集団選抜(mass selection)」とは。 WCRはこの語を注記付きで説明している——「
成績の優れた個体をまとめて選び、それらの種子を混ぜて次世代を作り、それを繰り返す方式」。1個体ずつ追跡する
血統選抜(pedigree selection)より手間がかからない代わりに、集団の中に個体差が残りやすい。当サイトの
カスティージョで扱った「複数系統を混ぜる複合品種」とも、
パライネマ・
クスカトレコの血統選抜とも異なる、第三の増やし方である。
03
詳細スペック
SOURCE: WCR CATALOG, 2026-08-12 取得
評価の目安:
▲ 良好
● 標準
▼ 要注意
— WCRカタログ自身の区分(Low/Medium/High/Exceptional等)をそのまま可視化したもの
- 樹形
- 矮性・コンパクトDwarf/Compact
- 新芽の葉色
- ブロンズBronze
- 豆のサイズ
- 平均的Average●
- 収穫量ポテンシャル
- 高いHigh▲
- 高標高での品質
- 低いLow▼
- 最適標高帯
- 低〜中Low, Medium(北緯5°〜南緯5°:1,000〜1,600m/5〜15°:700〜1,300m/15°超:400〜1,000m)
- さび病(CLR)耐性
- 中程度の耐性Intermediate resistance●
- 線虫耐性
- 感受性ありSusceptible▼
- コーヒーベリー病(CBD)耐性
- 感受性ありSusceptible▼
- 初収穫までの年数
- 3年目
- 必要な栄養レベル
- 高いHigh▼
- 果実の成熟時期
- 平均的Average●
- 生豆歩留まり
- 低いLow▼
- 推奨植栽密度
- 5,000〜6,000本/ha(単幹剪定の場合)
サルチモール群との性格の違いがはっきり出ている。 T5296(サルチモール群の母体)は豆のサイズ「大きい」・高標高品質「良い」・生豆歩留まり「高い」だったのに対し、T8667は
平均的/低い/低い。カティモール群は
低〜中標高の暖かい地域で収量を確保する方向、サルチモール群は
より高標高・品質寄り——という傾向差が、群の母体の段階から現れている。
04
カティモール群の品種たち
SOURCE: WCR VARIETY CATALOG(各エントリ)
WCRカタログでカティモール系(Introgressed / Catimor related)に分類され、Lineage欄がいずれも「Timor Hybrid 832/1 × Caturra」である品種を並べると次のようになる。すべて同じ交配(H26)に由来しながら、受け取った世代・選抜した機関・固定された性質が違う。
カティモール群の主な品種。WCR Variety Catalogの各エントリ(2026年8月12日取得)より。
| 品種 | 選抜機関 | さび病耐性 | 高標高品質 | 生豆歩留まり | 特記 |
| T8667(本ページ) | —(CATIEが受領した集団) | 中程度 | 低い | 低い | 群の母体(F5世代を1978年受領) |
| T5175 | ICAFE(コスタリカ) | 中程度 | 非常に低い | 低い | F3世代を1970年代に受領。正式リリースされず |
| コスタリカ95 | ICAFE(コスタリカ) | 低い/感受性 | 低い | 平均的 | コスタリカでさび病感受性が確認された |
| レンピラ | IHCAFE/PROMECAFE(ホンジュラス) | 中程度 | 低い | 低い | ホンジュラスでさび病感受性が確認された |
| IHCAFE 90 | IHCAFE(ホンジュラス) | 低い/感受性 | 非常に低い | 低い | 同上。T5175に酷似 |
| カティシック | ISIC/PROMECAFE(エルサルバドル) | 中程度 | 非常に低い | 低い | コスタリカ95に酷似とWCRが記載 |
WCRのカタログ内に系譜の食い違いがある——両論そのまま記載する。 T8667のHistory欄は「
IHCAFEが同様に(T-8667から選抜して)レンピラを作った」と記す一方、
T5175のHistory欄は「
ホンジュラスではT5175のさらなる選抜がIHCAFE 90とレンピラを生んだ」と記している。T8667とT5175はどちらも同じ交配(H26)由来だが受け取った世代が違う集団であり、
レンピラがどちらの集団から選抜されたのかはWCRカタログ内で一致していない。当サイトの方針として、どちらかに寄せず両方を併記する。
05
「カティモール」も品種名ではない
T5296のページで扱ったWCRの注意書き——「サルチモールはそれ自体が独立した1つの品種ではなく、似た親を持つ多くの異なる品種の"群"である」——は、カティモールにもそのまま当てはまる。上の表の通り、同じ「カティモール系」でもさび病耐性の評価は「中程度」から「低い/感受性」まで分かれ、高標高での品質も「低い」と「非常に低い」に分かれる。
店頭やロット情報の「品種:カティモール」は、群の名前であって品種名ではない。 実際に植えられているのはコスタリカ95かもしれず、レンピラかもしれず、IHCAFE 90かもしれない。
「カティモール=品質が低い」という決めつけも、逆に正確ではない。 WCRの評価はいずれも高標高での品質ポテンシャルについての区分であり、カティモール群はそもそも低〜中標高の暖かい地域向けに設計された群である。適地の外で育てて低い評価を出すのは、品種の設計意図とは別の話になる。当サイトはWCRの区分をそのまま掲載しており、カップの絶対評価として読まないでいただきたい。
06
今後追加すべき項目
- HDT 832/1 と 832/2 の違い — カティモール群の親は832/1、サルチモール群の親は832/2。同じティモール・ハイブリッドの別系統だが、耐性遺伝子の構成の違いはWCRカタログからは分からない。CIFC自身の資料が必要。
- レンピラの母体集団 — 上記の通りWCRカタログ内で記述が一致していない(T8667由来/T5175由来)。IHCAFE自身の資料での確認が必要。
- オホ・デ・ガジョ(Ojo de Gallo) — カティモール群の複数品種で感受性が指摘される病害。当サイトに病害の解説ページがない。
- PROMECAFE・CIFC・ヴィソーザ連邦大学の一次資料 — 本ページの経緯はすべてWCRカタログ経由。
- World Coffee Research, Variety Catalog「T8667」(varieties.worldcoffeeresearch.org/varieties/t8667、2026年8月12日取得)— スペック各項目、History欄(H26交配、ヴィソーザ連邦大学、1978年CATIE受領、PROMECAFE結成、集団選抜、派生品種)
- World Coffee Research, Variety Catalog「T5175」「Costa Rica 95」「Lempira」「IHCAFE 90」(同日取得、04章の一覧表と系譜の食い違いの記載)