01
基本情報
SOURCE: WCR VARIETY CATALOG
- 品種名
- セントロアメリカーノCentroamericano(カタログ上の識別記号:H1)
- 系統・成り立ち
- T5296 × ルメ・スーダンT5296 x Rume Sudan
- 育成機関
- CIRAD-CATIE-ICAFE-IHCAFE-PROCAFE-ANACAFE(フランスCIRAD/コスタリカCATIE/コスタリカICAFE/ホンジュラスIHCAFE/エルサルバドルPROCAFE/グアテマラANACAFE)
- 発表年
- 2010年、中米の生産者向け
- 遺伝的系統区分
- F1ハイブリッド(導入系)F1 hybrid (introgressed)
- WCRによる要約
- 「非常に高収量で、健全な土壌かつ標高1,300m超に植えれば非常に良い品質ポテンシャルを持つ。さび病耐性あり。アグロフォレストリー(樹陰栽培)によく適応する」
- 育種評価での増収
- 育種段階の評価において、中米の標準品種に対し22〜47%の増産を示した
「導入系(introgressed)」とは。 遺伝子的にアラビカ以外(ロブスタ)の領域が入り込んでいる系統を指すWCRの区分である。セントロアメリカーノの場合、それは親である
T5296、さらにその親の
ティモール・ハイブリッドに由来する。さび病耐性はこの経路で受け継がれている。当サイトの
カスティージョ・
マルセジェサなども同じ導入系だが、それらが
世代を重ねて形質を固定した品種であるのに対し、セントロアメリカーノは
交配第一世代(F1)そのものを植えるという点が決定的に違う。次章で扱う。
02
F1ハイブリッドとは何か——種子で増やせない品種
SOURCE: WCR VARIETY CATALOG「Additional agronomic information」
WCRはF1ハイブリッド品種のエントリすべてに、同じ注意書きを載せている。コーヒー品種としては例外的な性質なので、原文の趣旨をそのまま引く。
「F1ハイブリッドについての重要な注意:ハイブリッド(雑種)の樹から採った種子は、親と同じ性質を持たない。これは「分離(segregation)」と呼ばれる。つまり、子の樹は親と同じ見た目・同じふるまいにならず、収量・耐病性・品質その他の農学的性能を失う可能性がある。この品種はクローン繁殖(無性繁殖)によってのみ増やすべきであり、信頼できる苗業者から購入すべきである。」
— World Coffee Research, Variety Catalog「Centroamericano」Additional agronomic information(要旨訳)
この一点が、栽培の現場で意味を持つ。 ブルボンやカトゥーラのような従来品種は、自分の畑の実から種を採って苗床にまけば、ほぼ同じ性質の樹が育つ(当サイトの種まきのページで扱っている工程)。ところがF1ハイブリッドでこれをやると、次の世代はばらばらな性質の樹の集まりになってしまう。したがってF1ハイブリッドの苗は、接ぎ木などのクローン繁殖か、組織培養(体細胞胚形成)を通じて生産され、生産者はそれを苗として購入することになる。種子を買うのではなく、苗を買う——これが従来品種との実務上のいちばん大きな違いである。
セントロアメリカーノ固有の栽培上の注意もWCRは併記している。「最初の2年間は根の定着に苦労することがある。根を確立させるには丁寧な養分管理が必要で、窒素(N)の与えすぎを避けること。」必要な栄養レベルの評価が「非常に高い(Very High)」であることと合わせて、手のかかる品種であることが読み取れる。
03
詳細スペック
SOURCE: WCR CATALOG, 2026-08-12 取得
評価の目安:
▲ 良好
● 標準
▼ 要注意
— WCRカタログ自身の区分(Low/Medium/High/Exceptional等)をそのまま可視化したもの
- 樹形
- 矮性・コンパクトDwarf/Compact
- 新芽の葉色
- 緑Green
- 豆のサイズ
- 大きいLarge▲
- 収穫量ポテンシャル
- 非常に高いVery High▲
- 高標高での品質
- 非常に良いVery Good▲
- 最適標高帯
- 低〜中〜高Low, Medium, High(北緯5°〜南緯5°:1,000m超/5〜15°:700m超/15°超:400m超)
- さび病(CLR)耐性
- 高い耐性Highly resistant▲
- 線虫耐性
- 感受性ありSusceptible▼
- コーヒーベリー病(CBD)耐性
- 耐性ありTolerant●
- 初収穫までの年数
- 2年目▲
- 必要な栄養レベル
- 非常に高いVery High▼
- 果実の成熟時期
- 平均的Average●
- 生豆歩留まり
- 非常に高いVery High▲
- 推奨植栽密度
- 3,000〜4,000本/ha(単幹剪定の場合)
※最適標高帯は緯度によって読み替える必要がある(赤道に近いほど高い標高が最適になる)。WCRカタログの表記をそのまま記載した。
04
同じ交配、別の品種——ミレニオ・ムンド・マヤとの比較
SOURCE: WCR VARIETY CATALOG(3品種の各エントリ)
セントロアメリカーノとミレニオは、WCRのLineage欄に記された交配がどちらも「T5296 × ルメ・スーダン」で完全に同一である。育成機関の記載も同じ6機関のコンソーシアム。それでもスペック評価は一致しない。ムンド・マヤはエチオピア側の親が別(CATIE収集のET01)で、育成機関も別である。
F1ハイブリッド3品種の比較。いずれもWCR Variety Catalogの各エントリ(2026年8月12日取得)より。
| 項目 | セントロアメリカーノ | ミレニオ | ムンド・マヤ |
| カタログ記号 | H1 | H10 | EC16 |
| 交配 | T5296 × ルメ・スーダン | T5296 × ルメ・スーダン | T5296 × ET01(エチオピア在来) |
| 育成機関 | CIRAD-CATIE-ICAFE-IHCAFE-PROCAFE-ANACAFE | 同左 | CIRAD-ECOM |
| 新芽の葉色 | 緑 | 緑 | ブロンズ |
| 最適標高帯 | 低〜中〜高(赤道付近1,000m超) | 中〜高(同1,200m超) | 中〜高(同1,200m超) |
| 線虫耐性 | 感受性あり | 感受性あり | 耐性あり(種による・下記注) |
| 必要な栄養レベル | 非常に高い | 不明(記載なし) | 高い |
| 推奨植栽密度 | 3,000〜4,000本/ha | 4,000〜5,000本/ha | 4,000〜5,000本/ha |
| 均一性についての記載 | — | 「品種は均一ではない」と明記 | — |
樹形・豆のサイズ・収量・高標高での品質・さび病耐性・CBD耐性・初収穫年・成熟時期・生豆歩留まりは3品種とも同一評価である(矮性/大きい/非常に高い/非常に良い/高耐性/耐性あり/2年目/平均的/非常に高い)。違いが出ているのは上の表の項目で、とくにセントロアメリカーノだけが低標高帯を含む「低〜中〜高」の評価を得ている点は、栽培可能な範囲の広さとして実務的な差になる。
ムンド・マヤの線虫耐性には条件がある。 WCRは補足欄で「
Pratylenchus属には耐性がない。一部のMeloidogyne属には耐性がある」と明記している。「線虫耐性あり」という一語で括れないことは、当サイトの
IAPAR 59のページでも同じ論点として扱っている。
05
今後追加すべき項目
- ルメ・スーダン(Rume Sudan)の独立ページ — WCR品種カタログに単独のエントリは存在しない(2026年8月12日時点、varieties/rume-sudan は404を確認)。WCRはセントロアメリカーノのHistory欄で「エチオピア在来種(Ethiopian landrace variety)」と記しているが、名称に「スーダン」が含まれる由来や収集の経緯はこの出典からは不明。
- 「22〜47%の増収」の試験条件 — WCRのHistory欄にある数字だが、比較対象の「標準品種」が具体的に何か、試験地・年次・反復数は記載がない。
- カップ品質の第三者評価 — 「高標高で管理が良ければ卓越したカップ品質ポテンシャル」はWCR自身の記述。COE等の競技会入賞実例は当サイト未確認。
- 中米各国での作付け実績 — コスタリカ・ホンジュラス・グアテマラ・エルサルバドルの各ページに、F1ハイブリッドの作付け比率のデータはまだない。
- クローン繁殖の実際 — 当サイトの接ぎ木ページはWCRのGood Practice Guideに基づくが、体細胞胚形成(組織培養)による大量増殖の手順は同ガイドに記載がなく未着手。
- CIRAD/PROMECAFE側の一次資料 — 本ページの経緯はすべてWCRカタログ経由。育成機関自身の公表資料は未取得。
- World Coffee Research, Variety Catalog「Centroamericano」(varieties.worldcoffeeresearch.org/varieties/centroamericano、2026年8月12日取得)
- World Coffee Research, Variety Catalog「Milenio」「Mundo Maya」(同日取得、04章の比較表)