HACHIMARU COFFEE ROASTERY
精製方法ページ / Processing

ギリンバサ(スマトラ式)Giling Basah / Wet hulling

インドネシアのスマトラ島北部などで行われている精製方法。ウォッシュドと同じように果肉を取り、発酵させて水で洗う。違うのはそのあとで、殻(パーチメント)が付いたまま乾かしきらず、まだ水分が40%前後残っているうちに殻を取り、生豆の状態で乾かす。英語では「wet hulling(ウェット・ハリング)」と呼ばれ、日本では「スマトラ式」「スマトラプロセス」とも呼ばれる。

殻を取るときの水分
35〜45%(ふつうの方法は11〜14%)
農家が売るときの状態
殻付き・水分40〜50%
殻を取る人
農家ではなく、仲買人
風味ができる仕組み
まだ分かっていない
01

ふつうのウォッシュドとどこが違うか

SOURCE: FAO・ICO 事業報告 Annex E.6
ふつうのウォッシュド
殻(パーチメント)が付いたまま、水分11〜14%まで乾かしてから、機械で殻を取る[2]
ギリンバサ
殻が付いたまま少しだけ乾かし、水分35〜45%のうちに殻を取る。そのあと、殻のない生豆の状態で乾かす[2]
殻を取る機械
乾いた豆に使う機械と同じもの。オランダ統治時代の設計をもとに、ジャワ島マランのクマジュアン社が作っているスクリュー式の機械で、乾いた豆なら1時間に約1トンを処理する。濡れた豆に使うときは、金属の部品をゴムの帯に替え、モーターを15馬力から25馬力に、回転を毎分600回から750回に上げる。濡れた生豆で1時間に約800kgを処理する[2]
02

北スマトラの農家での流れ

SOURCE: FAO・ICO 事業報告 Annex E.5(2005年、北スマトラ州3県の調査)

北スマトラ州の3つの県(フンバン・ハスンドゥタン、北タパヌリ、トバ・サモシル)で、農家・集荷人・仲買人・輸出業者に聞き取りをした調査では、地域ごとに細かな違いはあるものの、どこも次の9つの工程からなっていた[1]。

1. 摘み取り
多くの農家が、赤か黄色に熟した実だけを選んで摘む。毎週か2週に1回。一年中収穫できるが、多いのは8〜9月と2〜3月[1]
2. 水に浮かべて選別
一部の地域だけ。浮いた悪い実と、沈んだ良い実を分ける[1]
3. 果肉を取る
摘んだらすぐ、畑で木製の手回しの機械を使う[1]
4. 発酵
家に持ち帰り、ひと晩(12〜14時間)置く。袋に入れておく方法と、水に浸けておく方法がある。集荷人や仲買人は、水に浸ける方が味が良いと考えている[1]
5. 洗う
翌朝、川や沼で手で洗い、ぬめりと果肉の残りを落とす。このとき浮いた悪い豆を分ける[1]
6. 少しだけ乾かす
庭のシートに広げて、朝8時ごろから2〜3時間だけ天日に当てる。このときの水分は40〜50%[1]
7. 濡れたまま売る
殻付きの濡れた豆を、すぐ集荷人に売る。水分が多いので重さではなく量で取引し、「トゥンバ(2リットル)」が約1.05〜1.1kgにあたる[1]
8. 殻を取る(ウェット・ハリング)
集荷人は手を加えずに仲買人へ売る。殻を取るのは仲買人[1]
9. もう一度乾かして選別
仲買人が生豆を乾かし、風で軽いごみを飛ばし、選別して、水分13〜16%にしてからメダンの輸出業者へ売る[1]
03

なぜこの方法なのか

SOURCE: FAO・ICO 事業報告 Annex E.5

同じ調査で、農家や普及員が挙げた理由は5つあった[1]。

1. 市場が求めている
輸出業者によると、この方法で作った豆の需要は安定している[1]
2. 昔からのやり方
親の代や周りの農家と同じやり方を続けている[1]
3. 早く現金がほしい
しっかり乾かすと2〜3週間かかる。市場の日は毎週決まっているので、1週間以内にお金にしたい[1]
4. 家族の人手が足りない
しっかり乾かす方法より手間が少なく、ほかの仕事に時間を回せる[1]
5. 一年中雨が多い
雨の多い気候で水分20%以下まで乾かすのは効率が悪い。乾燥の設備は仲買人や輸出業者の方が整っている[1]
04

風味との関係:試験の結果

SOURCE: FAO・ICO 事業報告 Annex E.6(2004〜2005年の試験)

スマトラ北部の豆の「マンデリンらしさ」(酸味が少なく、スパイシーで、土っぽい厚みのある味)がどうして生まれるのかは分かっていない、と報告書は書いている[2]。それを確かめるため、北スマトラの6か所の豆を7通りの方法で処理し、42の見本を4つのコーヒー会社が中身を知らせずに味見した[2]。

マンデリンらしさは再現できたか
どの処理方法でも、安定しては再現できなかった。味見した人からは、全体に「きれいすぎる」「厚みが足りない」「色が緑すぎる」という声が出た[2]
いちばん近かった方法
洗った翌日にすぐ殻を取り、そのまま水分12%まで乾かした方法。4人中3人が「いちばんマンデリンらしい」と選んだ見本も、この方法だった[2]
殻付きのまま乾かした場合
比べるために、殻付きのまま乾かす方法(ふつうのウォッシュド)でも作った。こちらは酸味が強く、きれいな味と評価される傾向があった。ただし、違いを感じなかった人もいた[2]
濡れたまま長く置いた場合
殻付きの濡れた豆を1〜2週間置いてから殻を取ると、カビが増え、カビ臭い味が出やすくなった[2]
報告書のまとめ
洗ってからすぐ殻を取ることが、マンデリンらしさを出し、カビ臭さ・酸っぱさを防ぐのにいちばん良さそうだ。ウェット・ハリングはマンデリンらしさに欠かせない一部に見えるが、どんな役割をしているのかは分からない[2]
「良いマンデリン」の見分け方として挙がったもの。 北スマトラの輸出業者・仲買人・集荷人は、良い豆の特徴として「香りが強い」「粒が大きい」「きれいで明るい」「灰色から青色」の4つを挙げている。ただし、なぜそれで味が判断できるのかの説明はない、と報告書は書いている[1]。
05

カビへの注意

SOURCE: FAO・ICO 事業報告 Annex E.5・E.6
危ない水分
水分が19%(水分活性0.8)を超えると、カビ毒の一種オクラトキシンA(OTA)が生じやすい。ギリンバサでは、少し乾かしてから仲買人に渡るまで豆の水分が40〜50%あるので、乾燥・保管・取引の段階に注意が要る[1]
試験での検出
42の見本のうち7つで、オクラトキシンAがわずかに(0.07〜2.24ppb)見つかった。そのうち4つは、濡れた豆を14日間置いてから処理したものだった[2]
06

この資料で分かることと、分からないこと

資料について
2つとも、国連食糧農業機関(FAO)のサイトで公開されている、共通商品基金(CFC)と国際コーヒー機関(ICO)の事業(番号 CFC/ICO/06)「カビの発生を防いでコーヒーの品質を高める」の報告書[1][2]
調べた場所と時期
北スマトラ州(マンデリンの産地)で、2004〜2005年。アチェ州(ガヨ高地)は調査の範囲に入っていない
呼び名
報告書では英語で「wet hulling」と書かれていて、「ギリンバサ(Giling Basah)」というインドネシア語の名前は出てこない
ICOの国の一覧での扱い
ICOの原産地証明書の規則にある国の一覧では、インドネシアで主に使われる精製方法は「乾燥式(Dry)」とされている(→麻袋の番号の読み方 02)
07

今後追加すべき項目

  • アチェ州(ガヨ高地)でのやり方 — 今回の資料は北スマトラだけ。アチェ州の一次資料は未確認。
  • インドネシア コーヒー・カカオ研究所(ICCRI)の研究 — 2005年の報告書は、くわしい研究をICCRIが進めていると書いている。その結果は未確認。
  • ガヨ高地の豆を比べた論文 — Sinaga・Julianti(2021、IOP Conference Series 782)がガヨのアラビカ種でセミウォッシュドとフルウォッシュドの豆の形を比べている。本文は未読。
  1. Susila, W. R.「Targeted Study of the Arabica Coffee Production Chain in North Sumatra (The Mandheling Coffee)」National Consultant Report(Jakarta, 2005年)。FAO 事業 Enhancement of Coffee Quality through Prevention of Mould Formation の付属資料 Annex E.5(2026年10月16日取得)— 第3章(農家での工程)、第4章(取引と仲買人の処理)、第5章(まとめ)
  2. Marsh, A.「Storage of wet Arabica parchment prior to wet hulling including the storage of dry green bean coffee — "Origins of Mandheling Coffee Character"」Project GCP/INT/743/CFC – CFC/ICO/06(FAO 付属資料 Annex E.6、2026年10月16日取得)— 要旨、1 Summary、2 Background