HACHIMARU COFFEE ROASTERY
品種ページ / Variety

T8667T8667(カティモール群)

「カティモール」と呼ばれる耐病性品種群の、中米における出発点となった集団。 ティモール・ハイブリッド 832/1 × カトゥーラの交配(ポルトガルCIFCでの呼称はH26)がブラジル・ヴィソーザ連邦大学で初期選抜され、1978年にF5世代がコスタリカのCATIEへ送られて T-8667 の番号を得た。ここからコスタリカ95レンピラカティシックが選抜されている。T5296がサルチモール群のハブであるのと同じ位置づけのページである。

遺伝的系統区分
導入系(カティモール系)
系統
HDT 832/1 × カトゥーラ
位置づけ
群の母体となった集団
さび病耐性
中程度
01

基本情報

SOURCE: WCR VARIETY CATALOG
名称
T8667(T-8667とも表記)。「T」はCATIEの所在地トゥリアルバTurrialbaコスタリカ)を表す——T5296と同じ命名規則
系統・成り立ち
ティモール・ハイブリッド 832/1 × カトゥーラTimor Hybrid 832/1 x Caturra。CIFCでの交配呼称はH26
育種機関
WCRカタログの「Breeder」欄はNone(記載なし)。特定の育種家の作出品種ではなく、各国の研究機関が受け取って選抜を重ねた集団であることによると考えられる
遺伝的系統区分
導入系・カティモール関連Introgressed (Catimor related)
WCRによる要約
「高収量でさび病に耐性を持ち、もっとも暖かい地域と酸性土壌に適応する
栽培上の注意
オホ・デ・ガジョ(Ojo de Gallo/アメリカンリーフスポット)に感受性酸性土壌・アルミニウムに富む土壌、暖かい気候に推奨ペルーでは推奨標高が800〜1,400mとされている
このページは「栽培品種」ではなく「育種素材/集団」のページである。 T5296と同じく、農家が名指しで植える品種というより「他の品種の母体」としての意味が中心になる。ただしWCRカタログに単独エントリがあるためスペック表は掲載できる(03章)。
02

カティモール群がたどった道のり

SOURCE: WCR VARIETY CATALOG「T8667」HISTORY
1958〜59年
ポルトガルのCIFC(コーヒーさび病研究センター)が、ティモール島からティモール・ハイブリッドの種子を受け取る。
交配
CIFCでティモール・ハイブリッド 832/1 × カトゥーラの交配が行われる。CIFCでのこの交配の呼称がH26
初期選抜
ブラジルのヴィソーザ連邦大学(Universidade Federal de Viçosa)が、この交配から生まれた集団の初期選抜を担当。
1978年
CATIE(コスタリカ・トゥリアルバ)がヴィソーザ連邦大学からF5世代の後代を受領。中米ではこれにT-8667の番号が与えられた。
1978年
中米の地域コンソーシアムPROMECAFEが、この地域に到達したばかりのさび病の脅威に対応するために結成される。資金はUSAIDの中米地域事務所(ROCAP)とブラジルのIAC。T8667はPROMECAFE最初期の取り組みに起源を持つ
1980年代後半
中米の民間農園がT-8667のさらなる集団選抜(mass selection)を行い、その種子が地域全体に配布された——とくに1980年代後半に広がった。
各国での固定
CATIEがT-8667からさらに選抜してコスタリカ95を、ホンジュラスのIHCAFEが同様にレンピラを、エルサルバドルのISICがカティシック(Catisic)を作出した。
「集団選抜(mass selection)」とは。 WCRはこの語を注記付きで説明している——「成績の優れた個体をまとめて選び、それらの種子を混ぜて次世代を作り、それを繰り返す方式」。1個体ずつ追跡する血統選抜(pedigree selection)より手間がかからない代わりに、集団の中に個体差が残りやすい。当サイトのカスティージョで扱った「複数系統を混ぜる複合品種」とも、パライネマクスカトレコの血統選抜とも異なる、第三の増やし方である。
03

詳細スペック

SOURCE: WCR CATALOG, 2026-08-12 取得
評価の目安: 良好 標準 要注意 — WCRカタログ自身の区分(Low/Medium/High/Exceptional等)をそのまま可視化したもの
樹形
矮性・コンパクトDwarf/Compact
新芽の葉色
ブロンズBronze
豆のサイズ
平均的Average
収穫量ポテンシャル
高いHigh
高標高での品質
低いLow
最適標高帯
低〜中Low, Medium(北緯5°〜南緯5°:1,000〜1,600m/5〜15°:700〜1,300m/15°超:400〜1,000m)
さび病(CLR)耐性
中程度の耐性Intermediate resistance
線虫耐性
感受性ありSusceptible
コーヒーベリー病(CBD)耐性
感受性ありSusceptible
初収穫までの年数
3年目
必要な栄養レベル
高いHigh
果実の成熟時期
平均的Average
生豆歩留まり
低いLow
推奨植栽密度
5,000〜6,000本/ha(単幹剪定の場合)
サルチモール群との性格の違いがはっきり出ている。 T5296(サルチモール群の母体)は豆のサイズ「大きい」・高標高品質「良い」・生豆歩留まり「高い」だったのに対し、T8667は平均的/低い/低い。カティモール群は低〜中標高の暖かい地域で収量を確保する方向、サルチモール群はより高標高・品質寄り——という傾向差が、群の母体の段階から現れている。
04

カティモール群の品種たち

SOURCE: WCR VARIETY CATALOG(各エントリ)

WCRカタログでカティモール系(Introgressed / Catimor related)に分類され、Lineage欄がいずれも「Timor Hybrid 832/1 × Caturra」である品種を並べると次のようになる。すべて同じ交配(H26)に由来しながら、受け取った世代・選抜した機関・固定された性質が違う

カティモール群の主な品種。WCR Variety Catalogの各エントリ(2026年8月12日取得)より。
品種選抜機関さび病耐性高標高品質生豆歩留まり特記
T8667(本ページ)—(CATIEが受領した集団)中程度低い低い群の母体(F5世代を1978年受領)
T5175ICAFE(コスタリカ中程度非常に低い低いF3世代を1970年代に受領。正式リリースされず
コスタリカ95ICAFE(コスタリカ)低い/感受性低い平均的コスタリカでさび病感受性が確認された
レンピラIHCAFE/PROMECAFE(ホンジュラス中程度低い低いホンジュラスでさび病感受性が確認された
IHCAFE 90IHCAFE(ホンジュラス)低い/感受性非常に低い低い同上。T5175に酷似
カティシックISIC/PROMECAFE(エルサルバドル中程度非常に低い低いコスタリカ95に酷似とWCRが記載
WCRのカタログ内に系譜の食い違いがある——両論そのまま記載する。 T8667のHistory欄は「IHCAFEが同様に(T-8667から選抜して)レンピラを作った」と記す一方、T5175のHistory欄は「ホンジュラスではT5175のさらなる選抜がIHCAFE 90とレンピラを生んだ」と記している。T8667とT5175はどちらも同じ交配(H26)由来だが受け取った世代が違う集団であり、レンピラがどちらの集団から選抜されたのかはWCRカタログ内で一致していない。当サイトの方針として、どちらかに寄せず両方を併記する。
05

「カティモール」も品種名ではない

T5296のページで扱ったWCRの注意書き——「サルチモールはそれ自体が独立した1つの品種ではなく、似た親を持つ多くの異なる品種の"群"である」——は、カティモールにもそのまま当てはまる。上の表の通り、同じ「カティモール系」でもさび病耐性の評価は「中程度」から「低い/感受性」まで分かれ、高標高での品質も「低い」と「非常に低い」に分かれる

店頭やロット情報の「品種:カティモール」は、群の名前であって品種名ではない。 実際に植えられているのはコスタリカ95かもしれず、レンピラかもしれず、IHCAFE 90かもしれない。

「カティモール=品質が低い」という決めつけも、逆に正確ではない。 WCRの評価はいずれも高標高での品質ポテンシャルについての区分であり、カティモール群はそもそも低〜中標高の暖かい地域向けに設計された群である。適地の外で育てて低い評価を出すのは、品種の設計意図とは別の話になる。当サイトはWCRの区分をそのまま掲載しており、カップの絶対評価として読まないでいただきたい。
06

今後追加すべき項目

  1. World Coffee Research, Variety Catalog「T8667」(varieties.worldcoffeeresearch.org/varieties/t8667、2026年8月12日取得)— スペック各項目、History欄(H26交配、ヴィソーザ連邦大学、1978年CATIE受領、PROMECAFE結成、集団選抜、派生品種)
  2. World Coffee Research, Variety Catalog「T5175」「Costa Rica 95」「Lempira」「IHCAFE 90」(同日取得、04章の一覧表と系譜の食い違いの記載)