品種ページ / Variety
アテンAteng
インドネシア・スマトラ島北端のアチェ州、ガヨ高地で育てられているカティモール系の品種の呼び名。「Ateng」は産地の県名「Aceh Tengah(中アチェ県)」を縮めたもの。古くから植えられていた「アテン・ジャルック」と、そこから農家が選び出した「アテン・スーパー」の2つがある。アテン・スーパーは2022年、「ガヨ3(Gayo 3)」という名前でインドネシア農業省が国の優良品種に指定した。
- 系統
- カティモール系(ティモール・ハイブリッド×カトゥーラ)
- 樹形
- 背が低い(矮性)Dwarf(アテン・スーパー)
- 国の指定
- 2022年、「ガヨ3」として国の優良品種に(アテン・スーパー)
- 主な産地
- アチェ州 中アチェ県・ベネル・メリア県(ガヨ高地)
01
名前と2つのアテン
SOURCE: Hulupi ほか(2013)/ Wardiana ほか(2024)/ ベネル・メリア県(2023)- 名前の由来
- 「Ateng」は「Aceh Tengah(中アチェ県)」の略[1]
- アテン・ジャルック
- 「カティモール・ジャルック」とも呼ばれる。ガヨ高地で以前から植えられていたが、さび病でひどく傷み、別の品種に植え替えられていった[1]。2009〜2010年の調査では、標高1,200m以上の畑でさび病の被害の程度を示す指数が61.2%で、4段階の評価で下から2番目の「やや弱い」だった[1]
- アテン・スーパー
- 背が低く、さび病に強く、実をたくさん付ける木を、農家が自分たちで選び出して名前を付けたもの[1]。アテン・ジャルック、またはほかのカティモール系の木が自然に受粉してできた中から、1本の親木を選び、その種から増やした[2][3]。選抜は1990年ごろから続けられてきた[3]
- 系統
- カティモール(出発点の集団はT8667のページ)は、ティモール・ハイブリッドとカトゥーラの交配から生まれた系統[4]。ティモール・ハイブリッドはアラビカ種とカネフォラ種が自然に交わったものなので、アテンはアラビカ種でありながら、カネフォラ種の性質も一部受け継いでいる[4]
- 北スマトラ州での呼び名の混同
- 2005年の北スマトラ州の調査では、1990年代の初めに「アテン(Aceh Tengah)」が持ち込まれ、その後に入った「シガラルタン」が新しい畑の主流になっていた。農家はこの2つをよく取り違えていて、アテンは新芽が緑で粒が小さく、シガラルタンは新芽が茶色で粒が大きい、と報告書は書いている。シガラルタンをアテンと呼ぶ農家もいた[7]
- ガヨ高地のほかの品種
- 同じ地域では、農家が選んだ「ティムティム・アチェ」「ボルボル」も広く植えられている[1]。この2つは2010年に「ガヨ1」「ガヨ2」として国の優良品種になった[3]。DNAを調べた研究では、ガヨ3(アテン・スーパー)はガヨ1・ガヨ2とは別のグループに分かれる[3]
02
「ガヨ3」として国の優良品種に
SOURCE: アチェ州 種苗検査所(2023)/ ベネル・メリア県(2023)/ ジョグジャカルタ特別州 種苗サイト(2023)- 申請した機関
- アチェ州の農業・農園局が、インドネシア農業省に登録を申請した[5]
- 審査
- 2022年4月12〜14日にボゴールで開かれた農業省の品種審査会で、国の優良品種として認められた[5]
- 農業省の決定書
- 決定書の番号は 122/Kpts/KB.020/12/22。2023年2月15日に、ジャカルタの農業省でアチェ州とベネル・メリア県の担当者に手渡された[2]
- 長所として挙げられている点
- 実を付けるまでが早い、収穫量が比較的多い、品質がとても良い、標高の高い土地によく合う[5]
- 植えられている面積
- 中アチェ県の14郡で6,584.41ha、ベネル・メリア県の10郡で17,344.36ha[6]
- 木と葉の特徴
- 背が低く、枝は上向きからやや横向きに出る。木の横幅は平均2.17m。枝の節と節の間が2.96〜5.00cmと短いため、実の房が詰まって付く。葉は楕円形で、新芽は薄い緑色[6]
- 収穫量と味の評価
- 2019〜2021年の3年間で、生豆にして年1.72t/ha。味の評価は84.75点[6]
植えられている面積・木の特徴・収穫量・味の点数の出どころについて。 この4つは、ジョグジャカルタ特別州の種苗サイトに載っている数字です。そのページ自身はニュースサイトの記事を出典にしていて、農業省の決定書の原文はまだ確認できていません。味の84.75点が、どの採点方法で、誰が付けた点数なのかも書かれていません。
03
研究でわかっていること
SOURCE: Hulupi ほか(2013、インドネシア コーヒー・カカオ研究所)/ Wardiana ほか(2024)/ Happyana ほか(2021)- 2009〜2010年の試験:収穫量
- ガヨ高地の標高の違う複数の畑で5品種を比べた試験で、アテン・スーパーの収穫量は生豆にして平均1,760kg/haと最も多かった[1]。ただし年や畑による差が大きく、「安定しない」と判定された。このため、この時点ではガヨ高地にすすめる品種には選ばれず、ティムティム・アチェとボルボルがすすめられた[1]
- 収穫量が安定しなかった理由
- 背の低い品種は、植えてすぐの時期にたくさん実を付けるが、たくさん実った年の次の年は実が減りやすい。肥料や手入れも多く必要で、実を付けすぎると次の年に葉が落ち、木が早く弱る[1]
- 2019〜2021年の試験:収穫量
- 植えて12年の木を標高900mと1,500mの畑で3年間調べた試験では、ガヨ3(アテン・スーパー)が3品種の中で収穫量が多く、しかも安定していて、ガヨ高地のさまざまな畑に合うと判定された[3]。2009〜2010年の結果と違う理由について論文は、当時の農家の多くが肥料や手入れを基準より少なくしていたため、たくさん実った次の年に減る性質が強く出たのではないか、と書いている[3]
- さび病
- 標高1,200m以上の畑で、被害の程度を示す指数は2.9%。調べた品種の中で最も低く、「強い」と判定された[1]▲
- コーヒーの実に入る虫(コーヒーノミキクイムシ)
- 標高1,200m以上の畑で、実の29.4%に虫が入っていて、「やや弱い」と判定された[1]。ガヨ高地は一年中まんべんなく雨が降るため、アテン・スーパーは一年中実を付け、収穫が途切れない。そのため虫のえさも途切れず、被害が大きくなる、と論文は説明している[1]
- 生豆の形
- 形のそろった豆が88.0%。丸豆(ピーベリー)4.5%、大きすぎる豆(エレファントビーン)5.5%、3つに分かれた豆1.0%、中身のない豆1.0%。評価は「とても良い」[1]
- 味の評価(2009〜2010年)
- アメリカスペシャルティコーヒー協会(当時)の方式で採点。好ましさの点数は10点満点で7.67、評価は「とても好ましい」[1]
- 生豆の成分
- 西ジャワ州の標高約1,600mの同じ畑で育てた3品種の生豆を比べた研究では、アテンはトリゴネリン、ショ糖、クロロゲン酸(5-CQA)、カフェインがいずれも3品種の中で最も多かった[4]。成分の組み合わせは、同じカティモール系の「シガラルタン」とよく似ていた[4]。この研究のアテンが、アテン・スーパーかどうかは論文に書かれていない
2013年の論文の中で、書いてあることが食い違っている箇所があります。 本文と要旨では、アテン・スーパーの収穫量は「安定しない」と書かれています。ところが最後のまとめの3番目だけは「収穫量は多いが、安定している(tetapi stabil)」となっています。表の数値(年ごとの変動を示す値が2.24で、基準の1から大きく外れている)は本文と一致するので、このページでは本文に合わせて「安定しない」としています。
04
「アテン」と書かれた豆を見るときの注意
- どちらのアテンか
- 「アテン」とだけ書かれている場合、アテン・スーパー(ガヨ3)なのか、古いアテン・ジャルックなのかは、その表示だけでは分からない
- 「ガヨ3」という表記
- 国の優良品種としての正式な名前は「ガヨ3」。2022年に指定される前から、地元ではアテン・スーパーの名前で呼ばれてきた[2]
05
今後追加すべき項目
- WCR(World Coffee Research)の品種カタログには載っていない。 2026年10月16日に、カタログのアラビカ種の一覧を確認した。このため、インドネシアのコーヒー研究所の論文と、州・県の公表資料を出典にしている。
- 農業省の決定書(122/Kpts/KB.020/12/22)の原文 — 未入手。第02章の木の特徴・収穫量・味の点数は、原文で確かめてから書き直す予定。
- 2013年の論文の味の項目別の点数 — 表のアテン・スーパーの5項目の点数が、別の品種(S 288)の行とまったく同じになっていて、写し間違いの可能性があるため載せていない。好ましさの点数だけが違う。
- インドネシア コーヒー・カカオ研究所の『ガヨ・アラビカ栽培と加工の手引き』(2008年) — 2013年の論文が引用しているガヨ高地の品種の歴史の資料。未入手。
- Hulupi, R.; Nugroho, D.; Yusianto「Keragaan Beberapa Varietas Lokal Kopi Arabika di Dataran Tinggi Gayo(Performance of Some Arabica Coffee Local Varieties from Gayo Highland)」Pelita Perkebunan 29(2): 69–81(2013年8月)。著者はインドネシア コーヒー・カカオ研究所(Pusat Penelitian Kopi dan Kakao Indonesia)
- ベネル・メリア県 情報公開窓口(PPID Bener Meriah)「Kementerian Pertanian Lepas Kopi Arabika Gayo 3 Jadi Varietas Unggul Nasional」(2023年2月16日)
- Wardiana, E. ほか「Yield performance and stability analysis of three cultivars of Gayo Arabica coffee across six different environments」Open Agriculture 9(1)(2024年2月10日公開)
- Happyana, N. ほか「Metabolite Profiles of the Green Beans of Indonesian Arabica Coffee Varieties」International Journal of Food Science 2021: 5782578(2021年11月23日)
- アチェ州 農業・農園局 種苗検査所(BPSBTPH Aceh)「Kopi arabika varietas Gayo 3」(2023年1月16日)
- ジョグジャカルタ特別州 農業・食料局 種苗サイト(Jogja Benih)「Kopi Arabika Varietas Gayo 3」(2023年10月26日)。ページ内の出典はニュースサイト nukilan.id の記事
- Susila, W. R.「Targeted Study of the Arabica Coffee Production Chain in North Sumatra (The Mandheling Coffee)」(Jakarta, 2005年)。FAO公開の共通商品基金(CFC)・国際コーヒー機関(ICO)事業の付属資料 Annex E.5 — 第3章冒頭